205「副作用あり覚醒ポーション最新情報(2)」
「獣人化⋯⋯?」
櫻子たんや如月さんからはそんな情報は聞いていない。
いや、待てよ? もしかして俺だけ知らなかっただけで櫻子たんは知っていて二人が隠していたということだろ⋯⋯、
「いや、おいぃぃ! そんなのワシは聞いておらんぞぉぉ!!!!」
「ごめん、ごめん」
あ、俺だけじゃなくて櫻子たんも知らなかったんだ。
「いや実は《《コレ》》を知ったのは⋯⋯⋯⋯昨日の夜なんだよねぇ」
「「??」」
ん? なんか如月さんが妙に余所余所しい?
ていうか、如月さんのその素振りはまるで「悪さをした子供がその《《悪さ》》を隠している」ように見えた。奇しくも、櫻子たんも俺と同じように如月さんの挙動不審を感じ取ったようで、
「吐けぇぇぇ! 如月 柑奈ぁぁぁ!!!!」
「お、おお、おおお⋯⋯ストップ、ストップ⋯⋯櫻子⋯⋯」
舞台上で如月さんの首を絞めるなどした追い込みをかけていた。
「は、話す。い、今から⋯⋯話すから⋯⋯」
ということで、如月さんが早速説明を始めた。
「げほげほ⋯⋯え〜⋯⋯改めて如月です。先ほど発表した『獣人化』ですが、これは昨夜わかったものでして⋯⋯」
如月さんの話が始まると会場は静寂に包まれる。皆がそれだけ注目する中、如月さんは淡々と話を進めていく。
「元々、最近の研究ではこの覚醒ポーションに『性別逆転』や『おネエ化』以外にも何かあるのはわかってましたし、《《それらしい成分》》も確認はできていました」
へ〜、そうなんだ。
「ただ、いろいろ分析はしたものの⋯⋯しかし、それを確認するにはどうしても被験体が必要だったのです」
「被験体⋯⋯」
つまり、佐川や理恵たんみたいなことか。
「しかし、被験体なんてそう簡単に見つからない。そんなことは私が一番よくわかっている。そこで私は考えた⋯⋯⋯⋯『なら自分で試せばいいじゃん』と」
「「「「「は?」」」」」
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え? この人何言ってんの?
てか、いま何つった?
「なら自分で試せばいいじゃん」?
それって⋯⋯、
「お、おおお、お主! それってまさか⋯⋯自分で覚醒ポーションを飲んだということか?!」
「ええ、そうです」
「バカか! 仮に飲んだとしても絶対に『獣人化』するかなんてわからんじゃろが!」
「いや、それは問題ない。覚醒ポーションの成分に《《細工》》をしたからな」
「細工?」
「簡単に言うと『性別逆転』でも『おネエ化』でもないパターンの成分が入った覚醒ポーションを飲んだのさ。で、その結果がこの『獣人化』だった。そして今回の⋯⋯私が獣人化に成功したことで、その獣人化の成分を自分の体から抽出して分析した結果、かなりの確率で覚醒ポーションの覚醒後の副作用を選ぶことができるようになったのだよ」
「なん⋯⋯じゃと?!」
「な⋯⋯!」
え? それって⋯⋯、
「は、はいはいはーい!」
俺は我慢できずに如月さんに質問するべく手を挙げた。
「はい、オメガ君!」
「それってつまり、覚醒ポーションによって起こる副作用が何かを予測できたってことですか!?」
「正〜〜解っ!」
「「「「「ええええええええええええっ!!!!!!」」」」」
この発言には、俺たちだけでなく会場にいた人たちも大きな反応を見せた。
そりゃ、そうだろう。だって、副作用があるにしても『性別逆転』なのか『おネエ化』なのかわからないで飲むのとは訳が違うのだから。
「ちなみに、今回用意してある覚醒ポーションはすべて選べるようになっている。『性別逆転』『おネエ化』『獣人化』⋯⋯好きなのを選びたまえ。ちなみに『副作用なし』も用意してある。まー⋯⋯《《中途半端な力》》しか選べない『へたれ』はそちらを選びたまえ(ニヤリ)」
うわぁぁ、めっちゃ煽るやん。⋯⋯その時だった。
「へっ! 本当かよ、その話ぃ〜」
そこで会場の探索者から声が上がる。
「⋯⋯我王クランの我王無多だ」
我王クラン? 聞いたことないので櫻子たんに質問すると、
「A級上位ランカーで、国内最強クランの一角『我王クラン』のリーダーじゃな」
という答えが返ってきた。
へ〜、それってかなり有能な探索者ってことだよね。
「じゃが、素行が悪い奴でのぉ〜。まぁ見た感じあのままの奴じゃ」
「なるほど」
どうやらヤンチャな方らしい。
つまり、そんなヤンチャな我王無多さんが如月さんの煽りを受けて腹立って突っかかったということね。わかります。
「正直よぉ〜、俺は今でも疑ってんのよ。この覚醒ポーションってやつをよぉ」
「さっきの模擬戦は見てなかったのかい?」
「見たさ。しかしあんなのただの《《演技》》だろ? いやぁ、よくやったもんだよ」
「そんなことしてどうするのさ? わざわざここまで時間もお金も労力もかけて仕上げたこの舞台で? そんな皆を騙すようなこと何の得があるっていうんだい? そもそもやったところでこちらにはデメリットしかないじゃないか。それがわからないのかな?」
「ああ、わからないねぇ。ただ俺はお前もオメガもうさんくさいとしか思ってねぇんだよ」
「そうか⋯⋯。ん? ああ、ならちょうどいい」
「は? 何が⋯⋯」
「今から君が私と戦って覚醒ポーションが本物かどうかを《《君自身》》で確かめてみればいいじゃないか」
「な、なん⋯⋯?!」
「私はね! こう見えて探索者資格を持っているんだ! ちなみにランクは『C級上位』だ!」
おや?
ちょっと、如月さんの『狂気の波動(命名:俺)』にスイッチが入ったようだ。
うん、悪い予感しかしない。
「けっ! 笑わせんな。俺はA級上位だぞ? てめえみてぇなC級の雑魚相手にして⋯⋯」
「ははは、何を言ってるんだい? 言ったろ? 私は覚醒ポーションを飲んだと。そして、その代償として副作用で『獣人化』がついてきたと。そしてその結果、『獣人化』に関連する《《強力なスキル》》が手に入ったし、能力も《《かなり底上げされた》》んだよね」
「何⋯⋯だと?」
「ちなみに私の見立てだと獣人化となった私の強さはA級上位かS級下位あたりってとこだ。どうやら副作用の中でも『獣人化』が一番能力上昇や強力なスキルが得られるらしい」
「A級上位かS級下位だぁ〜?! そんなハッタリが通用するか! もしそれが本当なら⋯⋯」
「うん。もしかしたら君に勝つかもしれないね」
「ああん⋯⋯?」
ピキィィィ!
何やら我王の血管がブチ切れた音が聞こえたような聞こえなかったような⋯⋯。
「やる気になったかい?」
「ああ、スイッチ入ったわ」
ということで、まさかの模擬戦『エクストラステージ』が始まった。