060「全力で隠蔽じゃ」
「目を開けてよいぞ」
「「「「「んん⋯⋯」」」」」
櫻子の言葉を聞いて全員が目を開ける。
「え? あれ?」
「こ、ここは⋯⋯?」
目を開けた全員の目の前にはさっきまでいた新宿御苑ダンジョン49階層の神殿内部ではなく、シックで格調高い調度品が並んだ⋯⋯一般人ではまず立ち入ることはないような部屋だった。
「ここは、ワシの部屋⋯⋯新宿御苑ギルドのギルマス部屋じゃ」
「「「「っ!?」」」」
戦乙女の4人が目を点にして驚く。しかし、タケルだけは、
「⋯⋯」
一人、冷静に状況を分析していた。
(なるほど。櫻子ちゃんがいま使った『空間転移』⋯⋯あれはたしか異世界の世界で有名な転移魔法じゃないか。そして、その転移魔法『空間転移』はある種族の長に限られた特殊な魔法だ。てことは、櫻子ちゃんの正体は⋯⋯)
「ふむ、なるほど。オメガ⋯⋯お主いまのでワシのことを少しは理解できたようじゃな」
「まーね」
「え? え?」
「な、何⋯⋯?」
俺と櫻子ちゃんのツーカーな会話を聞いて動揺する4人。
しかし、そうなってくると櫻子ちゃんがさっき言っていた『ワシに考えがある』というのは本当に何かありそうだ。ということで、俺はしばらく櫻子ちゃんのご命令通り『お口チャックマン』を貫くことにした。
「さて、まずは⋯⋯『戦乙女』、お主らとの話を進めよう」
「「「「は、はい⋯⋯」」」」
「ちなみに脅しではないが、探索者になった以上『ギルドマスターの命令は絶対』なのは承知してるな?」
「「「「は、はい⋯⋯」」」」
「いや、えーーー!! ギルドマスターってそんな権限持ってんのぉ! あと、探索者とギルドマスターの関係ってそんな理不尽な感じなのぉー!『ギルドマスターの命令は絶対』って⋯⋯『王様ゲーム』レベルの格差社会なんだががががががっ!!」
俺の『お口チャックマン』の覚悟が秒速で破綻した。
「えーい! 黙っとれと今さっき言うたばかりじゃろが!」
「あ、失敬⋯⋯」
はい、『お口チャックマン』に戻ります。⋯⋯ひぇ。
「⋯⋯コホン。ま、まぁ、さっきのは冗談じゃ。ただお主ら4人はあまりにもオメガの近くでいろいろと見てしまった⋯⋯知り過ぎてしまったからの。じゃから、ここからはワシの指示に従ってほしい」
「あ、あの⋯⋯」
「戦乙女のリーダーか。何じゃ?」
「正直、オメガ君の戦闘や言動は私たちだけじゃなく、私たちのチャンネルとオメガ君のチャンネルの視聴者さんたちも見てますよ? それはどうするんですか?」
そう。俺の言動や戦闘は『戦乙女』の4人以外にも配信の視聴者が目撃している。これは一体どうする⋯⋯、
「ごまかす」
「「「「「え?」」」」」
「全力で隠蔽じゃぁぁぁ!!!!」
「「「「「えええええええええええっ!!!!!」」」」」
のじゃロリ櫻子ちゃん、ご乱心なり。
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うん、一旦落ち着こ。
ということで、お口チャックマンの俺は皆を一旦落ち着かせようと飲み物を探しにこの部屋の奥にあった台所のような場所へ行くと、そこにちょうど作りたてのコーヒーが入ったコーヒーメーカーがあった。
俺は棚からコーヒーカップを出し、自分も含めた6人分のコーヒーを注ぐと、また皆のいる場所へと戻り、一人一人にコーヒーカップを渡した。
ズズズズズ⋯⋯。
全員であったかいコーヒーを啜る。
そうそう、まずはみんな冷静になろ。
ふぅ⋯⋯ひと休み、ひと休み。
「ふぅ、美味しいな。ありがとうオメガ。お主、意外と気が利くんじゃな?」
「それほどでもあります」
「ということで⋯⋯、ワシが持つすべての権力を行使し全力で隠蔽するぞー! お主らもそれに加担してもらうぞー! 皆で頑張ろう、オー!⋯⋯なのじゃ!!」
「「「「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」」
再び、四人の阿鼻叫喚がこだまする。
あ〜やっぱ、ダメだったかぁ〜。
櫻子ちゃん、本気だったかぁ〜。
まぁ、でも櫻子ちゃんもあれだな⋯⋯。いくら本気だとしても、もう少しこうオブラートに包んでだなぁ⋯⋯、もっとこう4人のことを考えて慎重に言葉を選んであげたほうが⋯⋯、
ギロリ!
「うおっ!? な、何すか?」
「今、お主が『どの口が言うておるか!』と全力ツッコミさえ生温いほどの、めちゃめちゃ失礼な物言いを考えていたように思えてな⋯⋯」
「ソンナワケナイジャナイデスカー」
「⋯⋯ふん。まあよい」
「⋯⋯」
ひぇ⋯⋯。
いや何、この子! 俺の心の声聞こえてんの!?
勘弁つかぁさい!!
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「まぁ、隠蔽するといっても別にお主らに法を犯すことを強要するとかそういった話では無いぞ? ただ、ワシがお主ら4人に頼みたいのは、ただ1点のみ⋯⋯『オメガが使った魔法はスキルじゃった』ということにして欲しい、それだけじゃ」
「そ、そのくらいなら⋯⋯ねぇ?」
「ま、まぁ⋯⋯」
「う、うん。全然大丈夫⋯⋯です⋯⋯」
有紀さん、渚さん、琴乃さんが、櫻子ちゃんの言葉に許容の意思を示す中、
「で、でも、視聴者さんはどーするんですか?」
亜由美さんが今回の一番の問題である『配信の視聴者』についての対応を聞いた。
「それについてじゃが⋯⋯ワシが記者会見を開いて直接説明する」
「ええっ!! き、記者会見⋯⋯ですか?!」
「うむ。どうせやるなら大々的に、且つ、全部まとめて⋯⋯じゃ!」
か、かっこよ⋯⋯。
いや、あんたすげーよ。
さすが、俺たちののじゃロリギルマス櫻子ちゃん!
「い、いや、でも記者の人たちだって配信を見て会見に臨むはずですから、オメガ君の『魔法発言』を絶対突いてきますよ! それでも大丈夫なんですか?!」
亜由美さんが櫻子ちゃんに対して、さらに強い口調で言葉をぶつけてくる。
ただ、そんな亜由美さんの強い訴えは、いかに櫻子ちゃんのことを本気で心配してるかってことの現れであると、この場にいる全員はすぐに理解していた。
「お主⋯⋯亜由美と申したか? 良い子じゃな」
「い、いえ、そんな⋯⋯!(カァァ)」
フッと優しい笑みを浮かべながら言葉をかける櫻子ちゃん。それに対して、顔を赤くして照れリアクションする亜由美さん。
のじゃロリの天使の微笑みに、思わず朱に染めはにかむ美少女。
ああ、てぇてぇ。
ああ、てぇてぇ。
「大丈夫じゃ、お主らは何も心配せんでもよい。ワシにまかせろ⋯⋯なのじゃ!!」
ああ、一生ついていきます。