080「自分ファーストなちょろいん主人公」
「お? 記者会見、見とったのか? どうじゃ、お前の問題がすべて解決したぞ。よかったな!」
「よくあるかーい!」
「なぜじゃ?」
「なぜじゃ?⋯⋯じゃねーんだよ! 誰が『厨二病罹患者』だ、コラぁぁぁ!」
ギルマス部屋に戻ってきた櫻子に、俺はすぐに記者会見でこいつが言い放った『オメガは厨二病罹患者』という虚偽発言に激しく抗議。すると、
「⋯⋯(ジー)」
「うっ?!」
櫻子ちゃんがジト目で俺の顔をジーっと見つめる。
「お主⋯⋯真正の厨二病じゃろ?」
「なっ?! そ、そそ、そんなことはない⋯⋯!」
「え? だって、オメガのあの『デスマスク』に『黒装束&マント』は、どっからどう見ても厨二病罹患者じゃないか」
「そ、そんなことはないっ!? モ、モード系だよ、モード系!」
「ほ〜ん? モード系ね〜?⋯⋯『デスマスク』もモード系じゃと?」
「も、もちろん!⋯⋯前衛的だろ!」
「⋯⋯あ、はい」
「〜〜〜〜〜!」
シーン。
しばしの沈黙。
「⋯⋯のじゃロリ(ボソ)」
ビクゥー!
「お主⋯⋯ワシの信者から『俺たちののじゃロリギルマス櫻子ちゃん』やら『のじゃロリは人類にとって有益なもの』という話を聞いて『素晴らしいことじゃ〜ん』などと、それは大層喜んでおったそうじゃの?」
「え?」
ええっ?! な、なぜに⋯⋯なぜに櫻子ちゃんがそんなことを⋯⋯知ってるんだ?
ん? 信者?
あ、そういや⋯⋯いた!
「『ダンジョンのじゃロリ信者論』を語った⋯⋯あのおっさんか!」
「ちょっと何言っているかわからんのじゃが⋯⋯ま、そういうことじゃ。あの日⋯⋯F級探索者登録証授与式でお主に熱心に話しかけていた男は、ワシの『|手の施しようがないファン《生粋のファン》』じゃからの。そんな男にワシが一声かけたら⋯⋯奴は聞いてもないことまでベラベラとしゃべりおったわい」
「なっ!? ひ、卑怯な⋯⋯!」
櫻子がニチャァといやらしい笑みを浮かべる。
ち、ちくしょう、のじゃロリのくせになんて下卑た笑みを⋯⋯ありがとうございますっ!!
それにしても『のじゃロリ』が『おっさんほいほい』であることを鑑みれば、おっさんの口が饒舌になるのは至極当然な帰結⋯⋯!
なんて邪悪なっ?! のじゃロリ、おそるべし!
「そんなわけで、お前が『重度な厨二病罹患者』であることはすでにバレておる! 観念せいっ!!」
ズビシっ!⋯⋯と、人差し指を俺に向ける櫻子。
「俺の⋯⋯負けだ」
Q.E.◯.⋯⋯証明終了。
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「さて、寸劇はその辺にして⋯⋯これはお前にとっても良いことなのじゃぞ、タケル?」
「え?」
先ほどまでのコントのようなやり取りの後、櫻子ちゃんがそういって説明を始めた。
「よいか? 今回の記者会見でオメガが『重度の厨二病罹患者』であることが世間に完全に認識されたじゃろ?」
「お、おう⋯⋯」
なんだか複雑な気分ではあるが⋯⋯とりあえず櫻子ちゃんの話を聞いてみる。
「そうすることで、今後Dストリーマーオメガで活動する中で不用意な発言じゃったり、魔法を思わずブッパしても、お主が『今のは魔法だ』と言えば周囲は『ああ、《《彼にとってスキルは魔法だったな》》(ニコッ)』と勝手に解釈してくれる⋯⋯しかも笑顔付きで! なんせ、皆がオメガを厨二病罹患者として見てくれるからの!」
「は、はぁ⋯⋯」
「なんじゃ? 不満なのか?」
「当たり前だろ!『厨二病』って言われて嬉しいわけないだろ?!」
「⋯⋯本当に?」
「え?」
「本当に⋯⋯『厨二病』って言われるのは嫌か? なぜじゃ?」
「な、なぜって⋯⋯なんかバカにされてるみたいじゃないか⋯⋯!」
「本当に? 本当にタケル⋯⋯お主そう思っておるか?」
「え?」
「そうじゃないじゃろ? お主は他人からどう思われようと『我が道を進む人間』じゃろ?」
「! そ、それは⋯⋯」
「お主のこれまでの行動を見て、最初は『何も考えてないアホ』かと思っておったが⋯⋯」
おい。
「じゃが、しばらくしてワシにはわかった。お主は異世界で身につけた強大な力をもって、この理不尽な現代で『我が道』を貫きたいんじゃろ?」
「っ?!」
「『力』無き者にはそんなことはできない。『力』とはこの世界でいえば『腕力』や『権力』、今だとそこに『スキル』も加わるかの」
「のじゃロリ⋯⋯」
「しかし、お主は違う! 一度、異世界に行き『強大な力』を手に入れ、再び現代に戻ってきた今のお主なら、そんな『我が道』『わがまま』⋯⋯つまり『自分ファースト』を貫き通せることは可能なんじゃないか?⋯⋯いや、違うな。お主の中ではすでにこの世界で『自分ファースト』を貫き通して生きていけると、そう思っておるんじゃろ?」
「!」
「⋯⋯フフ。どうやら図星のようじゃな。実際、49階層でお主の力を見たが、あれだけの強さがあれば確かにそう思うのも無理はない。しかし⋯⋯この世界はそんなに甘くないぞ?」
「そう、なのか?」
「うむ。異世界ではエルフ族の族長で、さらにはオリジナル魔法も持っているワシでさえ、この世界では『3番目』⋯⋯なんじゃぞ?」
「!」
た、たしかに⋯⋯。
エルフといえば周囲から魔素を取り込み魔力に変える技術『魔力制御』に特に長けている種族で有名。そして、その中でも一番魔力制御に長けているのがエルフ族の族長⋯⋯つまり櫻子ちゃんだ。
そして、この世界は異世界に比べ、かなり魔素が濃い。だから、魔力制御に長けたエルフ族の族長であれば、この濃い魔素をうまく取り込んで強大な魔法を使えるはず。
なのに、探索者として世界で一番強いというわけではないという⋯⋯事実。
「上には上がいる⋯⋯ワシはこの世界でその言葉を身をもって知ったんじゃ」
「マ、マジか⋯⋯。ちなみに、そいつらって、つまり探索者世界ランキングの第1位と第2位のこと?」
「うむ、そうじゃ」
マジか⋯⋯。強大な魔法を使えて、さらには『空間転移』というオリジナル魔法を持つ櫻子ちゃんでも勝てない人間⋯⋯か。
ちょっと興味あるな。
「とはいえ、ワシはお主の『本当の強さ』もまた知らん。なんせ、あの魔王ベガを倒したのじゃ⋯⋯相当強いと踏んでおる」
「! あ、ああ⋯⋯」
「? じゃから、お主がその2人にまったく勝てないとは思っておらん。むしろ、お主が全力を出せば勝てる可能性があるかもしれんしの」
「櫻子ちゃん⋯⋯」
「あと、ワシはお主のような『自分ファースト主人公』は嫌いじゃないぞ? むしろ、応援したいさえある!」
「え?」
「ワシが現代に来た20年前に比べ、今の世界はまったくもって理不尽だらけじゃ」
「櫻子ちゃん?」
「そんな理不尽に⋯⋯まぁやりすぎはいかんが、そこそこ我を通して『自分ファースト』に生きてる奴が1人くらいいてもいいとワシは思っておる!」
「櫻子ちゃん⋯⋯」
「ワシの直属クランに入れるのもお主が今後、自分ファーストで動きやすくするための処置じゃ」
「そ、そこまで、俺のことを⋯⋯」
「まーワシの目が届かないところでやらかされると後処理が大変じゃからの!」
そう言って、櫻子ちゃんがニコッと微笑む。あらかわ。
「あ、ありがとう⋯⋯櫻子ちゃん。そこまで俺のことを考えて行動してくれてただなんて⋯⋯」
「気にするでない。お主は異世界からやってきた、たった一人の後輩⋯⋯じゃからな!」
「櫻子ちゃん⋯⋯」
こうして、俺は櫻子ちゃんの想いを知った。
これからは櫻子ちゃんに迷惑がかからないよう、ちょっとは危機意識を持ちつつ、でも、いつもどおりの⋯⋯『自分ファースト』を貫くぞ!
あれ? そういえば俺、そもそも櫻子ちゃんと何の話してたんだっけ?
ま、いっか。
——タケルが去った後
「ふむ⋯⋯何とかタケルに『厨二病罹患者キャラ押し付け作戦』をうやむやにさせ、且つ、『ワシはお前の味方じゃ作戦』も成功に終わったようじゃな」
そういうと、櫻子ちゃんは『一仕事終えた充実感』に満たされながら、『ひなあられ』をポリポリと頬張り、そこにウィスキーを流しこむと⋯⋯一言。
「ちょろいん!」
ああ⋯⋯理不尽。