064「櫻子の告白(2)」
「で、しばらくは研究成果の正当性を訴えていたんじゃが、だんだんと因縁をつけられることに面倒臭くなってきての。それからはワシから何か言うことはもうやめたのじゃ」
「因縁って⋯⋯それって例えば、危害を加えられたとか?」
「まーそういうのも最初はあったのぉ。まぁ、すべて返り討ちにしたし、そんな舐めたマネした連中は徹底的に追い込んで、二度とワシにこんなことをする気が起きぬよう再教育してやったがの」
「ふ、ふ〜ん⋯⋯」
再教育⋯⋯ひぇ。
「まー、その後『探索者世界ランキング』なるものができてからは、探索者の強さの可視化が進んだおかげでワシの命を狙う連中からの因縁はほぼ無くなったのじゃ。なんせワシ、世界ランキング3位じゃから!」
「せ、世界ランキング3位⋯⋯だと!?」
「エッヘン⋯⋯なのじゃ!」
のじゃロリが無い胸を反って「どやぁ」を決め込む。
ああ、てぇてぇ。
ああ、てぇてぇ。
にしても、日本って探索者のレベルは世界に比べて劣るって言われている中で世界ランキング3位って⋯⋯やっぱのじゃロリってすげえんだな。
ちなみに、櫻子ちゃんの話では『ダンジョン発祥の地はどこか?』については、いまだ結論は出ていないとのこと。まー面倒臭い輩が多いのだ。さもありなん。
それにしても、櫻子ちゃんの口からすごい話が次から次へと雪崩のように押し寄せてくる。ぶっちゃけ今の時点でだいぶ容量オーバーでござんす。
しかし⋯⋯櫻子ちゃんの話はまだ終わらない。
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「それにしても、あの池袋ダンジョンにそんな秘密があっただなんて⋯⋯」
「ちなみに、ワシが吐き出された場所は池袋ダンジョンの最深部10階層じゃった」
「池袋ダンジョンの10階層? あれ? でも、そこって特に何もなかったような⋯⋯」
そう。たしか以前——探索者になる前、池袋の探索者養成ダンジョンで最深部の10階層に行った時は、階層ボスどころか何もない、ただ広いだけの洞窟の空間が広がっていただけだったはず。
「うむ。じゃが、ワシが調べた結果、あのだだっ広い空間の中央には『巨大魔法陣』が広がっているのがわかってな。ちなみに、ワシがこの世界に吐き出されたのがその『巨大魔法陣』のある場所じゃった」
「巨大⋯⋯魔法陣?」
「ああ。しかもその魔法陣は周囲の魔素を取り込んだ『魔力』を注がないと浮かび上がらないギミックが施されておってな。じゃから、ダンジョンが誕生して20年もの間、探索者や研究者らに発見されないままじゃったのじゃよ」
「周囲の魔素を取り込んだ魔力? それって⋯⋯」
「ああ⋯⋯いわゆる『魔法』を使う時の魔力じゃ。この世界の『スキル』を発動させるエネルギーは『体内魔力』を使うが、『魔法』は異世界と同じように『周囲の魔素』を取り込んで発動するじゃろ? あれと同じじゃ」
「へ〜、現代のスキルって体内魔力を利用しているのか。使ったことないからわかんなかったな〜」
「さて、今の話を聞いてどう思った?」
「どう⋯⋯とは?」
「『巨大魔法陣』を起動させることができるのは『魔法』のエネルギー源である『魔力』を必要とするんじゃぞ? 何かおかしいと思わんか?」
「んんんん〜⋯⋯はて?」
「はぁぁぁ〜⋯⋯。お前に期待したワシがバカじゃった」
「ええぇぇ⋯⋯」
しどい。
「いいか? この『巨大魔法陣』は異世界の世界の者じゃないと発動できないようになっているんじゃぞ? それはつまり⋯⋯」
「あ、そうか! それって異世界の人間がこの世界にいる前提で作られているってことか!!」
「そうじゃ」
「いや、でも⋯⋯え? それっておかしくない?」
な、何で⋯⋯異世界の奴らがこの世界にいる『前提』で作る必要があるんだ?
いや、逆か?
そもそも、この『巨大魔法陣』を設置したのは『異世界からやってきた存在』⋯⋯ってことになるのか?
「⋯⋯お主も気づいたようじゃな。そうじゃ。この魔法陣の存在が示すのは、現代にすでにワシのいた世界の者たち⋯⋯異世界の者たちがすでに存在していたということ。しかも、ワシがこの世界に来る前から魔法陣がここに設置されていたということは、少なくとも20年以上前から存在していることを示しているのじゃ!」
「っ!?」
マ、マジぇぇ⋯⋯。
「い、一体、何がどうなってんだ? 異世界にいた存在なんて俺らくらいじゃないのか?」
「うむ。ワシも『魔法陣のギミック』に気づくまではそう思っておったのじゃ。⋯⋯じゃが、いまお主がこうして目の前に現れたこと、それともう一つ、この『魔法陣のギミック』を知ることとなったきっかけのおかげでワシの推論はより確信に変わった」
「『魔法陣のギミック』を知るきっかけ?」
「うむ。ワシはお主と出会う前に一度だけ『異世界からやってきた者』に出会ったことがある。その出会ったタイミングが、この『魔法陣のギミック』を知った時じゃ」
「えっ!? じゃ、じゃあ、本当に、俺ら以外で異世界の人間が現代に存在しているのは間違いないんだ!」
「まーな。じゃが、それは『人間』ではないがの⋯⋯」
「え?」
「まーそのことはまた後で話す。とにかく、今ワシはその魔法陣のギミックや異世界の存在を知ってから『ある研究』を行っておる」
「ある研究⋯⋯?」
「それは、池袋ダンジョンの巨大魔法陣のように『異世界と現代の行き来』といった時空間移動ができる魔法陣⋯⋯『時空間転移魔法陣』の開発じゃ!」
ぽかーん。
さすがの俺も開いた口が塞がりませんでしたよっと。




