193「様々な思惑(2)」
「っ?! カ、カルロス具志堅⋯⋯」
「あい、我王ね〜? 久しぶりやっさー。元気ねー?」
「⋯⋯お、おう」
「《《おう》》? ほぅ〜〜〜⋯⋯ずいぶん舐めた口聞くや〜?」
「ひぃ?!」
我王の返事にカチンときたカルロスが強烈な威圧を放つ。すると、我王の顔が冷や汗とともに一気に青ざめた。
「おっと。すまん、すまん」
そう言って、カルロスがニカッと笑いながら威圧を解除すると、
「今日はお祭りやむん、我王もそんな眉間にしわ寄せるような顔さんけー」
と我王にフレンドリーに話しかける。しかし、
「う、うるせー! おい、いくぞ!」
我王はカルロスの言葉にまともな返事を返すことなくその場を離れていく。
「え〜〜〜かっこわるぅ〜⋯⋯。あ、そいじゃね〜、みんな〜!」
と我王に対して嫌味を吐きながら、トコトコと橋本も離れていった。
そんな我王や過疎化ダンジョン凸り隊のいざこざを離れたところで、蔑んだ目線を向けるのは国内の無名のA・B級ランカー。
「フン、今のうちに調子乗っとけ。覚醒ポーションで能力上げたら⋯⋯あいつらやってやる!」
「いいねぇ〜、俺も一枚噛ましてくれよ」
「おう、いいぜぇ〜」
「俺も俺も!」
「⋯⋯」
国内でも特に有名で注目度の高い『我王』や『過疎化ダンジョン凸り隊』に対し、好意的に思っている者とそうでない者がいるが、そんなやり取りをする彼らは間違いなく後者だった。
そんな彼らの狙いもまた『覚醒ポーションによる成り上がり』であり、それは何も《《国内組の話》》だけではなかった。
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ところ変わって、戦乙女や過疎化ダンジョン凸り隊らがいる『北側』とは反対に位置する『南側』には、探索者世界トップ10ランカーや、オメガ様ガチつよ勢、また国内外のS級ランカーといった『海外の有名探索者や国内外のS級ランカー勢』が集まっていた。
こうして北側・南側とクッキリと集団が分かれているのは、何も偶然などではなく、会場入りの際に主催者である『探索者ギルド日本支部』からの指示によるものだった。
そんな主に海外勢が集まっている『北側』でも、
「おいおい、すげえメンツだな〜。俺たちの場違い感ハンパねーじゃねーか」
「まったくだ。普段ダンジョン内でなら一目置かれる存在の俺たちでさえも、ここじゃまるでモブ扱いだ」
「でも、まぁ⋯⋯覚醒ポーションを飲んで能力が上がれば俺たちにも成り上がるチャンスがあるってことだ。テンション上がるぜ!」
「何でも覚醒ポーションの能力アップの効果は個人差があるらしいな?」
「ああ、だからこそチャンスがあるって話なんだよ。今、上にいる奴らよりも覚醒ポーションの能力アップの効果が高けりゃ、俺たちにも成り上がるチャンスがあるってもんじゃねーか!」
と意気揚々と話しているのは、インドやベトナム、アラブといった中央アジア出身で世界ランキング30位〜90位内のS級ランカーたち。
そんな者たちを離れたところで冷ややかに眺めているのは、
「⋯⋯まったく。S級ランカーにも品のない者たちが増えてきましたわね」
「はい。嘆かわしいです」
探索者ギルドイギリス総本部の副ギルドマスターにして、世界ランク第2位『キング』のソフィア・ナイトレイと、中国支部ギルドマスターで世界第5位『ナンバー5』のヨウ・リンファ。
「ボクも激しく同意です!」
と、二人の横で鼻息荒くも可愛い声で叫ぶのはA級上位ランカーで『男の娘神』として《《そっち方面》》で崇め奉られている『三賢人』リーダーの『エレにゃん』ことエレーナ・ツヴァイコフ。
「それにしてもオメガ様との直接の対面、いよいよですね」
「ええ、そうねリンファ。今からすでにドキがムネムネですわ」
「ボクもソフィア様と同じく今から興奮してます!」
「ついにオメガ様の実力をこの身で実際に体験できる⋯⋯。櫻子様に感謝ですね」
そんなオメガ様ガチつよ勢上位陣が興奮する中、その周囲に世界トップ10ランカーたちの姿も見える。
「ま、まさか、オメガ様ガチつよ勢の真のボスがソフィア・ナイトレイとヨウ・リンファだったとは⋯⋯」
オメガ様ガチつよ勢を横目にそう呟いたのは、世界ランク10位『ドイツ最強の男』ヴォルフ・エルゲンシュタイン。
「ていうか、俺からしたらヴォルフの旦那がここにいるのもだいぶ驚きだがな⋯⋯」
とその横で苦笑いを浮かべるのは、韓国最強探索者世界ランク第9位のパク・ハサン。
「そして、もう一人⋯⋯集まりにもほとんど顔を出さない世界最強の男⋯⋯」
「うむ。ずいぶん久しぶりに見るな⋯⋯」
二人の視線の先に映るのは、世界ランク第1位『エース』の称号を持つアレクサンドル・アーサー。
「さて、オメガという男。これだけのメンツを前に喧嘩を売ったその実力⋯⋯どれほどのものか」
「ははは⋯⋯なんだ、ヴォルフの旦那はオメガ目当てか」
「いや、別にそんなことは⋯⋯」
「嘘つけ。顔⋯⋯にやけてるぞ」
「⋯⋯し、しまった」
パク・ハサンに本音を見抜かれ、赤面するヴォルフ。
「いや、おっさんの赤面とか需要ねーから」