188「右大臣ヴァルテラ(1)」
私の名は『ヴァルテラ』。
こことは異なる世界で、魔王ベガ様を頂点にNo.2の『左大臣』女帝マーレ様と『右大臣』である私ヴァルテラの3人を主軸に魔族を率いていた。
我々は、地上を支配するべくベガ様を中心に多種族どもと日々勢力争いを繰り広げ、そして戦果を上げていた。
そうして「あと一歩」というところまできた⋯⋯そんな時、人間族が異世界から『勇者』を召喚したというニュースが飛び込んできた。
その異世界から召喚された勇者の名は『結城タケル』といった。
初めは「そいつたった一人で何ができる」と《《たかを括っていた》》が、しかしそいつはあれよあれよと我ら魔族を倒していき、あっという間に我らが支配していた地域を奪取していく。
しかも、そいつが勇者だからなのか、異世界の人間だからなのかはわからないが、獣人やエルフ、ドワーフといった亜人種族どもがそいつの元にどんどん集まっていった。
そいて、気づけば我ら魔族の支配地域は全盛期の3分の1まで縮小した。
そんなときだった⋯⋯結城タケルの噂を耳にしたベガ様が「なんだか面白そうな奴だな」と興味を示したかと思うと、なんと私やマーレにも黙って一人で結城タケルと接触。
その後、二人は秘密裏に何度も接触を図り、途中からはマーレ様までもが加わった。
すると、それから半年も経たないうちに、ベガ様は結城タケルを通して人間族やその他種族と『不戦条約』を結んだ。
それを知った当時の私にとって、それはまさに青天の霹靂だった。
私はベガ様に「これまで支配していた領土が全盛期の3分の1も奪われたのにどうして『不戦条約』などというふざけた条約を交わしたのですか!」と怒気まじりに提言したが、ベガ様は「別に領土が3分の1になった今でも俺たち魔族が生きるには十分な広さじゃないか」などと仰い、さらには「それに戦はもういい。これからはこの星に住む者同士、豊かさを享受する『共生の新時代』が始まるんだよ」などと言って、私を諭そうとした。
このことで、私は「ベガ様はもうダメだ」という結論に達した。
なので、私は今度はマーレ様に「ベガ様のかわりにマーレ様が魔王となって魔族の復興をしてくれませんか。そして、ふざけた人間や亜人種族たちから奪われた土地を奪い返しましょう!」と鼻息荒く話を持ちかける。
すると、マーレ様もまたベガ様同様「別に戦いはもうよい。それよりもベガ様とタケルが描く『共生の新時代』という未来を私も見てみたい!」などと言い出した。
そう、二人ともすでにあの結城タケルに絆されていたのだ。
その後、ベガ様、マーレ様、結城タケルの3人は『共生の新時代』というベガ様と結城タケルが考える『全種族がこの星で豊かさを享受する世界』の実現に動き出す。
私は表向き、ベガ様と結城タケルの話に賛同するような振る舞いをしつつ、裏では「この状況をどうにかして壊せないものか」とずっと考え、機会を伺っていた。
そんな時だった⋯⋯⋯⋯女神テラが現れたのは。
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「女神⋯⋯テラ、だとっ?!」
目の前にいる人間族の風貌をした少女が「自分は女神テラだ」と名乗る。女神テラとは人間族が崇拝している神で、この世界を作った創造主ともいわれている。
そんな『女神テラ』の名を語るこの少女を私は当然信じなかった。
すると、彼女は「ほれ、これが証拠じゃ」と私の目の前で強大な力を振りかざす。その力を見せつけられた私は、彼女が正真正銘『女神テラ』であることをまざまざと思い知らされた。
そんな彼女が「ヴァルテラ、あなたに頼みがあるの。聞いてくれる?」などと言ってきた。私は「こんな絶大な力を持つ女神テラに逆らえるはずがあるか!」と半ばキレ気味に返事を返す。
すると、彼女はニコリと不敵な笑みを浮かべながら「これはあなたの望みを叶える話でもあるのよ?」などと言ってきた。私は「何言ってんだ?」と悪態をつこうとしたが、しかし、彼女の話に少し興味が湧いたのも事実。不本意ながらも結局誘惑に負け、彼女の話に耳を傾けた。
すると、女神テラの口から《《信じられない話》》が飛び出す。
「魔王ベガを殺しなさい」