220「念話<事の真相>(2)」
「お前と一緒に池袋ダンジョン最下層に行ってあいつと喋る魔物をぶっ潰すんだよ」(まー聞け。話戻すぞ。あの時、傀儡魔薬でまともじゃなかったベガだったが、最後お互いの剣で鍔迫り合ったときあいつが念話で伝えてきた⋯⋯ヴァルテラに傀儡魔薬を渡したのは女神テラだと)
「なっ!?」(なっ!?)
「おい!」(おい!)
あ、やべ⋯⋯。つられて俺も出ちまった。
「池袋ダンジョン最下層に、私と、一緒に⋯⋯?」(ベガ様が⋯⋯傀儡魔薬でまともじゃなかったはずのベガ様が⋯⋯お前に念話だと?)
「ああ。そうだ」(ああ。そこで俺は今お前に話した真相を教えてもらったんだ)
「わ、私は、その⋯⋯」(そ、そんな⋯⋯まさか⋯⋯)
「頼む、マーレ。お前だってわかるはずだ。この世界の『探索者』という存在が異世界の冒険者に比べるとだいぶレベルが落ちると」(ベガはこうも言った「自分はもう元に戻ることはできない。だからお前の手で私を殺して欲しい」と)
「⋯⋯」(⋯⋯)
「今のヴァルテラを止めるにはお前の力が必要だ、マーレ」(そしてマーレ、お前には「すまなかった」と)
「⋯⋯」(⋯⋯)
「櫻子もいるが、しかしあいつと俺だけではヴァルテラを止めるのは難しいと思う」(あとベガは女神テラの最終目的は俺がいたこの世界だと言っていた)
「⋯⋯」(ベガ様が?)
「だからマーレ、頼む」(ああ。もちろん俺はヴァルテラを止めにこれから池袋ダンジョンに向かうができればお前にも協力して欲しい。ただそれは強制じゃないからな?)
「⋯⋯」(何?)
「頼むよ、マーレ」(ベガがおかしくなったのはたしかにヴァルテラの傀儡魔薬のせいではあるが、だが最終的にベガに直接手を下したのは⋯⋯俺だ。だからお前からしたら理屈じゃわかっていても⋯⋯その⋯⋯難しいだろうなと思ってな)
「⋯⋯タケル」(⋯⋯タケル。念話はもういい)
「!」
********************
マーレは念話でのやり取りをやめ、直接言葉で話し出した。
「ヴァルテラを止めるのに協力しろ⋯⋯か。ならば《《条件》》がある」
「条件?」
「私と改めて勝負しろ、タケル」
「! マーレ⋯⋯」
マーレが静かにタケルを見据えながら言葉を紡ぐ。
「お前の言う通りだ。ヴァルテラの仕業だと聞かされてもベガ様を殺ったのはお前だ、タケル。そして私はその怒りは今も収まっていない」
「⋯⋯マーレ。ああ、わかってる」
「だから、ヴァルテラを止めたあと改めて私と決闘しろ、タケル。それが条件だ」
「マーレ⋯⋯わかった」
「それでいい」
そういうとマーレがタケルに握手を求めてきた。
「はっきりいってお前のことは異世界にいた時から気に食わんかった。なんせ私より弱いくせにエラそーだったからな」
「はあ?」
「正直、いつかお前に分からせてやろうと思ってたからちょうどいい!」
「はん、言ってろ。てかお前ごときに俺が負けるか!」
「あぁん?」
「なんだぁ?」
タケルとマーレがちょっとした小競り合いから本気モードになりかけた⋯⋯その時だった。
「オ、オメガさーん!」
「オメガ様ー!」
会場内に入ってきた何者かに声をかけられた。
「あれ? 亜由美さんと⋯⋯渚さん?」
それは『戦乙女』の二人だった。
********************
「ど、どうしたんですか、突然!?」
「わ、私たち、櫻子様にオメガ様に伝言伝えるよう、頼まれて⋯⋯!」
「そ、そうなの! 池袋ダンジョンからダッシュで⋯⋯ここまで⋯⋯来て⋯⋯!」
亜由美さんと渚さんが息も切れ切れに返事を返す。
「20分前、櫻子様から連絡が入って⋯⋯そこで櫻子様からダンジョン内での状況なども教えてくれました」
「櫻子たんはなんて⋯⋯」
「櫻子様とアレクサンドル・アーサー様を先頭に池袋ダンジョン最下層に向けて突入したのですが5階層で喋る魔物と接敵したそうです」
「⋯⋯5階層」
「はい。それで⋯⋯」
と、今度は渚さんが説明の続きをしてくれた。
「最初、喋る魔物に対して探索者のほとんどが喋る魔物を圧倒してどんどん蹴散らしていったそうです」
「おお、すごいじゃん!」
「はい。でも8階層から突然喋る魔物が強くなったみたいで⋯⋯」
「8階層⋯⋯たしか池袋ダンジョンは最下層が10階層だったか」
「はい。なので最下層の2つ手前で行手を阻まれている状況みたいです」
「しかも8階層にはあの琉球ダンジョンにいた『四つ柱のマグダラ』って奴もいたみたいなんです!」
「四つ柱のマグダラ⋯⋯」
いたな。あいつは喋る魔物の中でも別格だったからなぁ。
「あれ? 渚さんたち『戦乙女』も池袋ダンジョンに入って戦っていたんですか?」
「ま、まさかー! 私たちはC級クランなので入口で止められましたよ」
「あ、そうなんだ」
「はい。今の池袋ダンジョンはB級以上でも『覚醒ポーションを飲んでいない探索者』は立入禁止となっています」
「え? それって⋯⋯」
「はい。あと池袋ダンジョン内に入ったS級ランカー以外のB級ランカー以上の探索者は全員『副作用あり覚醒ポーション』を飲んでいます」
「マ、マジぃぃ?!」
「はい。なので今池袋ダンジョン内の探索者の強さは最低でも全員が『A級中位ランカー以上じゃ』って櫻子様が言ってました」
「おお!」
「⋯⋯ただ、そのおかげでダンジョン内は『性別転換』や『獣人化』した探索者で溢れかえっていてだいぶカオスな状況だそうです」
「お、おおぉ⋯⋯」
でしょうね。⋯⋯しかしそれにしてもあの後参加していた探索者のほぼ全員が覚醒ポーションを飲んだとは⋯⋯。しかも『副作用あり』のほうだなんて⋯⋯。
いいね、いいねぇ〜、覚悟ガンギマリやん!
「ただ、それでも8階層でだいぶ苦戦しているみたいです。なので櫻子様からオメガ様を池袋ダンジョンにできるだけ早く連れてくるよう頼まれました!」
「⋯⋯わかった。伝言ありがとう、亜由美さん、渚さん」
「「は、はい!」」
俺は二人に労いの言葉をかける。そして、
「おいマーレ⋯⋯準備はどうだ?」
「フン。言われなくとも」
「じゃあちゃっちゃと片付けて美味しいものでも食べに行こうぜー!」
「その前に私との勝負が先だ、タケルー!」
「いやいやいや、さすがに終わってからとか無理だろー!」
ドン⋯⋯!
二人がやいのやいのと言い合いしながら飛び出していった。
「ね、ねぇ⋯⋯今オメガさんの横にいた人って誰?」
「さ、さあ?」
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