197「混乱(2)」
「君、良いこというねぇ〜? これは私もぜひ見たいねぇ〜」
「ああ〜ん?⋯⋯⋯⋯え?」
「ア⋯⋯アレクサンドル・アーサーぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「うおおおおおおおお!」
「いや、えええええええええ!?」
「アーサー!」
世界最強の男⋯⋯アレクサンドル・アーサー、その人だった。
「それで? どうなんですか、櫻子? 覚醒ポーションを実際に飲んだ人は存在するんですか? 能力が上がった者、そして⋯⋯⋯⋯スキルを得た者が本当に存在するのですか?」
「⋯⋯アーサー」
アレクサンドル・アーサーは、会場の盛り上がりなど特に気にせず、櫻子に威圧する勢いで問い詰める。しかし、
ニッ!
「!」
アレクサンドル・アーサーの問い詰めに満面の笑顔を見せる櫻子。それを見てアレクが驚く。
「ま、まさか、本当に⋯⋯いるのか?」
アレクはずっと「十中八九、そんなポーションなど存在しない」と思っていた。それもそうだろう⋯⋯なんせ、これまで探索者の中でも一線で活動していた者、そんな彼でさえ『覚醒ポーション』というアイテムなど聞いたことなかったのだ。
そのため、櫻子の今回の『覚醒ポーション』の話や『喋る魔物の地上侵略』はブラフで、本当の目的は別にある⋯⋯とずっと疑ってかかっていたのだ。しかし、
「おるぞ?(ニヤニヤ)」
「⋯⋯」
櫻子の不敵な⋯⋯まるで見透かされたような笑みに苛立ちを覚えるが、櫻子の次の言葉に、
「では、早速紹介するかのぉ」
「なっ! 紹介⋯⋯だと?! こ、ここにいるのか!」
さきほどの苛立ちは些事となり、そして、
「おるぞ。⋯⋯おーい、お前ら舞台に上がるのじゃ!」
その櫻子の声がけをきっかけに、舞台袖から《《2人の男女》》が出てきた。
そして、この後アレクサンドル・アーサーの疑惑は瓦解することとなる。
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「おーい、お前ら舞台に上がるのじゃ!」
櫻子の合図の声を聞いた《《2人の男女》》⋯⋯つまり、
「お、おおおおお⋯⋯! さ、さささ、櫻子様からの合図が⋯⋯ついに来たよっ?! ど、どどど、どうすりゃいいんだよ、雨宮ぁぁぁ!!!!」
「ちょっ! 何、いきなりテンパってんのよ! そんなの別に普通に舞台に上がるだけでしょ! 早く行きなさいよ!」
佐川と雨宮理恵である。
そうして、舞台に上がる2人。すると、
うわああああああああああああああああ!!!!!!!!!
会場から大きな歓声が鳴り響く。さらには、
「あれが実際に覚醒ポーションを飲んだ探索者なのか!」
「若いな」
「ん? あれ? あの女性のほうって⋯⋯まさか?」
「ああっ?! あの子⋯⋯雨宮理恵だ!」
「雨宮理恵? たしか、Dストリーマーで『クールビューティー』って二つ名の⋯⋯?」
「本当だ!」
「うおおおおおおお、クールビューティー降臨キタァァ!!!!!」
「うおおおおおおお、理恵た〜ん!!!!!」
舞台に上がった女の子があの人気Dストリーマー雨宮理恵であることがわかると、会場はさらに盛り上がりを見せる。
そんな会場の言葉を聞いて、アレクサンドル・アーサーが隣にいるメイドのウィローにその女性のことを聞く。
「雨宮理恵⋯⋯彼女はD級探索者で人気Dストリーマーとして活躍している若手有望株の一人です」
「D級? ただのD級?」
「⋯⋯はい。あと、彼女は《《あの》》雨宮バリューテクノロジーの一人娘です」
「雨宮バリューテクノロジー⋯⋯の一人娘! てことは、もしかしてあの⋯⋯『鬼才・如月柑奈』とも?」
「おそらく⋯⋯。詳細は不明ですが」
「⋯⋯ふ〜ん。ちなみに、横の《《彼》》は?」
「彼は⋯⋯『佐川 卓』というF級探索者ですね。まー高校生で探索者になったということで、日本では注目されているようですが⋯⋯その⋯⋯」
「⋯⋯実力の程は大したことないってことかな?」
「! ま、まあ、不躾な言い方をすれば⋯⋯」
「なるほど。ありがとう、ウィロー⋯⋯⋯⋯愛してる」
「っ!?」
横でウィローのクレームを一身に受けながら考える。
(普通に考えれば、櫻子が何も考えずにこんな《《低級な小物》》をこの舞台に登場させることはない。だとしたら、この2人⋯⋯覚醒ポーションを飲んだこの2人の実力というのは今ウィローから聞いたD級やF級ではなく、もっと上がっている⋯⋯ということか)
アレクが舞台に上がった二人を見た後、再度櫻子に視線を向ける。
「⋯⋯面白い。見せてもらおうか、櫻子?」
アレクの挑戦的な言葉に櫻子もまた、
「うむ。とくと見るがよい、アレクサンドル・アーサー!」
挑発的な笑みとドヤ顔でアレクに真っ向から言葉を返した。