214「世界最強の男VSオメガ(2)」
「ア、アレクサンドル・アーサー⋯⋯ダウン! ま、まさかの、あの世界最強の男がダウン⋯⋯ですっ!」
「い、今のはオメガ様によるアーサーの脳震盪を狙った一撃、それによるダウンですね。しかし、アーサーがこれほどあっさり顎を打ち抜かれるとは⋯⋯信じられません」
「ル、ルールでは、ダウンした場合10カウントで起き上がれない場合試合続行不可能として試合が終了する『10カウント方式』を採用しています!」
実況の加賀見 響子がルールを説明する中、舞台では櫻子がカウントを取っていた。
「ワーン、ツー、スリー、フォー⋯⋯」
周囲が「え? もしかしてアレクサンドル・アーサー、起き上がれないまま終了⋯⋯?」と思ったその時、
「よっと!」
「「「「「っ?!!!!!」」」」」
アーサーがスクッと元気よく立ち上がった。
「ふぅ、いや〜危ない危ない」
そのままアーサーが失神のまま戦闘不能で終了になると思っていた周囲が、予想以上に元気よく立ち上がったのを見て驚く。
「俺の拳が入る瞬間、自分で頭を動かして衝撃を逃したか。⋯⋯さすがだな、世界最強」
「お褒めに預かり光栄だね」
「おーっと! 今オメガ様の口から衝撃の事実が告げられました。なんと先ほど顎に拳が入る瞬間、アレクサンドル・アーサーは頭を動かし衝撃を逃したとのことです!」
「つまり、あのオメガ様の攻撃をアーサーは認識できていたということですね。⋯⋯信じられません」
解説のソフィアの言葉に加賀美もまた同意を示す。そんなアーサーへの賛辞が会場で飛び交う中、しかし、当の本人がタケルに対してこぼした言葉はまるで逆だった。
「これが模擬戦でなく実戦だったら私は死んでました⋯⋯⋯⋯私の負けです」
「えっ?」
アーサーの言葉にタケルも含め全員が唖然となり静まりかえる。
「強いですね、オメガ君。いやー完敗です」
「え? 散々煽っといて敗けをそんなあっさり認めるんですか?」
「ははは、すまない。どうせなら緊張感を持ってオメガ君とやりたかったからね」
「え? それって⋯⋯それじゃあこれまでの態度はワザと?」
「ははは、いや〜ごめんね〜」
アーサーがタケルに対して完全に『敗北』を宣言した。
「ということで、私の負けだ。櫻子」
「ア、アーサー⋯⋯お前」
「おーっとぉぉ! ここではっきりとアレクサンドル・アーサーが櫻子様に向かって『敗北』を宣言した! え? これで終わりなのでしょうか⋯⋯」
「いや、ちょっと待って⋯⋯!」
ソフィアの言葉に周囲が舞台上に目を向ける。すると、
「ちょっと待ったー!」
そう猛々しく叫んだのはなんと櫻子だった。
********************
「うおっ!? いきなり何だよ、櫻子たん!」
櫻子がいきなり大声で『ちょっと待ったコール』をしたことで横でビビり散らかすタケルさん。
「アーサー⋯⋯本当にこれでいいのか?」
櫻子がアーサーの目を見つめながら問う。
「もちろん。いくら模擬戦で10カウント以内に立ち上がったとはいえ一瞬でも気絶すればそれは『死』を意味し、ここでは『敗け』を意味する。そうだろ?」
そういって、アーサーが今度は櫻子に問い直す。
「まーそれはそうじゃが⋯⋯」
「それに私もオメガ君が試合前に言っていたような⋯⋯ちょっと《《嫌な感じ》》がするんだよね」
「何じゃと?」
その時だった。
コツコツ⋯⋯。
「ん? お主は⋯⋯」
「セリナ⋯⋯サンダース?」
突然、舞台上に現れたのは、探索者世界ランキング第7位『ナンバーズ7』、アメリカ出身『孤高のロリ』ことセリナ・サンダース。
「な、なんだ? 誰だあれ?」
「あれ⋯⋯は⋯⋯セリナ・サンダース!? 孤高のロリ、セリナ・サンダースだ!」
「え? でも、何でセリナ・サンダースが舞台に上がってるんだ?」
彼女が突然舞台に現れたことに周囲の探索者や観客がザワザワと戸惑いの声が上がる。
「どうした、セリナ? 何か用かのぅ?」
「⋯⋯」
「⋯⋯セリナ?」
櫻子が声をかけるもセリナは櫻子を一瞥するだけで返事を返さない。
「⋯⋯アーサー」
「セリナ! どうしたんだい? もしかして私のことを心配してかけつけたのかな? それなら心配いらな⋯⋯」
「うるさい」
「⋯⋯え?」
アーサーはセリナの態度に唖然とする。
「櫻子もアーサーも、あと周囲の《《人間ども》》も、死にたくなかったらここから離れろ」
「「⋯⋯え?」」
「っ?! アーサー! 櫻子!」
タケルが《《危険》》を察知すると二人に声を掛けた瞬間、
ドン⋯⋯ビリビリビリビリビリビリっ!!!!!
突如、セリナが凄まじい量の魔力を解放。
「「「「「うわあああああああああ!!!!!」」」」」」
その魔力解放の威力は舞台の周囲にいた探索者らを吹き飛ばし、さらには、
「ぬあっ?!」
「ぐうっ!?」
舞台上の櫻子やアーサーまでも吹き飛ばした。
そして、舞台に残ったのは絶大な魔力解放を行った本人セリナ・サンダースと、
「ちょっ、いきなり来てそんな無茶苦茶な魔力解放とか、だいぶぶっ飛んでんな⋯⋯あんた何者?」
涼しい顔でセリナに苦言を呈す結城タケル。すると、
「オメガ様ぁ!」
「ん? ソフィアさん?」
奥から舞台下に駆けつけながら声をかけたのは、ソフィア・ナイトレイ。
「彼女は探索者世界ランキング第7位のセリナ・サンダースです!」
「世界第7位? へーなるほど。強い人なんですね」
「は、はい! ただ、いつもの彼女とは何か様子が違っていて⋯⋯」
「え?」
「女、邪魔だ」
ブン!
「きゃあああっ!!!!」
「ソフィアさんっ?!」
セリナが右腕をほんの一振りしただけで、世界ランキング第2位のソフィアが簡単に吹き飛ばされた。
「お、おい⋯⋯お前! ソフィアさんは同じ世界ランカーで仲間みたいなもんじゃないのかよ!?」
「ふん、そんなことはどうでもいい。私のターゲットはお前だ、オメガ!」
「ああ、そうかよ」
「いや、もう《《仮の名前》》で呼ぶのは必要ないな。お前も《《私も》》」
「⋯⋯何?」
「ようやく、ようやく、この日が来た。長かったぞ⋯⋯⋯⋯《《タケル》》ぅぅぅっ!!!!」
「なっ!? 何で⋯⋯俺の名前を⋯⋯?」
カッ!
その瞬間——セリナ・サンダースの体が一瞬眩しく輝いた。そして、
シュウゥゥゥゥ⋯⋯。
彼女の体から蒸気が立ち昇っているため少し視認性が悪くなっていたが、しかし、そこに立ち尽くしているのは、どう見ても《《さっきまでのセリナ・サンダースではなかった》》。だが、
「お、お前⋯⋯は⋯⋯」
さっきまで『セリナ・サンダースだった者』から大きく変貌した彼女だったが、しかし⋯⋯⋯⋯タケルの口から《《彼女の名》》が飛び出した。
「女帝⋯⋯マーレ」
「久しぶりねぇ、タケル〜。会いたかったわぁ〜」
女帝マーレ⋯⋯⋯⋯それはタケルが異世界にいたときの数少ない友人の一人であり、そして、タケルによって最愛の男を殺された者。
「やっと! やっと! やっと! 魔王ベガ様の⋯⋯私のすべてである魔王ベガ様の⋯⋯仇をこの手でぇぇぇ!!!!」
「⋯⋯マーレ」
「さあ! さあ! さあ! 本気の殺し合いをしましょうか、タケルぅぅぅっ!!!!」