189「右大臣ヴァルテラ(2)」
「な⋯⋯に? ベガ様を殺せ⋯⋯だと?」
「そうです」
「フッ⋯⋯なるほど。そういうことでしたか」
「? 何でしょう?」
「あなたは人間族が信奉する女神。つまり、私たち魔族を滅亡させるためにここへ来たのでしょう? まーそりゃそうですよね。ちょっと考えたらわかることでした」
「何のことですか?」
「とぼけないでください。まーでも、だからといって、自分の手を汚さず私に魔王ベガ様を殺させようとするとは⋯⋯女神にしてはやり方が姑息ですね」
「ああ、なるほど。《《そう》》解釈しましたか。ふふ⋯⋯」
「⋯⋯違うのですか?」
「そうですね。ちょっと言葉が足りなかったですね。ではちゃんとお願いしましょう⋯⋯」
「何?」
「魔族No.3『右大臣』ヴァルテラよ。魔王ベガを殺し、お主が魔族を率いて⋯⋯⋯⋯結城タケルを殺しなさい」
「ベガ様だけでなく結城タケルも⋯⋯殺せ?」
「はい。ちなみに殺して欲しいのは魔王ベガではなく《《結城タケルのほう》》です」
「な⋯⋯っ!?」
女神テラが標的は『結城タケル』だと、はっきりと告げる。
「あ、あなたは、人間族が信奉する神じゃないんですかっ?!」
「ええ、そうですよ」
「じゃあ、なぜ守るべき側の人間族の味方をしている結城タケルを殺せなどと⋯⋯」
「それはこちらの事情ですし、別にあなたには関係のないこと。そうでしょ?」
「⋯⋯」
「でも、だからといって、あなたにとって悪い話でもないと思うのだけれど⋯⋯違う?」
「⋯⋯」
女神テラが見透かしたように笑みを浮かべながらそう問うてくる。
「ヴァルテラ⋯⋯あなたの願いは『魔王ベガの現体制の崩壊』でしょ? そして、多種族との豊かさを享受する世界『共生の新時代』というものに腹が煮えくり返っているのでしょう? ならば、私の提言はあなたにとって『渡りに船』なのでは?」
「⋯⋯」
「それに、もしこの提言に承諾してくれるのであれば、こちらも《《それ相応の》》協力はしますよ」
「協力?」
「ええ。例えば⋯⋯⋯⋯あなたの力の《《底上げ》》」
「なっ?!」
「ふふ、何を驚いているのです? 今のあなた一人では魔王ベガや結城タケルを殺すことは無理でしょう? なので、このくらいは当然です。それに力の底上げだけじゃなく、あなたが彼らを殺すのに必要な様々な物を提供する用意もあります。いかがですか?」
「⋯⋯」
悔しいが、女神テラの言う通りだった。
今の私の力では魔王ベガ様や結城タケルを殺すことや、『共生の新時代』を止めることなどできない。だから行動に移すこともできなかったし、半ばあきらめていた。
しかし、そんな絶望の中、私の目の前に突如現れた女神テラ。その彼女の提言は私に取ってまさに『渡りに船』だった。
「たしかに魅力的な提言であることは認めよう。しかし、なぜ⋯⋯なぜそこまで私にさせようとするのだ? 正直女神テラの先ほど見せた力であれば、魔王ベガ様だけでなく結城タケルも殺せるのではないか?」
「ああ、それは無理なの。私が地上への介入にはいろいろと制限があるから」
「制限?」
「詳しく話すと長くなるから言わないけど、つまりそういう理由があるからよ。まーだからといって私に力がないわけじゃないのよ? その証拠にさっきあなたにもその一端を見せたでしょ? つまり私ができることは、こうして地上の者とコンタクトを取って協力者を作ることくらいなの。まーこれにも条件があるからいつでも誰でも⋯⋯とはいかないのだけれどね」
といって、ふふっと笑う女神テラ。
ふむ。しかし、それなら私にとって損はない話だな。
「⋯⋯いいでしょう。協力しましょう」
「ふふ、ありがとう。助かるわ」
そうして、私は女神テラと手を組んだ。
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その後、私は女神テラから貰った毒薬『傀儡魔薬』をベガ様⋯⋯いやさ《《ベガ》》の食事に含ませると見事ベガの傀儡に成功した。
正直、魔王ベガはこういった毒の耐性を持っている女神テラに「毒は効かない」と言ったのだが、女神テラは「地上にある物とは違って強力な薬だから大丈夫よ」と自信満々に返事を返した
それでも私は半信半疑だったが、しかし、結果見事にその毒薬は効果を発揮しベガが私の傀儡となった。
素晴らしい気分だった。
その後私はベガを結城タケルから離して、人間族や他種族に対して宣戦布告させ、それと同時に侵攻を開始。結果、魔王ベガはその強大な力で人間族や他種族を蹂躙するなど暴虐の限りを尽くさせた。
最高だった。
これまで、ずっと苦渋を舐めていた私にとって最高の景色だった。女神テラの提言を受け入れて良かったと思った瞬間だった。
しかし、そんな時だった。マーレが必死にベガを止めようと説得し始めたのは⋯⋯。