078「記者会見(2)」
「どういうことでしょうか?」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
ここで司会進行役の加賀見から、何かに戸惑って話を躊躇する櫻子に言動を促すような言葉が出たのを見て記者たちは唖然とする。というのも、本来この時間は櫻子が発言する時間なので加賀見のそれは明らかなマナー違反であったからだ。
しかし、加賀見のこの発言⋯⋯実は『櫻子が指示した』ものである。
なぜか?⋯⋯それは加賀見に誘導してもらうことで櫻子のシナリオ通りの展開にもっていくためであった。
「⋯⋯順を追って説明するのじゃ。まずオメガが49階層に現れ、C級探索者クラン『戦乙女』を助けた時に起こした⋯⋯『喋る魔物バロン』の巨大火球を一瞬で氷と化し無力化したあの現象⋯⋯。オメガは『魔法』と言ったがそれは違う。あれは、今回初めて発見された『未発見スキル』じゃったのじゃ」
「「「「「な、なんとっ!!!!」」」」」
櫻子の説明を聞いて、会場の記者たちから思わず声があがった。
そして、そんな記者たちの反応もまた櫻子の『想定通り』であり、すべてはシナリオ通りに進んでいた。
「⋯⋯つまり、オメガの勘違いだったと?」
さらに、加賀見が櫻子のシナリオ展開を後押しする。
「そう⋯⋯なのじゃが、しかし、ただの勘違いという話でもないのじゃ」
「といいますと?」
「これは、とても言いにくいことなんじゃが⋯⋯これはあやつの⋯⋯オメガの病気のようなものでな⋯⋯」
「え? 病気⋯⋯ですか?」
「「「「「病気っ?!」」」」」
櫻子の発言に記者たちがざわつく。
「うむ。オメガは⋯⋯重度の『厨二病罹患者』なのじゃ」
「えっ!?」
「「「「「なっ!!!!!!」」」」」」
櫻子のこの発言は会場はおろか茶の間の視聴者も凍りついた。
しかし『掲示板』の反応は⋯⋯、
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——Dストリーマー掲示板総合スレ住人の反応
333:Dストリーマー名無し
【速報】オメガ様俺たちのナカーマと判明
な か ま
334:Dストリーマー名無し
よっしゃぁぁぁ!!!!
オメガ様、こっち側だったぁぁぁ!!!!
335:Dストリーマー名無し
そっか。オメガ様ってこっち側⋯⋯だったんだ
あれ? 何だろう? 目から汗が?
336:Dストリーマー名無し
>335
それはうれし涙ゆーやつや
337:Dストリーマー名無し
>335
泣いてもええんやで
338:Dストリーマー名無し
何だろう?
オメガ様が厨二病って聞いて
何だかわからないけど⋯⋯俺いま⋯⋯すごく感動してる
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と、謎の感動の嵐が巻き起こっていた。
櫻子の話は続く。
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「つまり⋯⋯『厨二病罹患者』のオメガなる探索者は、自分のこのスキルを『魔法』としたかったらしくてのぉ。ワシとしてはスキルも魔法も同じファンタジーみたいなもんじゃから別に間違っていないと思うのじゃが⋯⋯」
「厨二病⋯⋯罹患者⋯⋯。つまり、オメガは『重度の厨二病を患っている』と?」
「そ、それは、つまり、これまでの発言や行動はすべて、その妄想癖みたいなものから来ている⋯⋯そういうことですかっ?!」
「オメガなる探索者のこれまでの発言は、すべて⋯⋯虚言だと?!」
ざわ⋯⋯ざわ⋯⋯ざわざわざわざわざわっ!!!!
一度、静寂していた会場だったが一人の記者の質問を皮切りに次々と質問を櫻子にぶつけていく。
「静粛に⋯⋯静粛に願います」
司会の加賀見が冷静な態度で記者らに落ち着くよう促す。まー実際、加賀見から始まった流れなので「お前が言うな!」という話ではあるのだが、興奮した記者たちにそれを気づく者はいなかった。
しばらくして落ち着きを取り戻した会場⋯⋯そのタイミングを見計らった櫻子が再び発言する。
「今、お主らがワシに質問した内容は大体合ってる。ただし⋯⋯『虚言』というわけではないぞ? オメガの⋯⋯重度の厨二病であるオメガにとっては『未発見スキル』は『魔法』であり、それが『現実』になるのじゃ。⋯⋯そういうことなのじゃよ」
そういって、櫻子がフッと憂いを帯びた表情で優しく笑う。
その笑顔は悲壮感に満ちており、そんな櫻子の表情やリアクションに記者たちは彼女の言わんとしていることを⋯⋯やっと理解した。
「そうか⋯⋯オメガは⋯⋯そんな重い病気を患って⋯⋯!」
「さっきまで私は『オメガの真実を暴いてやる!』だの『オメガなんてどうせただのうさんくさい詐欺師でしょ!』なんて思っていた。そんな矮小で下劣な自分が⋯⋯恥ずかしいっ!!」
「そっか⋯⋯わかる、わかるよ、オメガ。俺だって一歩間違ったら厨二病罹患者になっててもおかしくなかったからさ。負けんなよ、オメガ⋯⋯くっ!」
「⋯⋯」
櫻子が憂いを帯びた表情から一瞬チラッと冷静な眼差しで会場の雰囲気を確認する。
現在、記者会見場では櫻子の『言わんとしていること』⋯⋯つまり『これからはオメガの言動をいちいち真に受けないでね。だって彼は重度の厨二病なんだからね。むしろ暖かい目で見守ってあげてね(ハート)』が一斉に広がり、同時にその場にいる記者たちほぼ全員に『自己嫌悪の空気』が席巻していた。
すべては『シナリオ通り』。
そして、櫻子は『仕上げ』に向けて、さらに言葉を続けた。