192「様々な思惑(1)」
大会開始30分前になると開場となり、お客さんが会場内に一斉に入ってきた。
かなりの数ではあったものの、優秀な誘導係のスタッフらのおかげで混乱やアクシデントもなく、大会開始10分前にはほぼすべてのお客さんをスムーズにスタンドに案内させていた。
そんな東京ドームの会場内、普段野球の試合が行われている球場はすべて厚めのゴムマットが全面に敷かれており、そして球場の中央付近に1メートルほどの段差のある『闘技場』のようなものが設置されていた。
照明は少し落とされ暗い感じを呈していたが、しかし対照的に闘技場は照明が煌々と照らされており、そのおかげで闘技場の存在感がより浮かび上がるような作りとなっていた。
「な、なんだか、すごいお金かかっているわね⋯⋯」
闘技場の『北側』に位置する場所でそう呟いたのは『戦乙女』クランのリーダー、七瀬 亜由美。
「ね、ねぇ⋯⋯私たち、本当にオメガ様と対戦するの?」
と、あわあわしながらそんなことを呟いたのは戦乙女の渚。
「知らないわよ! 櫻子様が出ろって言ったら出るしかないじゃない」
「そ、そりゃそうだけど⋯⋯」
二人がそんな会話をしていると、
「よー。戦乙女の〜」
「越智さん!」
声をかけたのは、琉球ダンジョンでオメガと一緒に探索していた『過疎化ダンジョン凸り隊』のリーダー越智大輔。実は、あの琉球ダンジョンでの一件以来、クラン同士連絡先を交換するほどの仲になっていたのだ。
「久しぶりね、みんな」
「おっひさ〜!」
「やー! 戦乙女のみんな〜!」
「やっほー、りんねだよ!」
その後、百合姫やともちー、りんな、りんねの愛宕シスターズと続々と戦乙女の元にやってくる。
「ところで亜由美ちゃんさぁ、オメガが言ってた『覚醒ポーション』の話だけど⋯⋯あれ本当にあるの?」
「え? さ、さあ⋯⋯」
「え? 知らないの?! 覚醒ポーションが欲しくて出場したんじゃないの?」
「は、はい。私たちは櫻子様の指示で強制出場なので⋯⋯」
「マジか⋯⋯。え? てことは、戦乙女は全員覚醒ポーションは初めから飲む前提ってこと?」
「そうですね。少なくとも参加賞みたいな覚醒ポーションを飲むことは《《必須》》って言われました」
「それってすげーじゃん! 特別待遇じゃん!」
「そ、そうですね。能力が上がるのは正直ありがたいです。でも、その後はまたレベル上げということでダンジョンに潜る日々が確定しています」
「⋯⋯マ?」
「マ」
そんな戦乙女と過疎化ダンジョン凸り隊が和気藹々と会話をしていると、
「おう、越智ぃ〜。てめえらも来たのか」
「我王⋯⋯無多」
現れたのは国内最強クランの一角——『我王』クランリーダーの『我王 無多』。
「は〜い、越智く〜ん。元気してた〜? 今度デートしよ」
そんな調子で越智に話しかけたのは、我王No.2の橋本 玲奈。
「おい、玲奈。軽々しくウチのリーダーに話しかけるな」
そんな橋本に噛み付くのは凸り隊の『百合姫』こと及川 百合恵。
「あら? 及川さんいらしたの〜? 気づかなかった〜」
「⋯⋯ビッチが」
「あ?」
「あ?」
国内でも最強クランとして名が上がる『我王』と『過疎化ダンジョン凸り隊』は、越智と百合姫のやりとりでもわかる通りクラン同士でとても仲が悪かった。
そんな時だった。
「お前らがあの櫻子様直属のクラン⋯⋯『戦乙女』だな?」
ギロリ⋯⋯。
突然、我王 無多が戦乙女を見て、ドスを効かせながら声を掛ける。
「「「「は、はいぃぃぃ!!!!」」」」
そんな我王の威圧を効かせた言葉に震え上がる戦乙女に、さらに容赦無く我王は詰め寄る。
「フン、どんなツエー奴らか期待してたが⋯⋯どうやらただのお遊戯会の集まりのようだな」
「⋯⋯は、はい」
「それなのに、櫻子様の直属のクランになり、そしてこの大会も無条件で参加だ〜? 正直気に食わね〜んだよな、お前ら!」
「「「「⋯⋯ひぃぃっ?!」」」」
我王がさらに威圧をかけた脅しに震え上がる四人。
「⋯⋯やめろ」
そんな我王にやめるよう言うのは越智大輔。
「ああ? なんだ越智? 手、離せやコラ⋯⋯」
「いいかげんにしろっつってんだよ、無多ぁぁ!」
「ちょっ?! リ、リーダー!」
「ス、ストップ、ストーップ⋯⋯!」
その越智に対しても威圧をかける我王に、今度は越智がブチギレたため一触即発となったことで、慌てて双方の仲間が思わず止めに入り、なんとかお互いを引き離そうとするも、しかし二人がかなり興奮していることもあり引き離すのに苦労していた。
その時——そんな渦中に一人の《《クセつよ筋肉だるま》》が飛び込んできた。
「はいさい! ちゃーがんじゅうね〜!(やー! 元気ね〜!)」
「「「「カルロスさんっ!!!!」」」」
間に入ってきたのは、国内最強格といわれるS級ランカーの一人で琉球ダンジョン以来の『カルロス具志堅』こと、ちょっちゅね具志堅だった。