075「外野のみなさん(いまのところは)(1)」
——東堂と折笠洋子
「⋯⋯折笠、お前話聞いてる?」
「聞いてるわけ⋯⋯ないでしょぉぉがぁぁぁ!!!!」
俺の名は『東堂』。池袋ダンジョンに併設する『探索者養成ギルド』で常時開かれている講習会の講師をしている。⋯⋯とは言っても、時間が合う時にだけ入るアルバイト講師ではあるが。
そして、今話をしてブチ切れたのが『折笠洋子』。彼女もこの『探索者養成ギルド』で受付嬢のアルバイトをしている。
「⋯⋯櫻子、私たちにまた何の相談もしないであんなことを⋯⋯」
「まーいつものことだけどな」
世界探索者ギルド協会日本支部のギルドマスターであり、『探索者世界ランキング第3位』という『規格外探索者』の一人として世界的に有名な『櫻子』を『あの子』呼ばわりする彼女は、櫻子が現役探索者として一緒に活動していたクランメンバーの一人だ。
ん? 俺?
俺ももちろんクランメンバーの一人だ。ちなみに、折笠が「話を聞いていない」とブチ切れているのは、これから開かれる『記者会見』のことである。
「それにしてもえらい騒ぎになったな〜」
「何で他人行儀なのよ!」
「うおっ! い、いきなり何しやがる?!」
「あんたが『自分は関係ないから』的なこと抜かすからよ!」
折笠が結構ガチ目なストレートを俺の顔面に入れようとする。避けはしたがまともに食らったらまーまーやばいやつだ。⋯⋯ていうか、うちの櫻子&折笠やたら手を出すのやめてほしい。
「それにしても、あの『結城タケル君』が⋯⋯オメガだったなんて⋯⋯」
「ああ、ビックリだぜ」
実は、俺と折笠は今日の午前中⋯⋯つまり、オメガが第2回配信を開始する前に櫻子から収集がかかり、『オメガが結城タケルであること』を聞かされた。
「最初、櫻子がタケル君は『自分と同じ異世界の住人である可能性が高い』なんて言われた時はさすがに信じられなかったけど⋯⋯でも、今となっては納得しかないわ」
「⋯⋯そうだな」
そう、あの結城タケルは『この世界の人間ではない櫻子』しか使えない『魔法』を使ったのだ。それこそが『異世界の住人』である何よりの証拠である。
「まー櫻子の話だと当初は結城タケルを『自分直属のクラン』としてまずは保護してやらないと⋯⋯って言ってからな」
「そうね。櫻子も昔はいろんな連中から狙われていたしね」
「ああ。今朝の話では櫻子はもっと時間を使って結城タケルと信頼関係を構築したいと言っていたが、事態が櫻子の想像を遥かに超える速さで進展したからな。個人的に俺は櫻子に同情するよ」
「何よ、自分だけ! あたしだって櫻子には同情しているわよ! まさか、タケル君が私たちが思っている以上にあそこまで自分の力に『無頓着』だなんてわかるわけないわよ⋯⋯」
「⋯⋯だな」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
二人は大きなため息を漏らした。
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——探索者世界ランカーのみなさん
「オー! 日本にクレイジーな探索者現れましたー!!」
と、クラウド型Web会議システム『BOOM』ごしに、やたらテンション高いリアクションで話すのは探索者世界ランキング第8位『ナンバー8』——陽気な黒人、ブラジルの『ペドロ・ハドラー』。
「ナンバー8⋯⋯テンションうるさい!」
そんな『ナンバー8』に怯むことなくツッコむのは探索者世界ランキング第7位『ナンバー7』——見た目13歳の少女(だが成人だ)、アメリカの『セリナ・サンダース』。
「あらあら、セリナちゃんがだいぶ『おこ』ですからハドラーは少しリアクション抑えめでお願いしますね」
「オー⋯⋯わかりました」
「ふん」
と、ハドラーとセリナを制御するのは探索者世界ランキング第5位『ナンバー5』——スラッとした清楚美人の『ヨウ・リンファ』。
「えーでは、今回の議題ですが現在日本に突如現れた謎の探索者『オメガ』についての件ですが⋯⋯みなさんの意見はいかがでしょう?」
そのヨウ・リンファが議長という形で、BOOMによるオンライン会議が開かれた。現在会議には探索者世界ランキングのトップ10ランカーのうち、6人が会議に参加していた。
ちなみに、ランキング10位から5位までは『ナンバーズ』と呼ばれ、順位ごとに『ナンバー◯』と呼称。さらに、その上の上位4人は『四天王』と呼ばれ、上から『エース』『キング』『クイーン』『ジャック』とトランプの絵札で呼ばれている。
ちなみに、第3位である櫻子は『クイーン』と呼ばれている。
「意見と言われても、正直よくわからない⋯⋯というのが本音のところだ」
答えたのは、探索者世界ランキング第9位『ナンバー9』——スラリとした体型に甘いマスク、探索者をやりながら韓国のトップモデルも兼任する『パク・ハサン』。
「オー、どうしてですか? オメガはあの『喋る魔物』を楽々と倒したのですよ? それだけでも凄い実力者であることは間違いないんじゃないですか?」
ここで、ハドラーがハサンの意見に物言いをつける。
「それは認める。だが、それはそれだ」
「何が言いたいのです?」
「そのオメガという奴の実力が俺たちナンバーズに匹敵するほどのものかってことだよ」
「オー、なるほど。う〜ん⋯⋯たしかにそれはわからないですね」
ハサンのその言葉にはハドラーも同意する。そして、他の者たちも「たしかに⋯⋯」という空気が流れた——その時だった。
「あら? わたくしはオメガのこと⋯⋯期待してますわよ?」
「「「「「っ!!!!!!」」」」」
ざわ⋯⋯。
今までの場の空気を一変するかのような『一石』を投じたのは、探索者世界ランキング第2位『四天王キング』——イギリス総本部の副ギルドマスターを務める『ソフィア・ナイトレイ』その人だった。