084「記者会見後(雨宮さん家の3人)(2)」
「「オメガ様ガチつよ勢⋯⋯」」
「そうだ。この『オメガ様ガチつよ勢』⋯⋯私が思っている以上にバックには巨大組織が関わっていると思われる」
「え? 巨大⋯⋯組織?」
「ど、どうして、そんなはっきりと言えるんですか!」
「⋯⋯テレビをつけてみろ」
「え?」
「テレビだ。地上波のどこでもいい」
「?? は、はい⋯⋯」
「??」
雨宮が如月さんの指示通り、テレビを『PC画面』から『地上波デジタル』へと切り替えた。すると、
『は〜い、どうも〜!『オメガ様ガチつよ勢運営』で〜す!』
「「⋯⋯は?」」
画面には、可愛らしい女の子3人組が映っていた。いや、こいつらって⋯⋯
「この3人組って⋯⋯イギリス総本部のA級探索者クラン『三賢人』じゃねーか?!」
「ほ、本当だ⋯⋯」
俺と雨宮はその『3人組の女の子』⋯⋯ではなく『女性のような男』、いわゆる『男の娘』で構成される有名探索者クランの姿を見てただただ唖然とした。
「ちなみに、この電波ジャックは日本だけではなく、海外の主要メディアも同じ状況だ」
そう言って、如月さんはいつの間にかYo!Tubeでその海外の主要メディアが電波ジャックされている映像をノートPCで観せてくれた。
「『オメガ様ガチつよ勢』って、一体何なのよ?!」
雨宮が半ば放心状態でぽつりと呟いた。
「⋯⋯さーてね。ただこの電波ジャックされている映像では『オメガの今後の活動を影ながら支える組織』と言ってて、『オメガ様ガチつよ勢ファン公式HP』では『オメガの魅力を恒久的に伝えていく活動組織』と書いてあったな」
「「ファン公式⋯⋯ホームページぃぃ!!!!」」
ということで、これまた如月さんにその『オメガ様ガチつよ勢ファン公式HP』なるものを見せてもらった。ホームページのトップにはオメガのシルエットのようなものが、うっすらと『背景画』にあり、『ミステリアスな人物』を想起させるような作りになっているが、暗いイメージではなくむしろ女性に好まれるような⋯⋯『女性ターゲット』を意識した作りになっていた。
「け、結構、良いサイトじゃない⋯⋯」
雨宮は最初こそ驚いてたものの、サイトをいろいろ触っていくと好印象を受けた様子。
「⋯⋯マジか」
俺はさっきまで困惑していた雨宮が短時間でこのサイトを気に入る発言をするのを見て、いかに完成度の高いサイトなのかを実感した。
「どうやら今のお嬢の反応を見て佐川君も理解したようだね。そう、このサイト⋯⋯相当計算されて作られているプロの仕業であることは間違いない」
「えっ! わ、私の反応! 私、何か変なこと言った?!」
「いやいや、そんなことないよ、お嬢。私だってこのサイトはオメガの魅力を引き出した素晴らしいサイトに見えるよ。ただ、私が言いたいのは、それだけ金をかけて作られているサイトだと容易に想像ができるくらい完成度の高いこのサイトを見ると、尚更『オメガ様ガチつよ勢』はただのファンコミュニティーとは違うと断言できる⋯⋯それを言いたかったんだ。わかるかい?」
「う、うん」
「さっきまでは櫻子の記者会見の成功の有無を確認する程度の情報収集だったが、事態は別ベクトルへと大きく移行した。まず今やるべきは『オメガ様ガチつよ勢』の背景を探るのが最優先事項だ」
ごくり⋯⋯。
な、なんか、すげぇ大きな話になってきてるような⋯⋯。
ま、まー、でも俺は関係ないから大丈夫だよね?
「⋯⋯佐川君」
「ひゃい!」
「悪いけど、君⋯⋯無関係じゃないからね?」
「え⋯⋯?」
「ていうか、もうすでに主要キャストとして巻き込まれているから。だからまぁ⋯⋯観念しなさい」
「⋯⋯!」
マ⋯⋯マジかよ。
「そもそも、佐川君がこの雨宮バリューテクノロジー自社ビルの最上階で、この世界的天才科学者の私と、雨宮バリューテクノロジーCEOの娘であるお嬢と一緒にいる時点で⋯⋯『超VIP扱い』ってことだからね?」
「⋯⋯は、はい」
たしかに⋯⋯。
たしかに普通のただの高校生なら『天才・如月 柑奈』はもちろん、学校ではファンクラブがあり中々お近づきになれない人物として有名な『雨宮 理恵』と一緒にいるなんて⋯⋯外から見たら『超VIP扱い』なのは間違いない。
如月さんの言う通り『完全に巻き込まれた渦中の人間』であることを、俺は今ちゃんと実感した。
「よろしい」
そう言って、如月さんがニコッと愛くるしい笑顔を向けた。しかし、今の俺にその笑顔は「逃げられないからね?」という『脅迫めいた脅しの笑顔』にしか見えなかった。
というわけで、俺は「あ、これ逃げるの無理なやつだ」と観念した。
「さて、では私は早速櫻子のところへ行ってくるよ」
「え? 今から!?」
「ああ。一刻を争う事態かもしれないからね。『善は急げ』ってやつさ、お嬢」
「柑奈さん⋯⋯」
「⋯⋯」
どうやら、雨宮はこの事態に大きな不安を抱いているようだ。まー俺も同じだが。
「大丈夫さ、お嬢。何も今すぐどうこうという話じゃない。とりあえず情報収集も兼ねた作戦会議みたいなものだから」
「⋯⋯う、うん」
「⋯⋯」
雨宮はさっきから不安になると如月さんに子供っぽい仕草を頻繁に見せていた。⋯⋯たぶん、それだけ如月さんのことを『お姉さん』のように慕っているのだろう。
「佐川君」
「は、はい!?」
「君とお嬢にはさっき話した通り、学校でタケル君に会ったらちゃんと『オメガの正体がタケル君だと知っている』ことを伝えるんだよ。特に君はお嬢以上にタケル君からの信頼が一番厚い。だから、この仕事は君にしかできない仕事だ。だから⋯⋯頼んだよ」
「っ!? わ、わかりました⋯⋯!」
「うむ、いい返事だ。それじゃ、早速行ってくるよ。何かわかったら連絡する」
「わかりました」
「いってらっしゃい⋯⋯柑奈さん」
「ああ⋯⋯行ってくる」