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073「佐川と理恵たん〜雨宮バリューテクノロジーを添えて〜(3)」



「なるほど。いいぞ⋯⋯いいぞ! やはり私の予想(・・・・)に間違いはなさそうだ!!」

「柑奈⋯⋯さん?」

「如月さん?」


 如月さんから今日イチであろう『狂気の波動』が漏れ出る。綺麗な顔をしているだけにその狂気を帯びた表情の迫力は半端ない。


「⋯⋯やはり、結城タケルとは何があっても関係を持つべきだな、絶対に。⋯⋯お嬢!」

「は、はい!?」


 突然、名前を呼ばれた雨宮はビクッとしながら直立不動に立つ。


「お嬢⋯⋯タケル君のことは好きかい?」

「え⋯⋯ええええ!! な、何ですか、突然っ?!」

「じゃあ、嫌いか?」

「嫌いではない⋯⋯です」

「そうか、よし! では、彼とすぐに結婚できるよう『貞徳(ていとく)』に頼んでこよう!」

「え! 父さんにっ?!」

「大丈夫! 私の後押しがあれば貞徳(あいつ)だって首を縦に振るさ。それに⋯⋯」

「それに?」

「貞徳は、私と櫻子と『あれ』を共同研究している研究者の一人だ。そして、タケル君はおそらく⋯⋯その研究とも深く関わっている可能性がある。だから、その話をすればあの(・・)貞徳もタケル君がお嬢の婿となることを認める⋯⋯いや、認めざるをえないだろうな」

「ちょっ!? 柑奈さん、勝手に決めないで下さい! 佐川も何か言いなさいよ!」

「いや、俺ぇぇぇ?! 正直、二人の話の間に入るのは⋯⋯ちょっと⋯⋯」

「何よ、男の子でしょ! 同級生の女の子を守る気概くらい見せなさいよ! これだから佐川は使えないのよ!」

「ええぇぇ⋯⋯」


 すげー、とばっちり受けた。


 すげー、理不尽。


「くっくっく⋯⋯なるほど、そうか」


 すると、如月さんが突然俺たちを見てニヤニヤしながらそんなことを呟く。え⋯⋯何?


「? 柑奈さん?」

「いや、すまんすまん。そうだな⋯⋯貞徳へその話を出すのはまだちょっと早いようだな。でも、とりあえず、タケル君には正体がオメガだということは伝えていいと思うぞ」

「えっ?! どうしてですか!」

「タケル君がすでに佐川君に『能力』を見せてるからね。でも、そんな佐川君を彼は『友達』と言った。てことはそれなりに今の佐川君を信頼していると思われる。⋯⋯ここまで大丈夫かい、お嬢?」

「う、うん」

「そんな佐川君にタケル君へ『お嬢に治癒能力について話した』ということを言ってもらう」

「えっ?! そ、そうなったら、俺また『トラウマ処刑ムーブ』がありそうで怖いんですけど⋯⋯。ていうかタケルから『バラしたらまたやるよ?』って最後通牒受けてるんで間違いなくやられるんですけど⋯⋯」

「大丈夫だ、佐川君! タケル君は治癒能力を持っているから何度も治せるんだろう? だから⋯⋯死ぬことはない!」

「い、いや、あの⋯⋯痛みはちゃんとあるんですけど⋯⋯」

「大丈夫! そんなの⋯⋯若さで乗り切れるさっ!!」

「ええぇぇ⋯⋯」


 あ、これ、断れないやつだ。


 如月さんの中でマストなやつだ⋯⋯だって、『狂気の波動』が半端ないもの。


「ワカリマシタ、ガンバリマス(遠い目)」

「そうか! やってくれるか! さすが私の見込んだ男だ、佐川君! さて、次に⋯⋯お嬢」

「は、はいぃぃっ!?」


 如月さんに詰められていた俺を見ていた雨宮が、矛先が自分に向かったと知ると表情が一気に強張(こわば)り緊張を高めた。


「今度はお嬢からタケル君に『治癒能力の話を知ったこと』を話してもらいたい。そして、もう一つ⋯⋯『雨宮バリューテクノロジーの私が君のその能力を知った上で協力を願い出ている』と言って欲しい」

「か、柑奈さんの名前を出していいんですか?」

「いい。何なら君の親父さん⋯⋯雨宮バリューテクノロジー代表の『貞徳』の名前を出しても構わない。それくらい、私⋯⋯いや私やこの会社⋯⋯何ならこの『日本』にとって、彼はとても重要な存在ってことなんだよ」

「「え? に、日本⋯⋯!」」


 如月さんの話がちょっとスケールが大きくなっているのを感じた俺と雨宮はつい呆気に取られてしまう。


「それに、おそらくタケル君のほうでも『信頼ある協力者』を必要としていると⋯⋯私は踏んでいる」

「ど、どうして!? どうしてそんなことが言えるんですか!」


 あらかじめ先読みをしてこの話をしているだろう如月さんを見て、俺は思わず二人の間に入ってどういうロジックなのかを聞いた。


「それはまだ秘密だ。でも、かなり高い確率でタケル君にとっても『雨宮バリュー(こっ)テクノロジー()の協力』は魅力的に感じてくれるはずだ」

「そ、そうなんですか⋯⋯」


 わからない⋯⋯わからないけど、でも、何か、如月さんの話には物凄い説得力がある。


 もしかしたらソレは天才如月さんにしか視えていない『タケルの何か』について、今かなりの確証を得たことでの言葉なのかもしれない。


 知りたい。


「⋯⋯わかった。それじゃあ佐川、今度私と一緒にタケル君と話をするわよ。まずは『治癒能力』の話から始めて、最終的には『オメガの正体がタケル君であることを知っている』という話に持っていきましょう。⋯⋯私も覚悟を決めるわ」


 と、雨宮が自分の覚悟も込めた言葉も入れて話をまとめた。


「ああ⋯⋯あと一つだけいいか?」

「何よ、佐川?」

「タケルに⋯⋯『あの時、自分の力でトラックから逃げることができた』なんてことは言わないでくれよな?」

「あ、当たり前でしょ!」



——『記者会見』まで残り1時間10分


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