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074「結城家のタケル兄ぃウォッチャー(アウトよりのアウト)」



 10月初頭とはいえいまだ残暑厳しい中、部屋でクーラーをガンガンにかける美少女がいた。⋯⋯名は『結城由美』。タケルの双子の妹。自称『タケル兄ぃウォッチャー』。


 そんなタケル兄ぃウォッチャーは、一度観れなくなったがすぐに再公開となった『オメガちゃんねる』の2回目配信の映像を何度も何度もループ再生していた。


 というか、前回の初回配信もこれまでに何度もループ再生していた。


 現在はチャット機能が復活しているが、初回配信の時はタケルがチャット機能をオフにしていたため『映像』しか観れない状態だった。しかし、彼女にとってそれは些事でしかなく「チャット機能など所詮デジタルの造形物に過ぎず。私の脳内変換チャットボイスで補完余裕!」とのたまうほどには何度もオメガの動画を見ていた。


 ちょっと何言っているのかわからないあたり、これが由美らしさとも言える。


 さて、そんな由美が49階層で『喋る魔物バロン』の手から出た謎の巨大火球を一瞬で凍らせ、C級探索者(シーカー)クラン『戦乙女(ヴァルキュリー)』を助けたオメガの口から出た「魔法」と言う言葉を聞いて思わず呟いた。


「あ、あれ(・・)ってやっぱり『魔法』⋯⋯だったのかも」


 由美が呟いた『あれ』とは、タケルが異世界から現代に戻ってきた日の夜——自身の部屋でやらかした『魔法と異世界産アイテム(ストレージ(最高))によるお部屋一発清掃』によるもので、それを『設置した5台のWebカメラ』が捉えた映像のことを差していた。


「さ、最初は『黒い渦を巻く穴』が現れて、それに物がどんどん吸い込まれるように消えていったから『ポルターガイスト現象』か何かと思ってガクブルしてたけど⋯⋯あれって今思えばタケル兄ぃが『魔法』を使って部屋の掃除をしてた⋯⋯てこと?」


 そう、由美は夏休みに入る直前からタケルの部屋に5台のWebカメラを設置していた。理由は「大好きなタケル兄ぃを監視(ウォッチ)するのは妹の(たしな)み!(キリッ)」とのことだった。


 これまたちょっと何言っているかわからないし、むしろ『アウト臭しかしないセリフ』だったが、由美の中で監視(それ)は妹の嗜みらしい。⋯⋯ひぇ。


「でも、仮に⋯⋯あれが魔法かどうかは別にしても、この目の前の映像に映っている『オメガ』は間違いなくタケル兄ぃ⋯⋯なんだよね?」


 由美は、タケルが今日の第2回配信をする前日——タケルが部屋で『オメガ』の衣装確認や決めポーズの練習の一部始終(・・・・)を観ていたため、オメガがタケルであることはその時点で知ってはいた。


 知ってはいたが⋯⋯しかし、配信映像でオメガが『魔法』をブッパしたり、魔物の中でも70階層以降に存在し別格な強さといわれている『喋る魔物』を圧倒したりと⋯⋯明らかなる『別次元の強さ』をこれでもかと見せつけたオメガが自分の身内であり、しかもあの大好きなタケル兄ぃである事実とどうしても繋がらず⋯⋯いまだ半信半疑でいた。


「で、でも、部屋で見たあの光景(魔法を使った部屋の掃除や、オメガの衣装で決めポーズを練習していた闇歴史)は紛れもない事実。実際、その映像もあるのだから絶対にオメガがタケル兄ぃであることは間違いない。でも⋯⋯」


 由美は、今日の配信を観ながらずっとその事でグルグル考えていた。


 そんな時、テレビのニュースやSNSで『新宿御苑ギルドでギルドマスターが記者会見を開く』という話題で盛り上がっているのを観て、


「この記者会見で、オメガのあの力が魔法かどうかがはっきりする。そして、それは同時にタケル兄ぃが魔法を使えるということと同義⋯⋯」


 そう考えた由美は、ネットでも同時配信となる記者会見の時間を確認する。


「残り⋯⋯1時間」


 由美は、記者会見5分前にアラームが鳴るようスマホでセットする。


「もし⋯⋯もしも、タケル兄ぃが魔法を使えるのが本当だとしたら一体どうやって手に入れたんだろ? ていうか、そもそもオメガがタケル兄ぃであることは紛れもない事実なんだけど⋯⋯じゃあ、タケル兄ぃはそもそもそんな規格外な力をどうやって手に入れたんだろう?」


——知りたい


 ただでさえ、人一倍好奇心旺盛な由美。そんな彼女からすれば、タケルが魔法を使える・使えない云々はあまり重要ではなく、むしろタケルのあの非常識な強さに強い関心があった。


 そうなった由美の好奇心はどんどんエスカレートしていくとまともな思考がどんどん削られていき、最終的には、


「いっそ、タケル兄ぃに『オメガがタケル兄ぃであることを知っている』と言ったほうがいいのでは?! だってタケル兄ぃは私たち『妹s(いもうとズ)』をこよなく愛しているのだから! きっとタケル兄ぃは喜んで直接話を聞かせてくれる!!」


 へと行き着いた。


 もはや、誰もが(※誰もが?)「こいつダメだ、何とかしないと」と思った⋯⋯その時、


「い、いや、待て⋯⋯私?! それはマズイ! だって⋯⋯だって、このことをタケル兄ぃに話したその先には『⋯⋯ところで、由美はどうやって俺の部屋のことを知ったの?』ってなるじゃん! そしたら⋯⋯そしたら⋯⋯」


 そう、自分がタケルにこの話を打ち明けるということは、同時に「タケルの部屋に5台のWebカメラを設置してウォッチしてました。すべては愛ゆえ⋯⋯」と愛ゆえの行動(監視)を打ち明けることに他ならなかった。


 こうして、由美はすんでのところで過度な好奇心から始まった思考の暴走に気づき冷静に戻る。しかし、冷静に戻ったとて、タケルへの告白はイコール『|タケル兄ぃウォッチャー《特殊性癖》の告白』に他ならないという『捨て身の覚悟』が必要である事実は変わらない。


「あああああああああ⋯⋯『ヤマアラシのジレンマ』ぁぁぁ!!!!」


 由美の苦悩は続く。



——『記者会見』まで残り1時間を切った


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