201「模擬戦の反応(1)」
模擬戦は『スキル:阿修羅』を発動した『ショタっ子雨宮』により、佐川を圧倒し幕を下ろした。
しかし、この模擬戦は皆にとってあまりに衝撃的な内容だったようで、それは悲鳴のような、感嘆のような、歓喜のような⋯⋯そんな統一感のない反響はそれだけこの模擬戦があまりに異質であったことを物語っていた。
そんな世間の注目は、模擬戦の結果うんぬんではなく、そこで戦った《《二人》》自体に注目が集まっていた。
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<テレビ>
「え〜と⋯⋯これはどういうことでしょう⋯⋯?」
芸能人や各界の著名人、また日本国内の現役探索者や探索者の専門家などを集めて組んだオメガの大会のライブ特番会場では、皆が一様に言葉を失い、あわや放送事故となっていたところ、番組を仕切る司会の女性キャスターが何とか我に返り、言葉を絞り出した。
「え? え? 少年? 何でいきなり子供が⋯⋯?」
「さ、櫻子様の話だと、その少年がD級ランカーの雨宮理恵さんと言ってましたね⋯⋯」
「いや、雨宮理恵さんって女性ですよね?! それが何で《《あの少年》》になるのですか! おかしいでしょ!」
「お、落ち着いてください!」
芸能人枠で番組に出演している有名モデルの女性が、少しヒステリック気味に声を荒げると、司会の女性キャスターが慌てて落ち着くよう促す。
「と、とりあえず、専門家の方に聞いてみましょう。い、いかがでしょうか、現役B級上位ランカーの猿渡さん?」
司会者からコメントを求められたのは、国内で活躍する有名クランのリーダー『猿渡 学』だったが、
「え、ええ、そうですね。しかし、う〜ん⋯⋯」
彼もまた他の者たちと同様、まだ情報の整理が追いついていない様子で最初はコメントに窮していたが、しばらくすると自身の中のある程度の考察を語り始めた。
「まず、現時点ではっきりしていることは、今回のオメガの大会で真偽不明だった『覚醒ポーション』というのが実際に存在するということ⋯⋯。そして、その覚醒ポーションを飲むと、探索者ギルドや関係各社に通達されていた内容通り、身体能力が格段に跳ね上がるのは間違いない、といったところでしょうか⋯⋯」
「たしかに。その通達はテレビ局にも届いておりました」
「あ! 知ってるー! あれでしょー、オメガ様がテレビで言ってたやつ〜」
司会と現役探索者猿渡の会話に入る込んだのは、人気アイドルユニット『板橋46』のセンター『荻野 メイ』。
「そうです。そのオメガの電波ジャックや通達に覚醒ポーションを飲むと身体能力が最低でも3倍は引き上がる⋯⋯とありました」
「ええ。ただ、今回一番の驚きはそこではありません。それは⋯⋯」
「スキル⋯⋯獲得」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
ここで、ある意味《《一番美味しいところ》》を掻っ攫ったのは、現役を退いた今もなお影響力を持つ元A級下位ランカー『二階堂 貞家』。
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現在、番組内では二階堂貞家の発言に注目が集まっていた。
「櫻子様は観衆の前で『覚醒ポーションを飲んで得られたスキル』だと、はっきりとそう言った。しかし、通常そんなポーションなど存在しない。それどころか、スキル獲得は本来魔物を倒した際に獲得したり、あるいはダンジョン内にある宝箱から『スキルスクロール』で取得するもの。しかも、そう簡単に得られるものではない。それが世の常識⋯⋯」
二階堂が少し声を震わせながら慎重に言葉を選び紡ぐそのただならぬ光景に、番組内の出演者はもちろん、番組を観ている視聴者らもゴクリと息を飲み込むほどの緊張に包まれていた。
「しかし、覚醒ポーションを飲むだけでスキルを得られるなどできたら、その常識は完全に引っくり返る。そして、その引っくり返った常識の『見返り』は⋯⋯⋯⋯全探索者の実力の圧倒的飛躍っ!」
「「「「「っ!!!!!!」」」」」
二階堂が覚醒ポーションによる影響、そしてその恩恵がどういうものかをはっきりと言葉に示すと、皆が覚醒ポーションがもたらす恩恵の大きさに言葉を失った。
そんな静寂が包む番組内で、二階堂はさらに続ける。
「日本は世界からずっと『探索者の実力不足』を指摘⋯⋯いや、バカにされてきた。しかし、これからは違う! オメガも覚醒ポーションもこれは我々日本の資源だ! 我が日本の探索者はここから始まるのだぁぁぁぁっ!!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」」」
そんな二階堂の言葉に盛り上がる番組出演者と観覧者。さらに、
「宣言しよう! 今日この機会に私は現役復帰すると! そして、私もその覚醒ポーションを飲み、圧倒的力を得て魔物の地上侵略を阻止するとっ!!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」」」
と、なぜか二階堂が突然の現役復帰を宣言。しかし、異様な興奮に包まれた番組内ではその二階堂の発言にほとんどの者が賛同、激励を送る。
そんな興奮する番組内で、女性司会者が自分に酔っている二階堂に冷静に声をかけた。
「えーと、それはたしかに素晴らしいことだと思いますが⋯⋯そうなると、二階堂さんは覚醒ポーションを飲むということですか?」
「もちろんです! 私は引退しましたが元A級下位ランカー。覚醒ポーションを飲む条件は満たしていますので!」
「なるほど。ということは、二階堂さんはスキル獲得ができる覚醒ポーションを飲むということですね?」
「はい。そういうことです!」
「なるほど。ということは、二階堂さんはすでにその覚醒ポーションの『副作用』⋯⋯今回で言えば雨宮理恵さんの『男性化』、あ、男性であれば『女性化』でしょうか。つまり⋯⋯いわゆる『TS化』を受け入れる覚悟をすでにお持ちだと⋯⋯それだけの覚悟があると、そういうことですね!」
「⋯⋯え?」
「⋯⋯え?」
シーーーン。
「も、もももも、もちろんです⋯⋯! ば、ばっちこいですよぉ〜! は、ははは⋯⋯」
先ほどまでの勢いはどこへやら、二階堂は「あ、副作用のこと忘れてた」とでも言っているような見事な狼狽ぶりを見せながらも、しかし、テレビの前で言った手前引っ込みがつかないということで、何とか気丈に振る舞い、女性司会者の質問に笑顔で肯定した。
元A級下位ランカー二階堂貞家の苦悩は⋯⋯続く?