190「右大臣ヴァルテラ(3)」
はじめは薬が効いていることもあり、ベガはマーレをまったく相手にしていなかったが、しかし何度も何度も甲斐甲斐しく説得に来るマーレにベガが徐々に心を許すような素振りを見せ始めたのだ。
女神テラの話では「この『傀儡麻薬』の効果は強力でその効果が消えることはない」と聞いていたが、しかし、マーレの振る舞いにベガが少しずつ心を許しているように感じた私は薬の効果に不安を抱くようになる。
「も、もしや、マーレの献身的な説得がベガの薬の効果を打ち消そうとしている⋯⋯とでもいうのか?」
不安に駆られた私は、少量残っていた『傀儡麻薬』をベガと同じように今度はマーレの食事に忍ばせた。
ただ、薬の効果が高く現れる量の半分以下しかなかったため、マーレに効くかどうかは五分五分だったが、しかし結果はマーレにもその効果は現れ彼女の傀儡に成功した。^
二人の傀儡に成功した私だったが、しかし表向きは「魔王ベガと女帝マーレに従う私」を演じ、周囲に私が主犯であると思われないよう動いた。
これはのちに魔族を統一した後や、将来の様々な懸念を鑑みて有利に働くと考えた上での行動だった。
その後、ベガの暴走にマーレも従っていたが、しかし、時たまマーレが理性を取り戻すような素振りを見せることがあった。
私は「おそらく『傀儡麻薬』の量が足りなかったため、マーレの拘束力が弱いのためではないか」と推測。
とはいえ、傀儡麻薬の効果はマーレに依然残っていたので、私は得意とする話術でマーレを懐柔しようと動いた。結果、薬の効果と『脳筋マーレ』という単純思考の彼女だったこともあり、あっさりと陥落。その後は問題なくマーレを意のままに操ることができるようになった。
それからしばらくして結城タケルが現れ、ベガを打ち倒し、マーレはその結城タケルを恨むこととなる。
すべては女神テラが考えた計画どおりだった。
ただ、私の願いである「ベガを葬り魔族を統べる」は成就したものの、ベガを倒した結城タケルを倒すにはマーレや魔族を率いたとしても難しいというのが正直のところだった。
そのため「これからどうすればいいのか」と悩み始めた頃、女神テラが目の前に再び現れ「結城タケルを殺す手段」として私に新たな指示を与える。
それは『空間の歪み』を操作できる魔道具⋯⋯『裂境発生装置』を使って「結城タケルが元いた世界で奴を殺せ」という内容だった。
さらに計画の詳細を聞いた私は、『裂境発生装置』と、強力な魔物を作り出す薬⋯⋯『魔造細胞薬』を貰い受け、マーレと共に結城タケルの元いた世界⋯⋯『地球』という惑星の国の一つ『日本』へと転移した。
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女神テラの計画通り、結城タケルが地球に戻るより前の——15年前の日本に転移した私とマーレは、15年後に現れる結城タケルを確実に倒すべく、兵隊となる魔物の製造に取り掛かった。
ちなみに、日本に転移した直後、あのエルフ族の長老『サクラコルン』に出くわすという予想外のトラブルはあったが、なんとか『隠蔽』を使って逃げ切れた。
その際、マーレは見られたものの私は白装束を羽織っていたので気づかれずに済んだのは不幸中の幸いだったろう。
とはいえ、マーレを見られたことであっちの世界の我ら魔族が地球にやってきたことがバレてしまった。なので、私とマーレは魔法で姿形を変え身を隠す。
その後、この世界にもダンジョンがあること、そのダンジョンの中に『魔物』と呼ばれる、我らの世界にいた魔物と似たような生き物がいることに驚きつつも、女神テラからもらった『魔造細胞薬』を使って強力な魔物を作るという計画からすれば、ここは最適な環境だった。
それから15年の月日が流れ、現在に至る。
計画はここまで順調だったのだが、ここでマーレに含ませていた『傀儡麻薬』の効力が切れかかっているのか、
「タケルが主催する大会に出て⋯⋯決着をつける!」
そう言い放ち私が指示をしても従わなくなった。それどころか、
「別に私はこの世界の人間をどうこうしようとは思っていない。私はタケルと1対1でケリつければそれでいいのだ。だから、地上侵略は中止しろ」
と命令し出す始末。
私は彼女を静止できないと判断し、表向きは指示に従うこととしたが、しかしもうここまできたら彼女抜きでも問題ないくらいには強い魔物を生み出している。
何なら『四つ柱』全員の力はもはや彼女を《《凌駕》》しているのだし、四人や魔物たちは彼女ではなく私に従属している。
なので、私はマーレに黙って計画を実行するまで。
「フン。マーレが結城タケルに勝とうが負けようがどうでもよい。二人がぶつかり消耗すればその後に私自ら葬ればいいのだから」
私は、計画の実行は結城タケルの大会が終わるタイミングと決めた。
「フフ⋯⋯私はこの世界で王となるのだ」