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043「C級クラン『戦乙女《ヴァルキュリー》』(1)」



「きゃああああ!!!!」

「有紀っ!!」

「有紀ちゃん!!」


 吹き飛ばされ倒れたまま動かない有紀を見た渚が絶叫を上げる。私と琴乃も彼女の名前を叫ぶ。


 ま、まさか、そんな!?


 本当に『喋る魔物』が現実に存在しただなんて!


 で、でも、どうして⋯⋯どうして深層(・・)の⋯⋯しかも深層70階層以上にいるって言われている、ほとんど都市伝説(オカルト)のような存在の『喋る魔物』がこの下層にいるのよっ?!



********************



 私の名は『七瀬 亜由美(ななせ あゆみ)』。C級探索者(シーカー)クラン『戦乙女(ヴァルキュリー)』のリーダーをやっている。


 これまで下層の40〜48階層でずっとレベル上げをしながら階層ボス挑戦の準備をしていたのだが、今日はその集大成とも言うべき、下層の階層ボス挑戦の日となる。


「ふぅ〜、ついにだね」

「うん」

「下層階層ボス『メイジゴーレム』⋯⋯ゴーレムのくせに魔法特化型っていうチート魔物」

「フン⋯⋯魔法対策はバッチリよ!」


 私たちクランは全員で4人。前衛でタンク役の『有紀(ゆき)』、私も前衛だ。そして、ヒーラー役の『琴乃(ことの)』と、ヒーラーを守りながら攻撃にも加わるバランス型で魔法特化の『(なぎさ)』で構成されている。


 元々、私たち4人は探索者(シーカー)デビューが同じ⋯⋯いわゆる『同期』というやつで、F級探索者(シーカー)登録証授与式をきっかけに仲良くなってそれからの付き合いだ。


 そんな、私たち『戦乙女(ヴァルキュリー)』は全員がC級探索者(シーカー)なのだが、これは通常のクランにしては珍しい方に入る。


 というのも、クランに所属する探索者(シーカー)の階級は上振れ・下振れ入り乱れているので実力がバラバラなのだ。なので、ウチらのような同じ実力者が揃うクランは稀で、逆にそれは『強み』にも『弱み』にもなっている。


 良い言い方をすれば『安定クラン』。悪い言い方をすれば『地味クラン』。つまり、戦力は安定しているものの『一点突破できる実力者』がいないためパッとしないクラン、という感じだ。


 ただ、探索者(シーカー)の常識では『安定クラン』は優秀と捉えられ、『地味クラン』と揶揄する者などほとんどいない。まー揶揄してくるのは、主にタチの悪いB級以上の探索者(シーカー)やクラン連中くらいだ。


 ただ、個人的に私はこのクランに『一点突破できる実力者』を望んでいた⋯⋯しかも圧倒的な実力者を。


 とはいえ、気の合う仲間なので「これはこれで楽しいからいっか」と少し悶々としながらも楽しい探索者(シーカー)ライフを満喫している。


 そんな仲の良い私たちクランは、有紀がたまたま「これやってみようぜー!」と持ち込んだ『Dストリーマー』というダンジョン探索の配信を始めるとクランの仲の良さが受け人気者となった。


 もちろん、探索者(シーカー)としての実力も評価されていたが、しかし、どちらかというと実力よりも『女性だけのクラン』とか『華やかさ』といった『見た目』の評価がほとんどだった。


 私以外の3人⋯⋯いや2人は『アイドルになった気分!』とそんな見た目の評価にとても満足気だったが、でも、私は正直楽しくなかった。とはいえ、そんなこと皆には言えず、私は必死に視聴者さんの期待に応えようとカメラに笑顔を振りまいていた。


 そんな私たちクランだったが、でも、最初のうちはちゃんとレベル上げもやって「ただのアイドル探索者(シーカー)じゃない」という自負と誇りを持ってDストリーマー活動をしていた。



********************



——そんなある日


「ねぇみんな。そろそろ下層の階層ボス攻略を目指さない?」


 私は仲間に下層の階層ボス攻略を提案した。すると、


「え〜〜⋯⋯それはちょっとしんどくない?」

「え?」

「そうそう、私たちの実力じゃ45階層までだよぉ」


 やはり、予想どおり2人はあまり乗り気じゃなかった。


「も、もちろん、すぐにってわけじゃないわよ! まずは48階層まで攻略してそれからって話で⋯⋯」

「え〜しばらくは45階層でいいんじゃん?」

「! ゆ、有紀?」

「私もそう思う。それよりも今は視聴者を増やすための企画の方が大事だから!」

「渚⋯⋯」

「そうそう、最近配信しててもマンネリとか言われるからな〜。亜由美も何か考えてよ!」

「わ、私は⋯⋯」


 乗り気どころか有紀と渚の答えは明確なNO(ノー)だった。ていうか、視聴者増やすための企画って⋯⋯。私たちDストリーマーやってるけど、本来はダンジョン探索を生業とする探索者(シーカー)なんだよ?


 そんな、私が二人の探索者(シーカー)としてやる気が無くなっていることにショックを受けていると、


 チョンチョン。


「うん?」


 私の背中をチョンチョンしてきたのはヒーラーの琴乃だった。


「わ、私は、あまり配信とかは苦手なので⋯⋯。それに、どちらかというと、個人的にはダンジョン探索を優先したい」

「琴乃! あ、ありがとう⋯⋯!」


 琴乃は4人の中で1番の小柄で可愛らしい子だった。ていうか年齢は私より2つも上なのに、見た目はその、何というか⋯⋯中学生のような容姿なのだ。


 あと、それが理由かどうかは不明だがウチのチャンネルで1番の人気を誇っている。


 そんな琴乃だけが私の提案にYES(イエス)と答えてくれた。すると、


「ちょ、ちょっと、琴乃ぉ〜。それは困るよ〜!!」

「そうだよ、琴乃ちゃん。もし、魔物にその可愛い顔を傷つけられたらDストリーマー活動はどうすんのよ! あんたはウチのチャンネルの一応(・・)一番の人気者なんだからね! もうちょっとその自覚を持ちなさい!」


 有紀と渚がそんなことを言ってきた。


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