079「記者会見(3)」
すべては『シナリオ通り』。
そして、櫻子は『仕上げ』に向けて、さらに言葉を続けた。
「今回ワシも含め皆も心を痛めたと思う。しかし、オメガはこうも言っておった。⋯⋯『俺はDストリーマーを通して探索者という無限の可能性を一人でも多くの人に伝えたいんだ!』と」
「「「「「⋯⋯くっ?!」」」」」
会場の記者たちの心に「こ、こいつ⋯⋯自分の病気を省みずにそんな殊勝なことを⋯⋯!」という「それに比べ俺たちときたら感」が広がっていた。そして、その空気を見逃さなかった櫻子が追い打ちをかけてく。
「とはいえ、今回オメガの不適切な発言によって、このような大騒ぎに発展したのは事実。いくらオメガが『重度の厨二病罹患者』でも自分のしでかしたことをちゃんと理解し反省してもらわねばならん。じゃからワシはあやつにあえて説教した⋯⋯そう、ワシの愛のムチをもって!!(ドーン)」
「「「「「おおーっ!!!!」」」」」
櫻子の言葉を聞いた会場に感動の空気が流れる。
——一方、掲示板では、
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——Dストリーマー掲示板総合スレ住人の反応
657:Dストリーマー名無し
「ワシの愛のムチをもって!!」
愛のムチ(意味深)
658:Dストリーマー名無し
「ワシの愛のムチをもって!!」
櫻子様、それ僕にもください
659:Dストリーマー名無し
「ワシの愛のムチをもって!!」
そのムチ、言い値で買おう
660:Dストリーマー名無し
>657、658、659
だめだ、こいつら
早くなんとかしないと
661:Dストリーマー名無し
手遅れ定期
662:Dストリーマー名無し
櫻子たんの愛が深いな
663:Dストリーマー名無し
ん? つまりはこういうことか?
オメガ様、厨二病罹患者ケテーイ
↓
おれたち(おまいら)、厨二病罹患者(もしくは予備軍)ナカーマ
↓
櫻子たん、そんな厨二病オメガ様を深い愛をもって包み込む
↓
よって、オメガ様と同じ厨二病のおれたち(おまいら)も
櫻子たんの深い愛をもって包み込まれる可能性がワンチャンある
664:Dストリーマー名無し
>663
天才か!
665:Dストリーマー名無し
>663
ギフテッドあらわる!
666:Dストリーマー名無し
そうか⋯⋯
櫻子たんって愛の化身だったんだなぁ
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と、感動してはいるもののその方向はナナメウエを向いてた模様。
そんな掲示板の妙な盛り上がりはさておき、櫻子は会場の記者たちの反応を見て小さくガッツポーズをする。
勝った!
櫻子が勝利を確信した瞬間である。
しかし、タケルの問題は⋯⋯まだ終わってはいない。
(とりあえず、これでタケルの『魔法発言』は解決じゃな。さて、次は⋯⋯)
などと、櫻子がまだ未解決のオメガの件を考えていると、
「あ、あの⋯⋯すみません」
「なんじゃ?」
「その⋯⋯オメガさんの『魔法発言』の真相についてはわかりました。ただ、あの『喋る魔物』を圧倒したあの力は何なのでしょうか? しかも、彼は動画で『F級探索者になりたてで⋯⋯』などと言ってました。つまり、F級探索者になった時点、いえ、もっと⋯⋯『探索者になる以前』から強かったのではないかと思われますが⋯⋯その辺はいかがでしょう?!」
まさに櫻子が今考えていた質問が記者から飛んできた。
しかし、今の櫻子にとってその質問は『想定内』⋯⋯よって死角はなかった。
「うむ。そのことなんじゃが、これは⋯⋯ワシもよくわかっておらん」
「「「「「は?」」」」」
そうなの?
という会場の空気。
しかし、櫻子は気にせず図太く切り込んでく。
「だっての〜、あやつにそのことを聞いても⋯⋯やれ『異世界に行って強くなっただの』⋯⋯やれ『魔王を倒すくらい強いだの』などと言うてな。そんなこと⋯⋯厨二病罹患者に言われてものぉ〜⋯⋯わかるじゃろ?」
櫻子は、ここで『オメガの強さの理由』を、『厨二病罹患者のオメガの発言なんて参考にならないから真相わからないんだよね〜』という、さきほどの『魔法発言の真相』で利用した『厨二病罹患者論法』をさらに利用。⋯⋯その『重ねがけ』の結果、
「そ、そうだな。オメガが精神的な病を患っている以上、彼の発言に信憑性は無いに等しい⋯⋯」
「ええ、そうよ。だって重度の厨二病なんだもの」
「オメガの強さについては皆が知りたいところだろうが⋯⋯しかし、それが罹患者の彼を追い込んでいい理由にはならない!」
「そのとおりよ! むしろ今後、彼に対しては暖かい目で見守っていってあげなきゃ!」
「ああ、そうだな!」
と、オメガの発言は『すべて厨二病によるものだった』と確定され、さらには『これからオメガを暖かく見守っていこう』という櫻子の思惑通り⋯⋯いやそれ以上の結果をもたらした。
もはや、会場で櫻子にさらに質問や意見をする者はいなかった。
そんな会場の様子を見て、櫻子は「頃合いじゃな」と判断し、最後の言葉を紡ぐ。
「ということで、オメガは『厨二病罹患者であること』『出所不明な強大な力を有していること』という特殊な事情があるため、今後はワシ直属のクランで面倒を見ることにした」
「「「「「ええっ?! ギ、ギルドマスター櫻子様の⋯⋯直属のクランっ!?」」」」」
櫻子の言葉に、会場が再び熱を帯びる。
「そのことについてはまた後日発表する。ということで話は以上じゃ! 皆の者、ご苦労じゃった。ではのっ!」
「さ、櫻子様ぁぁ!? 今の話もうちょっとくわしく〜!」
「櫻子様ぁぁ!! その直属クランの話をー!」
「オメガさんを直属クランにする⋯⋯それは諸外国に対しての牽制でしょうか!」
櫻子は『ギルマス直属クラン』の話を締めに持ってきたことで、元々の記者会見の主旨だった『オメガの魔法発言の真相』や『オメガの強さの秘密』を完全に霞ませることに成功。
こうして、今そこにある危機であった『記者会見』は、最終的には櫻子のシナリオ通りに⋯⋯いやそれ以上の成功をもって幕を閉じた。
これですべての問題は解決した⋯⋯はずだったが、しかし一人納得いかない者がいた。
「あ、あの⋯⋯のじゃロリ、この野郎ぉぉぉ〜〜〜!!!!!!」
それは、ギルドマスター部屋で記者会見を観ながら血の涙を流しては何度も発狂していた。
その者の名は⋯⋯Dストリーマーオメガこと結城タケル。
そして、そこへ、
「よっ、タケル! 問題はすべて解決したのじゃ!」
櫻子はオリジナル魔法『空間転移』を使って、記者会見場のプレスルームからタケルのいるギルマス部屋へと戻ってきた。
「⋯⋯」
「ん? どうした? 顔色が悪いぞ? 何かあったのか?」
「お⋯⋯」
「お?」
「お前が原因じゃぁぁぁいぃぃっ!!!!!」