065「櫻子の告白(3)」
「じ、時空間転移魔法陣っ!? そ、それは、さすがに無謀では⋯⋯?」
「そんなことないぞ? 何せ、あの『巨大魔法陣』は今も池袋ダンジョンに存在するし、今でもその魔法陣に周囲の魔素から取り込んだ魔力を注げば稼働するぞ?」
「そうなんだ!」
「うむ。ただ、その『巨大魔法陣』を稼働してもこっちからワシのいた世界に行くことはできん」
「え? 何で? 魔法陣を稼働できるなら移動できるんじゃないのか?」
「ああ。調べてみてわかったことじゃが、どうやらその魔法陣は異世界から『空間の歪み』に引き摺りまれた『出口』としての役割しかないようなのじゃ」
「ええぇぇ⋯⋯」
つまり、『出口』をいくら稼働したところで『入口』を見つける、または作り出さないと『出口』の役割しかない魔法陣は使えないということか。
「あ! だから、その『入口』を作ろうとしてるのか!?」
「そうじゃ。ただ一つ問題はあるがの⋯⋯」
「え? 問題?」
「いいか? ここで『入口』にあたる時空間転移魔法陣『入口用魔法陣』を開発したとする⋯⋯」
「ふんふん」
「その開発した『入口用魔法陣』の稼働が成功すれば、その先の『出口用魔法陣』を自動的に見つけてくれるのじゃが⋯⋯」
「え、自動!? この魔法陣にそんな機能あんの!!」
「⋯⋯ある。現在の研究でそこまでは明らかになっておるからの」
「マジか⋯⋯」
ちなみに、櫻子ちゃんの話では『入口用魔法陣』が『出口用魔法陣』を見つけると『ピコン!』とステータスに『出口用魔法陣の名称』が表示されるらしい。もちろん逆も然りだ。
いうなれば、スマホなどで『Wi-Fi検索』かけた時にアクセスポイントがダーッと表示されるような⋯⋯あんな感じでステータス画面に表示されるらしい。
ちなみに、池袋ダンジョンの『出口用魔法陣』の名称は『池袋ダンジョン出口』だそうだ。なぜわかったかというとステータス画面には、自動検索で表示される『入口用魔法陣』だけでなく、魔力を通して稼働させた『出口用魔法陣』の名称も表示されるからだ。
ちなみにこんな感じでステータス画面の『スキル欄』の下に表示されるらしい⋯⋯。
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入口用魔法陣:『空間の歪み入口』
出口用魔法陣:『池袋ダンジョン出口』
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ネーミングがすげーシンプルだけどわかりやすいな。俺は良いと思う。まあ、それはいいとして、
「『空間の歪み』が⋯⋯異世界を行き来する『入口用魔法陣』に含まれるとは⋯⋯」
てことは、つまり『空間の歪み』は人工物ってことになるが、そうなるとじゃあ一体何の目的で『空間の歪み』を? ていうか、そもそも誰が作った?
う〜ん⋯⋯何だか段々とよくわからなくなってきた⋯⋯。
そうだ! こういうときはアレだ!
「秘技⋯⋯『思考放棄』!!」
「突然なんじゃ! ていうか、何じゃその不穏なワードは!?」
「いや、『空間の歪み』が魔法陣って認識されるってことは人工物ってことになるけど、だとしたら『空間の歪み』って何の目的で作ったんだ?⋯⋯とか考えていたら、もう頭の中が段々とカオスになってきて⋯⋯。で、最終奥義・秘技『思考放棄』に至りました」
「なるほど。思考放棄はいかがなものかと思うが、その思考の方向性は間違っていないと思うぞ」
何か、結果的に褒められた。ちょっと嬉しい。
しかし、それにしても、これ作った奴って⋯⋯本当に何者なんだろ?
個人的に、この『時空間転移魔法陣』って『異世界産』と『現代産』のテクノロジーが融合した『オーバーテクノロジー産物』という感じに見えるが⋯⋯気のせいか?
「もう一度言うが、ワシが『入口用魔法陣』を開発しそれに魔力を流して稼働させると、おそらく、まず池袋ダンジョンの『出口用魔法陣』がステータスに表示されるはず。そして、その次に⋯⋯もし異世界に『出口用魔法陣』があればステータスに『異世界の出口用魔法陣の名前』が表示されるはずじゃ」
「で、もしステータスに池袋ダンジョン以外の出口用魔法陣の名前が出てきたら、それは異世界の『出口用魔法陣』である可能性が高いってことか」
「うむ。そして、その発見こそが⋯⋯現代と異世界の行き来が可能である確たる証拠となるのじゃ!」
マ、マジかぁ⋯⋯。
「ただ、異世界に『出口用魔法陣』があるかどうかじゃがな⋯⋯」
「たしかに」
そう。そもそも、この池袋ダンジョンの『出口用魔法陣』の入口にあたる『入口用魔法陣』は現状、自然発生する『空間の歪み』のみなのだから。
「⋯⋯たしかに『入口用魔法陣』が『空間の歪み』以外にも異世界に存在する可能性はゼロではないかもしれん。じゃが、そんなものがあるなんて話、長齢のエルフ族であるワシでさえ聞いたことがない。⋯⋯お主はどうじゃ?」
「⋯⋯無い」
「まぁそうじゃろうな。だがそうか⋯⋯やはりまだ異世界には『時空間転移魔法陣』は存在しないか」
「ああ」
「ワシが異世界で『空間の歪み』に引き摺り込まれ現代に来てから20年が経過し、そんな時に——お主が現れた。じゃからワシは直接お主に会って異世界で『時空間転移魔法陣』が開発されたかを聞きたかったのじゃ。⋯⋯20年という歳月であればもしかしたら、と思ってな」
「⋯⋯櫻子ちゃん」
「じゃが、やはりそううまくはいかないようじゃな。はは⋯⋯ははは⋯⋯」
「⋯⋯」
櫻子ちゃんは笑っていたがその笑顔はカラ元気で作られた笑顔で⋯⋯そんな笑顔を直視するにはあまりにつらかった。