196「混乱(1)」
「そして、ここが重要なのじゃが、この覚醒ポーションには⋯⋯⋯⋯『副作用』がある」
「「「「「っ!!!!!!!」」」」」
この瞬間——場のざわめきが消えた。
「皆もオメガが電波ジャックで少し言っておったので『副作用』のことは知っていると思うが、これは本当に存在するのじゃ。ただ、その副作用が起こらない覚醒ポーションもあるので安心してほしい」
櫻子による『覚醒ポーションの存在公表』だけでも十分な驚きを与えたが、それ以上に『副作用』という言葉に皆に動揺が走る中、櫻子の話が続く。
「探索者ギルドの各支部にすでに情報は通達されておるからわかっていると思うが、その副作用のない覚醒ポーションの効果は身体能力上昇のみ。⋯⋯とはいえ、それだけでも個人差はあるものの3倍から最大8倍までも身体能力の上昇効果があるので十分な代物ではあるがの」
「さ、3倍から⋯⋯8倍⋯⋯! やっぱりあの通達は本当なのか⋯⋯?」
「で、でも、そんなポーション聞いたことがないぞ!」
「い、いやでも、櫻子様がこんな公の場ではっきりと存在を認めているんだぞ? これで嘘をつくなんて考えられないし、第一そんな嘘ついたところで何のメリットがあるってんだよ⋯⋯」
「た、たしかに⋯⋯」
そんな副作用なしの覚醒ポーションの話から、いよいよ本題となる副作用ありの覚醒ポーションの話へと移行していく。
「さて、では⋯⋯『副作用ありの覚醒ポーション』じゃが、これも通達で書いたのは事実じゃ。つまり、身体能力上昇にプラス⋯⋯新たなスキルを手に入れることができるのじゃ!」
「「「「「おおおおっ!!!!!」」」」」
櫻子の言葉に会場が盛り上がる。
そして、その当事者ののじゃロリは「決まったのじゃ!」と言わんばかりに、腰に手を当て『どやぁ』と胸を反った。⋯⋯そんな時だった。
「じゃあ、証拠を見せてくださいよ。櫻子様ぁ!」
「! おぬしは⋯⋯」
会場が盛り上がる中、一際通る声が櫻子に物申すと会場の全員がその男に注目する。
「仮に、そんな凄えポーションが本当にあってそこまで効果を把握してるってんなら、実際にそのポーションを飲んだ奴がいるってことですよねぇ?! どうなんですかぁ?」
その男もまた『ドヤ顔』で櫻子に詰めよっていく。その男は、
「我王⋯⋯」
日本国内最強クランの一角を担うクラン『我王』のリーダー、我王無多だった。
「ちょっ⋯⋯! ちょっとぉぉぉ!? い、いきなり何そんな場違いな目立ち方してるんですかぁぁ!!!!」
世界の多くの実力者やトップ10ランカーがいる中、悪目立ちを始めた我王にクランNo.2の橋本が大慌てでツッコむ。
「うるせー! 俺はな前から思ってたんだ⋯⋯こんな夢見たいなポーションあるわけねーってな! だからちょうどいいじゃねーか⋯⋯こうして櫻子様が目の前にいるタイミングで証拠を見せて欲しいって催促するのはよ!」
「そ、そりゃ、そうですけどぉ⋯⋯。でも、わざわざこんな悪目立ちするようなことしなくても⋯⋯」
「バカ野郎! 大勢の前で証拠を見せてもらうのが一番いいじゃねーか!」
「で、でもぉ⋯⋯」
我王と橋本のやり取りに周囲が注目する中⋯⋯まさかの援護射撃が放たれた。
「君、良いこというねぇ〜? これは私もぜひ見たいねぇ〜」
「ああ〜ん?⋯⋯⋯⋯え?」
「あ⋯⋯ああああ」
その援護射撃をした人物を見て、我王と橋本が絶句する。
そして、その援護射撃の人物に会場から多くの声援が飛んだ。その人物とは、
「ア⋯⋯アレクサンドル・アーサーぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「うおおおおおおおお!」
「いや、えええええええええ!?」
「アーサー!」
世界最強の男⋯⋯アレクサンドル・アーサー、その人だった。