199「模擬戦(2)」
「いろいろやってくれたわね、《《りえりー》》? ここからはワタシのターンよ」
「「「「「え⋯⋯っ!!!!!」」」」」
櫻子の指示により佐川が『スキル技』である身体能力4倍となる『身体狂化』と『おネエ化バーサクモード』を展開。
その結果、これまでとは異なるF級とは思えない魔力が突然放出されると会場の誰もが言葉を失った。
「いくわよ、りえりー⋯⋯はぁっ!!!!」
そう言うと、佐川がさっきと同じように雨宮に突っ込む。しかし、そのスピード、そして威力は前回の比ではなく⋯⋯。
「⋯⋯くっ!?」
ガシィィィ!!!!
佐川の正拳突きを躱そうとした雨宮だったが、スキル技の身体狂化、おネエ化バーサクモードを展開した佐川の正拳突きを躱すことができず、そのまま腕をクロスして防御せざるを得なかった。しかも、
ズザザザザザザ⋯⋯!
佐川の攻撃の威力を吸収できなかったため、雨宮は後方へと体を持ってかれた。
「ふふふ⋯⋯どう? 少しはワタシもやるでしょ?」
「チッ! 櫻子様の《《指示》》さえなければ⋯⋯」
「チッチッチ⋯⋯ダメよ、りえりー? 櫻子様の指示があるまでは《《スキル使用禁止》》よ?」
「わかってるわよ!」
そんな佐川の突然の変化に会場にいる探索者らが驚きの声を上げる。
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「お、おい⋯⋯。今の彼のあの攻撃の初動⋯⋯見えたか?」
「み、見えたさ、それくらい! なんだ? お前見えなかったのか?」
「ああ、ほとんど見えなかったよ」
「っ!? お、おまえ⋯⋯」
「俺はB級下位⋯⋯でもお前はB級上位だろ? そんなお前が今の奴の攻撃⋯⋯《《どこまで》》見えた?」
「⋯⋯《《かすかに》》見えたくらいだ」
「! お前でもか?」
「ああ。さっきまで良い動きとはいえ《《F級にしては》》程度だった。が、しかし今のは違う。別人を疑うレベルだ」
「⋯⋯まったくだ」
そして、その驚きはネットの世界も同じだった。
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473:Dストリーマー名無し
は?
474:Dストリーマー名無し
は?
475:Dストリーマー名無し
なんだ、今の攻撃?!
まったく見えんかったんだが!
476:Dストリーマー名無し
あの佐川って奴が突然フッと消えたと思ったら
理恵たんがふっとんでた!
477:Dストリーマー名無し
おそらく、あの佐川って奴が正面から突っ込んで
拳を繰り出したんだろうけど⋯⋯
478:Dストリーマー名無し
うむ。結果だけ見れば477の
言っている通りだとは思うが⋯⋯
しかし見えたわけではない
479:Dストリーマー名無し
こいつ絶対にF級じゃねーだろ!
480:Dストリーマー名無し
突然F級からC級レベルくらいに
強さが上がった感じ?
481:Dストリーマー名無し
いや〜C級かぁ?
B級下位はあるんじゃね?
482:Dストリーマー名無し
いずれにしても、この突然の強さは
スキルってことなの?
483:Dストリーマー名無し
おそらく。
しかも、舞台に上がってる二人は
櫻子様が「覚醒ポーションを
実際に飲んでスキルを手に入れた者たち」と
紹介してたわけだから⋯⋯つまりはそういうことなんだろ?
484:Dストリーマー名無し
マジかよ⋯⋯。覚醒ポーションやばいな
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「⋯⋯ふむ。結果は《《上々》》じゃな」
舞台下にある『特別観覧席』で、会場の反応やタブレットを使ってネットの反応を見てご満悦な笑みを浮かべる櫻子。
「狙い通りってこと?」
そんなご満悦の櫻子に横から声をかけるのは、デスマスクの仮面をかぶるオメガこと結城タケル。
「うむ。お前だってわかるじゃろ? この会場の探索者と一般客が出している空気が?」
「まーね」
そう。現在、会場では佐川の変化によりザワザワと客も探索者も落ち着かない異様な様子だった。
「それにネットの反応⋯⋯『Dストリーマー掲示板』でもこの会場と似たような感じで盛り上がってるのじゃ!」
「おおっ! 俺のチャンネルのコメント欄もめっちゃ高速で流れてる!」
櫻子だけでなく、タケルもまたタブレットを開いて自分のYo!Tubeチャンネルの配信コメントを観て興奮する。
「それにしてもどうすんの?」
「何がじゃ?」
「だって、櫻子が佐川だけスキル解放させたおかげで理恵たんが防戦一方⋯⋯いや、だいぶ苦しい展開じゃねーか」
現在、舞台では『おネエ化さがえもん』が理恵たんを弄ぶレベルで押していた。
「そりゃ、スキルを使っていない雨宮の小娘では佐川の攻撃はキツイじゃろうな」
「だったら⋯⋯」
「なーに⋯⋯⋯⋯主役は《《遅れて》》覚醒するもんじゃろ?」
「お?」
そういうと、櫻子がニッと不敵な笑みを浮かべた。
「雨宮の小娘。⋯⋯スキル解放するのじゃ!」