076「外野のみなさん(いまのところは)(2)」
「あら? わたくしはオメガのこと⋯⋯期待してますわよ?」
「「「「「っ!!!!!!」」」」」
ざわ⋯⋯。
今までの場の空気を一変するかのような『一石』を投じたのは、探索者世界ランキング第2位『四天王キング』——イギリス総本部の副ギルドマスターを務める『ソフィア・ナイトレイ』その人だった。
「ソフィア、君がこのオメガという『イロモノ』に期待してる⋯⋯だと?」
ソフィアの言葉に反応したのはハサン。
「ええ、そうです。あと『イロモノ』というのはどうでしょう?」
「イロモノじゃねーか」
「オメガについてはまだ何もわかりません。たしかに『イロモノ』かもしれませんが、しかし最初からそのような偏った視野では本質を見落とす⋯⋯かもしれませんよ?」
「⋯⋯それは、俺の目が節穴だと言いたいのか?」
ビリビリビリビリ⋯⋯。
二人の間に緊張感が走る。
「は〜い、そこまでですよ〜。ソフィア様、ハサンをおちょくるのは大概にしてくださいませ〜」
「まあまあ⋯⋯それは誤解というものですよ、リンファさん?」
「あと、ハサンはもう少しソフィア様への好意を抑えてくださいませ。オメガに対しての嫉妬がわかりすぎて『草』です〜」
「草、言うなっ! あ、あと、何で俺様が、ソフィアのことを、す、す、す、好きだとか⋯⋯勝手なこと言ってんじゃねぇぇー!!」
ハサンがリンファの的確な指摘にしどろもどろな切れ方をする。バレバレである。
「で? このオメガに対しての評価が現在『未知数』っていうんならどうすんの?」
そんな痴話喧嘩のような惨状にも『我関せず』とジト目で訴えながら結論を聞くセリナ。
「そうですね。まあ、今はとりあえず静観⋯⋯ということでしょうか?」
「つまり、現状特に気にする対象じゃないってことね?」
「そうなりますね」
「わかったわ。じゃ、あたし抜けるわね」
ソフィアとのやり取りで「もうこの場に用はない」と判断したのか、セリナがさっさと退出の言葉を投げる。
「オー、セリナ! 君が抜けると僕、寂しいよ!」
「うるさい! あたしは忙しいの! じゃあね!!」
——プツン
『セリナ・サンダースが抜けました』
「あらあら⋯⋯いつも忙しそうですわね、セリナさん」
「フン。チビっ子のくせに何が忙しいだ!」
「あら? ハサンは『ロリ』は対象外ですか?」
「当たり前だ!⋯⋯ていうかリンファ! 何を聞いてんだ、お前は?!」
「いえいえ、ただアジア圏の男性は基本『ロリコン』だとどこかの国の掲示板で言っていたもので⋯⋯」
「それは『日本人』だけだっ!!」
(※だいたいあってる(By:中の人))
********************
——ソフィアとリンファ
「で、オメガ様の記者会見はまだですか?」
「はい。あと10分ほど⋯⋯ですね」
「まったく⋯⋯ハサンには困ったものだわ」
「ソフィア様がおちょくるからですよ」
「そんな⋯⋯わたくしはそんなつもりないですわよ?」
そう言って、ニコッとうさんくさい笑みを浮かべるソフィア・ナイトレイ。
「ところで、我々のことは探索者世界ランカーらには漏れてませんね?」
「もちろんです。我々『オメガ様ガチつよ勢』についての隠蔽は完璧です」
「さすがですわ、リンファさん。頼りにしています」
「ありがとうございます。ただ、オメガ様の記者会見に合わせて『オメガ様ガチつよ勢』のファンサイト公開をする話ですが、さすがに今日中には間に合いません」
「あらあら⋯⋯そうなんですね。残念」
「ファンサイトはどうしても来週になってしまうのですが⋯⋯ただ、『オメガ様ガチつよ勢のマスコットキャラ役』であり、且つ、表向きのファンサイトのオーナー役も務める『彼女』の準備はできております。これはいかが致しましょう?」
「そうですね。では、オメガ様の記者会見終了後、すぐに投入してちょうだい」
「かしこまりました。ではこちらは首尾通り⋯⋯彼女のテレビ・ラジオの電波ジャック、SNSでのトレンド独占、Yo!Tubeのおすすめ動画ジャックを行います」
「ああ⋯⋯楽しみだわ! ついに私たち『オメガ様ガチつよ勢』が世に広がっていくのね、リンファ!」
「はい、そうです! ついにこの日が来たのですよ、ソフィア様っ!!」
「あああああ⋯⋯オメガ様ぁぁ!! 我々の愛を受け取ってくださいませぇぇぇ!!!!」
目がキラキラ⋯⋯いやギラギラと輝く二人だった。
********************
——??と??
「で、どうでしたか?」
「そうね。まー予想通り『静観』⋯⋯といったところよ」
「そうですか。お疲れ様です」
そこは、どこかのある国の地下施設——そして、その地下施設の中に用意された『VIPルーム』に一人の女性と一人の男性が話をしていた。
「それにしても、まさか『あなた様』が現代で『探索者世界ランキング』のトップ10に名を連ねるとは⋯⋯」
「仕方なかったのよ。この世界で権力を持つために手っ取り早いのが『有名探索者』になることだったから。実際『お前』より数年早くこの世界で権力を持てただろ?」
「そうですね。まー私の現在の地位だとあなた様と同じ権力を持つにはもう少し実力を見せないといけなくなりますが、そうなると目立ち過ぎてしまいかえって動きづらくなるかと思って、なかなか⋯⋯」
「相変わらずの『心配性』ね」
「リスク回避が最善ですよ?」
「⋯⋯それは目立った行動をした私に対しての説教かしら?」
「⋯⋯」
女性は、その2メートルもありそうな『屈強な男性』に臆することなく睨みつける。
「滅相もない。私があなた様に仇なすなどあるわけないでしょう?」
男は女性の圧のこもった睨みにも特に動じることなく涼しげに答える。
「⋯⋯フン、まあいいわ。それよりもそっちは『準備』できているのかしら?」
「万全です。すでに世界中に散らばった『喋る魔物』らを地下施設へと集結させております。あとは我々が彼の国の例のダンジョンへと足を踏み入れ、そこにある『時空間転移魔法陣』を起動させれば、『喋る魔物』らを集めた場所に設置している『空間の歪み』から一気に転移させられます」
「わかったわ。では来週には向かうわよ」
「かしこまりました。では、私はこれで⋯⋯」
「ご苦労だったわ、ヴァルテラ」
そうして、男はVIPルームを出ていった。
「ふふ⋯⋯いよいよね。いよいよ悲願が達成するのね」
女性が妖艶な笑みを浮かべる。いや、妖艶というよりむしろ獲物を補足した『肉食獣』のそれである。
「この世界に来てからこれまで『人間』に擬態するという、我々『魔族』にとって屈辱的な想いをさせられてきたが、しかしそれももうじき⋯⋯終わる」
目の前にある大きな姿鏡に擬態を解いた本来の自分『女帝マーレ』の姿が映っている。そんな自分を鏡越しに見つめながら彼女が⋯⋯感情を吐き出した。
「魔王ベガ様の命を奪ったかつての親友よ、今度はかつての親友の私がお前の命を奪ってやろう。魔王ベガ様を失った苦しみ⋯⋯お前にも味わってもらうぞ、タケルぅぅぅ!!!!!」
——『記者会見』まで残り⋯⋯0秒