071「佐川と理恵たん〜雨宮バリューテクノロジーを添えて〜(1)」
「えっと⋯⋯これはどういう状況⋯⋯だ?」
俺はいま『とあるビルの最上階』にいた。
「どうもこうも私の家に来ただけでしょ? 何をそんなにビビってんのよ⋯⋯s」
「ビビるわっ!!」
そう、そこは雨宮 理恵の住んでいる実家兼両親の職場。いや、職場というより『所有ビル』。もっというとこのビルまるごと『自社ビル』。⋯⋯なるほど、わからん。
場所は恵比寿。駅から3分以内の『好立地』⋯⋯というか『超高級物件』。そんな場所に30階建ての自社ビルを構えるのが世界的大企業『雨宮バリューテクノロジー本社』。
俺はそんな雨宮バリューテクノロジー本社『最上階28階』で暮らしている雨宮の家にお邪魔している⋯⋯意味わからん。
さらにそれだけではない⋯⋯。
「やーやー君かい? 結城タケルくんをいじめていたというお嬢の同級生の⋯⋯」
「は、はい⋯⋯佐川卓といいます。すみません⋯⋯そうです。俺はちょっと前まであいつをいじめていた⋯⋯そのいじめの張本人です」
声をかけられた人を見て俺は「ナマで初めて見た!」と一人興奮していた。
俺に声をかけてきたこの人は⋯⋯『如月 柑奈』という天才科学者で、この雨宮バリューテクノロジーの根幹をなす『AMAMIYAシステム』を産み出した開発者の一人。
この『天才・如月 柑奈』は世界的に有名な科学者で、世界的権威のある科学雑誌で論文発表やインタビュー記事が載るのはもちろん、海外のテレビ局や新聞・雑誌といった主要メディアに彼女の特集が組まれることもあるほどの人物だ。
そして、俺は中学のときからこの『天才・如月 柑奈』の大ファンである。
なので、そんな人から「タケルをいじめていた」と言われた時、俺は彼女に嫌われるのは当然嫌だったからこんな話はしたくなかった。だけど『タケルをいじめていた過去』について嘘は言えない。いや、言いたくなかった。
だって、あいつはかつていじめた俺のことを『友達』と言ってくれたから。
そんなあいつの言葉を俺は裏切れない。
だから、彼女に「いじめの張本人です」と真正面から伝えた。
正直、嫌われるだろうと覚悟していた。でも⋯⋯、
「⋯⋯ふむ、なるほど。どうやら心を入れ替えたようだね。良い目をしてる」
「え?」
まさか⋯⋯そんな言葉を彼女から言ってもらえるとは思ってもいなかったので俺は素で驚いた。さらには、
「私のファンにも関わらず、その私に対して真正面から『いじめをした張本人』だと言ったのは素直にすごいことだと思うよ」
などと言ってもらえた。
て、あれ?
「え? な、何で⋯⋯俺が如月さんのファンだということを⋯⋯?」
「はっはっは! そんなの⋯⋯初対面の人の情報を調べ尽くすのは当然のことじゃないかぁ!」
「っ!?」
ゾク⋯⋯!
その時、彼女⋯⋯『天才・如月 柑奈』の特徴の一つとして有名な『狂気の波動』という狂気のオーラが一瞬垣間見えた。それを感じた俺はつい、
「あざーっす!!!!」
などと、つい感謝の言葉が出てしまった!
ま、まずい! これじゃ、彼女に変な目で見られてしまう⋯⋯、
「へ〜⋯⋯私の狂気の波動を見てそういうリアクションかぁ。フフフ⋯⋯いいね、佐川君。君いいよ」
「え?」
何と⋯⋯俺はなぜだか彼女にそんな風に褒められてしまった。
「今後もいろいろとよろしくね?」
「っ?!」
すると、如月さんからさらなる『狂気の波動』が発せられた。俺はその波動に身震いしながらも、
「は、はい!」
と、できるだけ感謝の気持ちを込めた返事を返した。
やっぱ、最高だ⋯⋯如月さん。
「ちょ、ちょっとぉ!? 何で佐川が『スイッチ』の入った柑奈さんと意気投合してんのよっ!!」
そんな雨宮のツッコミで俺は正気に戻った。
********************
「さて、今日ここに来てもらったのは、わかってると思うけどタケル君のこと⋯⋯いえ『オメガ』の件よ」
「ああ」
俺たちは今、でっけぇリビングにある でっけぇテレビ(これ、100インチシアターだよな?)で『オメガちゃんねる』を観ていた。
ちなみに、さっき、一度動画が観れなくなったことがあり、今はまた観れるようになったのだが、その動画の復旧までの間、SNSやネットの掲示板などでは色々な憶測が飛び交っていた。
そして、その憶測についての話を雨宮が切り出す。
「さっきのこれってDストリーマーの運営のほうで一度動画を操作ミスで間違って非公開にしたのが原因だったって公式HPで公表していたけど⋯⋯本当にそうなのかしら?」
「さあ、どうかな。ま、いずれにしてもそれも含めて櫻子のほうで記者会見をやると言ってるんだ。そこで詳細がわかるだろう」
「⋯⋯」
さ、櫻子って⋯⋯。今、如月さんがギルマスの櫻子さんを呼び捨てにしたが⋯⋯一体どういう関係なんだ?
「あ、そうか。佐川君は知らないのか。実は私は櫻子とは『あること』で共同研究をしていてね⋯⋯その関係から櫻子とは仲良くしてもらってるんだが、その時にあいつから『呼び捨てで良いし、関係も対等で構わん』と言われているんだ。だから、まー気にしないでくれ」
「へ、へ〜、そうなんですね⋯⋯」
共同研究?『あること』? 一体何を研究しているんだろう?
「それよりも! 今回の49階層で出現した『喋る魔物』を圧倒したあのタケル君の話が先よ! タケル君って⋯⋯本当に何者なのよ、佐川っ!!」
と、雨宮が俺に怒鳴るように聞いてきた。
「し、知らねーよ!? 俺だって驚いてんだから!」
いや俺だってマジで意味わかんねーよ!
「嘘をついている⋯⋯ってことはないか。はぁ、佐川なら何かわかるって思っていたのに⋯⋯使えないわね!」
「は、はぁぁ〜?! て、てめえ! 喧嘩売ってんのか?!」
「何? やるの? D級の私と? F級のあんたが?」
「くっ!?」
「言っとくけど、私はタケル君をいじめていたあんたのこと⋯⋯まだ許してなんていないからね?」
「雨宮⋯⋯」
「あんたがこれまでタケル君のことをどういじめてたかの詳細を私は知ってる。⋯⋯だから、正直タケル君があんたのことを『友達』なんて言ってなかったら、私はとっくの昔にあんたをタケル君がいじめを受けた内容の倍以上のことをするつもりでいたからね?」
「⋯⋯」
「それとも、何だったら今ここであんたを⋯⋯」
「っ!?」
——その刹那、雨宮の体がブレた