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072「佐川と理恵たん〜雨宮バリューテクノロジーを添えて〜(2)」



「それとも、何だったら今ここであんたを⋯⋯」

「っ!?」


——その刹那、雨宮の体がブレた


「はい、ストーップ!」


 そう言って、如月さんが俺と雨宮の間に入ってきた。


「柑奈さん!? どうして止めるの! 柑奈さんだって知ってるでしょ?! 佐川(こいつ)がどれだけタケル君をいじめていたかを⋯⋯!」

「ああ、知ってる、知ってるとも。でも、今はもう違うだろ? それは過去の話だ」

「そ、そうだけどっ?! でも、佐川は⋯⋯」

「お嬢だって佐川君のこと見直していたじゃないか。『あいつがタケル君をいじめていたなんて、私には信じられない』って⋯⋯」

「え?」

「ちょっ?! 柑奈さん!」


 雨宮が顔を赤くさせながら如月さんに食ってかかった。


「とにかく! 今日はそういう話をするために佐川君を呼んだんじゃないだろう?『これからのこと』⋯⋯そのための収集だろう?」

「は、はい」

「よろしい。それじゃあ、早速その話をしようじゃないか。ちょうど記者会見まではまだ1時間30分ほどあるんだ。話をするにはちょうど良い時間だと思うぞ?」

「そ、そうですね。わかりました⋯⋯コホン」


 そういうと、雨宮が一度咳払いをすると大きく深呼吸をした。そして、


「では、これより⋯⋯オメガの正体がタケル君であることを本人に告げるべきか否かについての話し合いをします。忌憚なき意見をお願いします」



********************



「はい!」

「⋯⋯佐川」

「タケルに言ってもいいと思う」

「何で?」

「あいつは、なんだかんだで結構図太い⋯⋯いや、違うな。適当な性格だから普通に『バレたか』とか言うが、特には焦らず許してくれる気がする⋯⋯おわっ?!」


 突然、雨宮が俺に右ストレートを放ってきた。今()けられたのは偶然だ。


「ちょっと⋯⋯何、わかった風なこと言ってんのよ? 佐川のくせに生意気⋯⋯」

「いや、『忌憚なき意見』をさっきお願いしたのではぁぁぁ!!!!」

「! う、うるさいっ!?」

「はーい。この勝負、佐川君の勝ちー」

「柑奈さん?!」

「忌憚なき意見⋯⋯でしょ?」

「う⋯⋯は、はい」

「⋯⋯」


 な、何だろう?


 雨宮ってこんな⋯⋯ポンコツキャラだっけ?


「とにかく! 佐川の意見だけど、それはあまりに短絡的だと私は思う。だって、もしこれでタケル君がショックを受けて私たちの前から姿を消す可能性だってあるじゃない?!」

「え〜? いや〜あいつはそんなまとも(・・・)な性格じゃないと思うぞ〜」

「⋯⋯佐川君はタケル君のこと、よく知ってるんだね」

「あ⋯⋯えーと、そうですね。いじめていた時の話なのでここではとても話しにくいんですけど⋯⋯」


 と、俺はそう言ってチラッと雨宮を見る。


「何よ? 何もしないわよ!」


 雨宮がブスッとした顔をするもそのまま俺に話をするよう促した。


「あいつは、どんなにいじめられても、何て言うか、他人事というか⋯⋯」

「他人事?」

「はい。いじめられているのは自分なのにそれすらも『許容』しているというか『諦観』しているというか⋯⋯言葉にするなら『理不尽な世の中だから俺がこうなるのもしゃーないか』って心の中で思いながら生きている感じというか⋯⋯」

「⋯⋯ふむ、興味深いな」

「柑奈さん?」

「いわゆる『諦念(ていねん)の境地』かな? いや、それとはまたちょっと違うか⋯⋯。まーでも佐川君が見て感じたタケル君像は『人生を投げ出すほどではないにしろ、期待もしていなければ、何なら少し諦めてさえいる』⋯⋯そんな感じなのかな?」

「はい⋯⋯いじめられていた頃(・・・・・・・・・)のあいつであれば、ですが」

「⋯⋯何?」

「えっ?!」

「なぜかはわからないんですけど⋯⋯今のタケルはいじめられていた頃(あの頃)のタケルとは何か違うような感じがするんです」

「性格が変わった⋯⋯てことかい?」

「いえ、そんなことではなく、もっと根本的な何か⋯⋯というか⋯⋯。ちなみにそれを感じたきっかけは夏休み明けの2学期の初日からです」

「夏休み明けの⋯⋯2学期⋯⋯」

「私が⋯⋯タケル君に助けられたあの日⋯⋯」


 そう言うと、2人が黙って何やら考え事を始めた。そして、


「そういえば⋯⋯」


 と、雨宮が口を開く。


「2学期の登校初日——私がトラックに轢かれそうなところをタケル君に助けてもらったときなんだけど⋯⋯実は私、助けに来たタケル君の気配を感じることができなかったの」

「え? タケルの気配を感じられなかった? D級のお前が?」

「ええ。正直、あの時、私は単独であの事故を回避することはできたんだけど⋯⋯」

「まーD級は伊達じゃないからな」

「でも、タケル君がいつの間にか後ろにいて私を突き飛ばすと同時に、その反動を利用して自分もその場から離れたの。その時私は思ったの⋯⋯この人只者じゃないって。それで、タケル君のことを色々知りたくなって⋯⋯」

「それで、お前の方からタケルに接触したのか⋯⋯」

「ええ」

「なるほど。只者じゃない⋯⋯か。俺も雨宮みたいにあいつが『只者じゃない』ってのは知ってるし、何なら『体験』もしたぜ」

「「体験?」」


 そう言うと二人が興味を示したので、俺はタケルに仕返しされた、あの⋯⋯今思い出しても身の毛がよだつ『壊して治してループ』の話をした。


「え⋯⋯?(ドン引き)」


 おー、雨宮が目を点にしてすげえドン引きしている。貴重な表情だ。しかし、


「治した⋯⋯だとっ?! 傷を⋯⋯いや骨折すらも一瞬で治したというのか、佐川!」

「!⋯⋯は、はい!!」


 あ、如月さんの『狂気の波動』のスイッチが入った。しかもかなり濃い波動を感じる。あと、スイッチが入り過ぎたとき『佐川』って呼んでもらえるんだな⋯⋯。ちょっと嬉しい。


「なるほど。いいぞ⋯⋯いいぞ! やはり私の予想(・・・・)に間違いはなさそうだ!!」

「柑奈⋯⋯さん?」

「如月さん?」


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