085「オメガ様ガチつよ勢運営(1)」
——世界探索者ギルド協会イギリス総本部『ギルドマスター室』
「どうやら良いスタートが切れたようですね」
「はい。上々の滑り出しかと⋯⋯」
各国に存在する『世界探索者ギルド協会』——その協会の総本部がここ『イギリス総本部』。そして、そのギルドマスター室で会話をしているのは『四天王キング』ソフィア・ナイトレイ』と『ナンバー6』ヨウ・リンファ。
本来、この部屋はイギリス総本部ギルドマスターであり、探索者世界ランキング第1位『四天王エースのアレクサンドル・アーサー』の専用部屋であるのだが、彼がほとんどギルドにいないことと、本人から「ソフィアが自由に使ってくれ」と直接言われていることもあり、現状この部屋は副ギルドマスターソフィア・ナイトレイが使っている。
そのため、ギルドスタッフからは『ソフィア・ナイトレイがイギリス総本部実質のトップ』とも言われており、またその認識はギルドスタッフだけでなく、各国の探索者たちも同じだった。
そんなギルドマスター部屋で話すソフィアとリンファ。その話の内容はもちろん、
「電波ジャックから24時間経った現在——『えっくす』や『Facetalk』など主要SNSコンテンツでは『オメガ様ガチつよ勢』『電波ジャック』などが軒並みトレンドを独占しております。また『オメガ様ガチつよ勢ファン公式HP』からのファンクラブ登録者数もすでに10万人を突破いたしました」
⋯⋯『オメガ様ガチつよ勢』の話だった。
「素晴らしい」
「あと、今回『表向きのオメガ様ガチつよ勢運営者』と『マスコットキャラクター』として起用した『三賢人』たちのチャンネル登録者数もこのタイミングで300万人を突破したようです」
「あらあらまあまあ。彼らもさぞ喜んでいることでしょうね」
「ソフィア様。⋯⋯彼女らです」
「あ、おほほほ。そうでした、そうでした。ほら、あの子たちが探索者デビューする前のことを知っているから、つい⋯⋯。あなたもご存知でしょ、リンファ」
「ええ⋯⋯まぁ、そうですね」
「それにしても、探索者としてデビューして5年で『A級探索者クラン』まで昇り詰めるとは⋯⋯正直、そこまでは予想していなかったわ」
「そうですね。特にリーダーの『エレーナ・ツヴァイコフ』。彼女単体では『S級』ですからね」
「ええ。それに今はただの『S級』ではなく⋯⋯探索者世界ランキング第6位『ナンバー6エレーナ・ツヴァイコフ』ですから⋯⋯わからないものです」
「それを言ったら、私からしたらエレーナが『男』であることがわからないです。彼⋯⋯いや彼女はどう見ても女性⋯⋯『美少女』にしか見えません」
『エレーナ・ツヴァイコフ』
探索者世界ランキング第6位『ナンバーズ6』。イギリス総本部に在籍するS級探索者であり、A級探索者クラン『三賢人』のリーダーを務める。
そんな傑物の外見は、美白で透き通った眩しい肌と誰もを虜にする『青い瞳』が印象的な⋯⋯『男の娘』であった。
元々、エレーナは探索者になる前は自分のこの『女のような容姿』と『可愛いもの好きの性格』にコンプレックスを抱いていたが、探索者になってからはそれらのコンプレックスをすべて受け入れ、それどころか前面に『男の娘』をアピールしていく。
そんなエレーナ・ツヴァイコフの『男の娘』としての言動や行動⋯⋯そして探索者としての活躍により、世間は『男の娘としてのエレーナ・ツヴァイコフ』を受け入れた。
いや、それどころか『つよカワ男の娘』という『世界共通語』さえ誕生させたのだった、
そして、そんな彼女のもたらした功績は、同じ悩みを持つ世の『男の娘』たちに勇気と希望を与えることとなり、その結果——エレーナ・ツヴァイコフは『男の娘神』と呼ばれるなど、絶大な影響力を持つこととなった。
そんなエレーナ・ツヴァイコフ率いる『三賢人』を今回の『オメガ様ガチつよ勢表向き運営者&マスコットキャラクター』として起用したのは当然の帰結ではあった⋯⋯のだが、
「でもまさかエレーナが⋯⋯本物のオメガ様ガチつよ勢だったとは。はぁ⋯⋯」
と、リンファはそう言って大きなため息を吐く。
「そうですね。私もまさか、あれほどだとは知りませんでした。はぁ⋯⋯」
そして、ソフィアもまたリンファと同じく大きなため息を吐いた。
「だって、今回の件も彼女がどこから知ったのかこの『オメガ様ガチつよ勢表向き運営者&マスコットキャラクター』の話を聞きつけて、私たちに直談判してきたわけですからね⋯⋯」
「そうね。彼女のあのイキオイには、さすがの私も断ることができませんでした⋯⋯」
当初、直談判してきたエレーナを見た二人は「この子危険だ⋯⋯」ということで断るつもりだった。⋯⋯が、エレーナはそんな二人の気持ちを知ってか知らずか、『私を起用した方がいい100の理由』なるパワポ資料を持参してプレゼンを行う。
それを見た二人は彼女の『狂気に近いオメガ愛』はかなり不安があるものの、彼女のプレゼンで進言していた『エレーナ・ツヴァイコフという影響力』は「確かに使える」と二人は判断。
結果、二人は「『諸刃の剣』になるかもしれないが彼女を採用するのは最適解」ということで、危険を承知の上で、その危険を背負う覚悟のもと彼女を採用した。
「実際、エレーナ・ツヴァイコフを採用した結果、そのクランである『三賢人』の協力も得られ、そして、現在その多大な結果をもたらしていますからね。これは『エレーナ・ツヴァイコフの影響力』によるもので間違いないでしょう⋯⋯」
リンファはそんな『エレーナ・ツヴァイコフの影響力』についての話をする。⋯⋯が、その心境は複雑なのだろうなと感じさせるほどには表情に出ていた。
「ふぅ⋯⋯まあいいでしょう。大丈夫です。エレーナがオメガ様と直接顔を合わせることがないようにすれば、大きな混乱も起きないでしょう」
「⋯⋯そうですね。ただ彼女が直談判したときのプレゼン内容とその後の彼女の『想い(重い)』を聞いた私としては全然安心できないですが」
「⋯⋯そう⋯⋯ですわね」
「「はぁぁぁ〜」」
メディアへの電波ジャックはうまくいったのだが、今度は『内輪の問題』で頭を悩ませる二人だった。