208「オメガ様登場(やっと)」
模擬戦エクストラステージ終了後、舞台から二人を退場させ俺だけが残った。
「えー、ということで、これで覚醒ポーションの効果もわかっていただけたと思いますので、あとはどの覚醒ポーションを使うのか選んでくださいませ〜」
と、俺は如月さんのかわりに使用したい覚醒ポーションの案内をする。
「あと知っているかと思いますが覚醒ポーションの効果は1回限りなので、慎重に選んでくださいねー。では、お疲れ様でした〜」
と言って、俺はそそくさと舞台を降りようとした⋯⋯⋯⋯が、
「ふざけんな、この野郎! オメガてめえとの勝負がまだだろがぁぁ!!!!」
「そうだそうだ!」
「逃げんじゃねーぞ、コラぁ!」
すんごいブーイングが響き渡った。
「まー大会前にあれだけあいつらを煽ったわけじゃからのぉ⋯⋯当然の反応じゃろ」
「⋯⋯はい」
できれば、戦うのは無かったことにして欲しかったんだけど⋯⋯。
「す、すみませんでした。それでは早速ここからは⋯⋯⋯⋯オメガ様ファンミーティングってことで!」
「「「「「ふざけんじゃねぇぇぇぇ!!!!!」」」」」
あ、間違えた。
「え、えっと⋯⋯では、俺との対戦を望む方はどのくらいいますか〜、挙手をお願いしま⋯⋯」
ババババババババババっ!!!!
いや、めっちゃいるぅぅ!!!!
「わ、わかりました。でも、う〜ん、どうしよう⋯⋯」
俺は考え込む。
というのも、あれだけの人数を《《一人ずつ》》相手するのは非常に面倒臭いのだ。
ちなみに、櫻子たんから俺との手合わせを希望するのは全部で78人とのこと。多っ!?
「えーそれでは一度にお相手するので《《10人ずつ》》舞台に上がってくださ〜い」
「「「「「は?」」」」」
俺がそう言うと、あれだけ怒号が飛び交っていた会場がシーンと静まり返る。
「できれば、早く終わらせて喋る魔物に備えたいので⋯⋯」
「「「「「上等だ、このやろうぉぉ!!!!!」」」」」
最初の10名が元気良く舞台に上がってきた。
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舞台では、俺と10名の探索者が立っているという異様な光景が広がっていた。
「では、これも模擬戦じゃから相手を殺すような行為はダメじゃ。戦闘不能状態もしくは相手に『まいった』と言わせる範囲であればスキルを使用しても構わん」
「なるほど。殺さなきゃいいんですね?」
「そうじゃ」
「なんだ、それなら望むところですよ。我々はオメガを殺したいんじゃなくて《《分からせたい》》だけですから」
「そうそう、まだまだデビューしたての新人にはちゃんと身の程をわからせないとですから。ハハハハ⋯⋯!」
俺の前では10名の有象無象が櫻子たんにそんな戯言を述べていた。すると、櫻子たんが俺に『念話』で話しかける。
(タケル⋯⋯)
(あん?)
(殺しちゃダメ、ぜったいじゃ)
(ええぇぇ)
(ええぇぇ⋯⋯じゃない! いや、殺るつもりじゃったんかい!?)
(いや、そりゃ、こんだけバカにされたわけだしぃ)
(ダメじゃダメじゃ! ちゃんと手加減するのじゃ!!)
(わ、わかったよぉ)
そんなやり取りがあった後、
「では、試合⋯⋯はじめぇ!」
櫻子たんが開始の合図を宣言した⋯⋯⋯⋯その瞬間、
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ!
俺は彼ら全員の背後に周り、首元に手刀を当て一瞬で気絶させた。
「勝負あり!」
こうして、『|チキチキオメガ様と親睦を深めよう大会《オメガ様ファンミーティング》』が始まった。
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「え?」
「い、今、何が起こった⋯⋯?」
「な、なんで、試合開始直後に10名の探索者が気絶したのぉぉ!!!!」
俺が試合開始と同時に舞台に上がった探索者を全員気絶させたのだが、見ている人からしたら探索者たちが勝手に気絶したみたいに見えたようだ。
さもありなん。俺の動きが見えていない人がほとんどなのだから。
ということで、櫻子たんに説明をお願いする。
「えー⋯⋯今のはオメガが試合開始と同時に10名全員の首元に手刀を当て意識を刈り取ったのじゃ」
「「「「「え? えええええええ!!!!!!」」」」」
会場が櫻子たんの説明にどよめきをあげる。
「ということで、ほれ⋯⋯次の10名上がるのじゃ」
そう言って、櫻子たんが次の10名に声を掛ける。すると、
「な、なんかの間違いだ! そんなことがあるわけねぇ!!!!」
「きっと何かの細工をしたんだ! あ、もしかしてスキルなんじゃねーか!?」
「き、きっとそうだ! 間違いない! 櫻子様、オメガはスキルで卑怯な手を使ったんじゃないですか!」
などと訴えるも、
「だからなんじゃ? さっきも言ったが戦闘不能状態にする範囲であれば何をしてもいいんじゃぞ?」
「え?」
「大丈夫じゃ。スキルは存分に使って問題ないぞ! せっかく10名もいるんだ。各々がスキルを使って連携して戦えば勝機があるかもしれんぞ」
「え? あ、その⋯⋯はい」
「うむ、頑張るのじゃぞ!」
奴らは、櫻子たんに俺がスキルで卑怯な手を使っているといって反則負けを進言しているようだが、別にスキルを使って嫌な攻撃をしたり汚い手を使ってそれで相手を殺さないで無力化できるんであればやればいいだけの話っていう⋯⋯そんな、櫻子たんにど正論を言われた彼らはまさか「どんどんやれ」と言われるとは思わなかったのか呆然としていた。
結局、そんな奴らとの試合も初戦の10名と同様『瞬殺』に終わった。