203「模擬戦の反応(3)」
【エレーナ・ツヴァイコフ】
ボクは今、オメガ様が開催する『チキチキオメガ様と親睦を深めよう大会』の会場の控え室にいた。
というのも、会場では世界各国から集まった100名の探索者が舞台近くに殺到して暑苦しいこともありオメガ様が出てくるまで一度会場から離れていたのだ。
最初はオメガ様の配下の者の模擬戦ということもあり、特に興味はなかったので控え室にある大型モニターでオメガ様が登場するまで待機していたのだ。
そんな中で、模擬戦が始まった。
実際、模擬戦もそれなりの実力者同士ではあったが、言ってもたかだかF級とD級の模擬戦ということもあり、「まあ、それなり」な内容だった。
しかし、ここで一つの変化が起こる——なんと、さっきまでD級の、日本では実力者として知られるリエ・アマミヤにまったく歯が立たなかったF級のサガワという男の魔力が突然極端に上がった。
「何?! 今の魔力上昇は!」
すると、その直後『おネエ言葉』を喋り出すサガワ。「え? 何それ?」と思うや否や、途端にF級探索者のレベルを遥かに凌駕した動きを見せると、D級のリエ・アマミヤを逆に押し始めた。
「な、何が⋯⋯起こっているの?」
それからはサガワがリエ・アマミヤを終始圧倒する形で試合が進んでいく。
最初、まったく興味なかった模擬戦だったが、いつの間にかボクは食い入るようにその試合を観ていた——そんな時だった。
『雨宮の小娘。⋯⋯スキル解放するのじゃ!』
突然、櫻子様の声が入ったかと思うと、今度はリエ・アマミヤの魔力が急上昇すると同時に激しい青白い光が彼女を包み込んだ。
そして、その光が収束していくと、そこには⋯⋯、
『ふぅ〜⋯⋯やっぱ、この『スキル:阿修羅』の力はすごいや』
「っ?!」
『ん? あれ? なんかすごく静かになっちゃったけど⋯⋯?』
「っ!!!!!!!!!!!!!!」
なんと、とてつもなく可愛いらしい男の子が立っていたのだ!
「な、ななな、一体何が起こっ⋯⋯きゃ、きゃわいいいいいいっ!!!!」
ボクは突然の『ショタっ子天使』の出現に悶絶必死となる。
当然だよね。天使が降臨されたんだもの。是非もなし。
そんな天使に釘付けになっているところで、突然『のじゃロリ』がマイクを持って舞台に現れた。すると、
『あ〜⋯⋯つまりじゃな。そこにいるこの少年は『雨宮理恵』じゃ』
「何ですとぉぉぉぉっ!!!!!!!」
『雨宮は覚醒ポーションを飲んで新たなスキル⋯⋯『スキル:阿修羅』を獲得。その結果、彼女はこのスキルを発動すると『少年』へと変化することとなったのじゃ』
「は? はぁぁぁぁぁ?????」
ボクは控え室から出て、急ぎ舞台へと向かった。
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舞台に着くと、ちょうど『ショタっ子天使リエ・アマミヤ』が、さっきまで苦戦を強いられていたおネエ化サガワを、まるでダンスでも踊るかのように、可憐に、華麗に、元気に、楽しそうに、舞いながら翻弄していた。
最後は、「も、もう、無理⋯⋯」とサガワが為す術ないまま降参宣言をして幕を閉じた。
しかし、ボクに取って模擬戦の試合などどうでもよく、舞台の上でサガワやのじゃロリと楽しそうに話す『天使』に終始釘付けだった。
「な、生で観たら、さらに、可愛い⋯⋯」
ボクは、すぐにでもその子に声をかけたかった。しかし、そこで《《ある事実》》を思い出す。
「いや、ちょっと待って⋯⋯。あの天使は、リエ・アマミヤで⋯⋯⋯⋯《《女子》》なんだよね?」
ボクは、その事実に激しく動揺した。
「え? え? ちょっと待って!? リエ・アマミヤは、元々あんな美少女なのに、覚醒ポーションで得たスキルを発動したら『ショタっ子天使』というもう一人の自分も所持しているっていうの!」
そうだ。あの天使は元々『男の子』じゃない。『女』なのだ。
「あの天使は元は『女』。そして、ボクは「どんな可愛い女の子にも負けない!」と誓って、この男の娘神になった。そんなボクがリエ・アマミヤを受け入れていいものなのだろうか⋯⋯」
ボクは悩んだ。⋯⋯30秒くらい。そして、
「うん、全然良いよね! だって、ボクそもそも可愛いモノが大好きなんだから! それが元が女だろうが、ボクが愛でるのはスキル発動した『ショタっ子天使』だけだもの!」
ということで、ボクはこれから「リエ・アマミヤと友達になる!」と今ここで決断した。
「そうと決まったら、ボクもスキル獲得できる覚醒ポーションを飲むぞー! 待っててね、リエ・アマミヤ⋯⋯ううん、ショタっ子天使ちゃん!」
それは、男の娘神エレーナ・ツヴァイコフが、ショタっ子天使雨宮をロックオンした瞬間であった。