008「初ダンジョン」
「さて、次はお待ちかね⋯⋯『探索者の収入』についての話をしよう」
会場が「キタっ!」とざわつく。
「まずは探索者の平均的な収入ということで話すが、まず1ヶ月一日5時間ダンジョンにダイブした場合と仮定して、F級探索者だと月の稼ぎは⋯⋯10万円ってとこだ」
10万円⋯⋯か。命を張る金額としてはかなり安いな。
「まーF級のままだとこんなもんだ」
参加者から落胆の声が上がる。しかし、
「⋯⋯だが、F級からE級へ上がれば月40〜50万。ヒラのサラリーマンの給料よりは稼げるようになるぞ?」
「「「「「おお〜!」」」」」
「さらに、D級まで昇りつめれば月60〜80万はいく」
「「「「「おおおおおおお〜!」」」」」
参加者がヒートアップした。俺もヒートアップした。
「そして、C級まで辿り着けば月100万をゆうに超える」
「「「「「うおおおおおおおおおおおお〜!」」」」」
参加者が今日イチの声をあげた。
「探索者稼業は、D級⋯⋯できればC級まで上がることを目標に皆、頑張って欲しい!」
と、講師が力強く声を上げる。
C級⋯⋯か。長い道のりかもしれないが、やりがいはあるな。
「ちなみに、ダンジョンでの売買はすべて登録証で行う。つまり、登録証には『決済機能』がついている。ダンジョンでは魔物を倒すと魔石が獲得できるが、たまに魔石以外にもアイテムを落とす。そんなアイテムの中には時たま『レア物』も出たりする。それだと、アイテム一つで100万を超えるのも結構多いから運が良ければF級でも臨時収入が手に入ることもあるぞ!」
「「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」」」
「あと、登録証はギルドでのやり取りだけでなく、普通に銀行やコンビニなどでも現金を引き出すことは可能だ。簡単に言うと、クレジットカードのように街中で支払いすることも可能ってことだ」
講座を聞いている皆が「すげー便利じゃん!」と一様に騒いでいる。
たしかにこの登録証の決済機能はすごいと思う。クレジットカードみたく街中でも使えるなんて。
「まーそれだけ国も企業もダンジョンから得られる魔石やアイテムを重要視しているということだ。何より日本は外国に比べ優秀な探索者が少ないという背景もあるから、他の国よりも探索者への期待が大きい⋯⋯。故に、この手厚い恩恵を受けられるってことだ」
国の事情⋯⋯ね。たしかにネットでも日本は諸外国に比べて優秀な探索者が少ないって書いてあったな。だからこその恩恵⋯⋯か。頷ける。
「そんなわけで、君たちにはぜひともD級と言わずC級⋯⋯。いやそれ以上の高みへ昇ることを願っている! 講座は以上だ! 解散っ!!」
こうして、皆のモチベーションを上げたところで探索者養成講座が終了した。
よーし、いっちょC級目指して気合い入れますかぁー!
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「お疲れ様、東堂」
「おう、洋子か。お疲れ」
「どうだった? 今日の『探索者の卵くん』たちは?」
「ダメだな、ありゃ。今回も大した奴はいなかったわ。F級探索者になれる奴さえ多くて5〜6人ってとこじゃねーか?」
講座を終え、1階の関係者控室に戻ってきた講座の講師『東堂』は受付の折笠洋子に愚痴をこぼす。
「そう? 私がさっき受付した男の子はかなり期待できそうな子だったけど?」
「何? お前が期待するだと? 珍しいな、めったにそんなこと言わないくせに」
「ええ。かなり化ける可能性がある子のように見えたわ」
「ほぉ、そこまでか? もしかして見逃したか? ていうか『子』って⋯⋯若いのか?」
「ええ。高校生って言ってたわよ」
「こ、高校生だとっ?! てことは、そいつ学校サボってるじゃねーか! そんな奴をお前通したのかよ?!」
「ええ。とても見込みがありそうな少年だったもの」
「そ、そこまでの逸材なのか?『A級探索者の折笠洋子』をもってしてそこまで言わせる高校生とは⋯⋯。名前は?」
「えーと、たしか⋯⋯あ、これ、これ! 結城タケルくんよ」
「結城⋯⋯タケル⋯⋯か」
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「よーし、やるぞー」
「うっし! 気合い入れてくぜー!」
わいわい⋯⋯。
探索者養成講座終了後、講座参加者はテンション高めのまま、探索者養成ギルド横に隣接されている『探索者養成ダンジョン』へと足を踏み入れた。
ここは全部で10階層ほどの小規模ダンジョンらしく、魔物も10階層まで行っても比較的弱い魔物しか出現しないことから、現在は探索者稼業を希望する者たちの養成用ダンジョンとして使用されている。
つまり、この『探索者養成ダンジョン』でレベル2に上がるまで「帰れまテン!」ということだ。
あ、いや、別に帰れはするけど。
——『探索者養成ダンジョン』
「へぇ〜、ただの洞窟⋯⋯かな?」
ダンジョンの中へ入ると、洞窟のような光景が広がっている。少しジメジメした感じだ。
「おりゃ!」
「そりゃ!」
カキン! カキン!
すると、あちらこちらで掛け声とともに武器のぶつかる音も聞こえてくる。早速魔物と対戦しているようだ。
「あ、二人で共闘してるのか!」
すると、二人は目の前のスライム3匹をあっという間に倒した。たしかに、共闘すれば一人よりも魔物を多く倒せる。
ただ、共闘⋯⋯徒党を組むのは相手のことをよく知らないと騙されることもあるが、俺たちはまだ『探索者見習い』みたいなもんだから、ぶっちゃけ騙すようなことをする奴はいないだろう。
騙したところで、養成ギルドに報告されれば騙した奴は恐らく探索者の道は絶たれるだろうからな。デメリットが大き過ぎる。
「共闘か。よし俺も誰かと一緒に⋯⋯」
俺も前の二人を見習って誰かを誘うことにした。
今は探索者養成講座の後だから「レベル2のレベルアップ」という同じ目的を持ったメンツがいるわけだから、恐らく容易に勧誘できる⋯⋯、
「⋯⋯あ」
周囲を見渡すと、他の探索者たちも共闘して魔物を狩っている。しかも俺以外の探索者たちはすでにグループを作り終えていたようだ。
「か、完全に、出遅れた⋯⋯」