183「オメガインパクト狂想曲(2)」
「いや、すげえな。オメガ!」
オメガの電波ジャックが終わってつい大きい声を上げる『過疎化ダンジョン凸り隊』のリーダー、越智 大輔。
「ゴリゴリに喧嘩売ったわね、彼」
と、その横で淡々と状況を受け止めているのは『百合姫』こと、及川 百合恵。すると、
「リーダー、参加するの?」
率直に聞いてきたのは『ともちー』こと原田 朋美。
「いやぁ〜、あのオメガだぞ? あいつに挑戦って⋯⋯さすがに⋯⋯」
「でもさー、挑戦者として100名に選ばれたら身体能力が最低3倍は上がるっていう『覚醒ポーション』は魅力じゃない?」
「⋯⋯まあな」
「それにしても本当なのかしら。その『覚醒ポーション』っていうアイテム。正直聞いたことないわよ、そんなの」
そこに、さらに百合姫が入ってくる。
「うん。私も初めて聞いた」
「俺だってそうだよ」
その百合姫の言葉に同意するのはともちーと越智。さらには、
「正直、俺的には『覚醒ポーション』の話は嘘⋯⋯ていうかちょっと《《盛って》》言ったんじゃないかな〜って思う」
「盛る?」
「ああ。実際に『覚醒ポーション』の話と、その効果である身体能力が最低3倍は上がるって話だよ」
「でも、なんでそんな嘘を?」
「たぶん⋯⋯喋る魔物の脅威の話は本当で、でも、それの対応には全世界の探索者の協力が必要だからじゃね? ただ、それを無償で協力してもらうのは難しいからああして喧嘩を売るようなメッセージを出すのと、さらには『ご褒美』的な物を用意する必要があったんじゃないかなぁ⋯⋯」
「「「おおおお、名推理っ!!!!」」」
そんな越智の言葉に全員がパチパチパチ⋯⋯と拍手を送る。
「ただ、さすがに『覚醒ポーション』ってのは無理でも何らかの便利アイテムは上げるとは思うけどな」
「まー、たしかにその《《線》》が一番妥当な真実かもね」
そんな越智の推理に百合姫も納得の反応を示した。⋯⋯そんな時だった。
「りんねはオメガ様の『覚醒ポーション』の話は⋯⋯本当だと思うよ」
と、普段はおちゃらけな言葉や態度のりんねが急に真顔でそんなことを言い出したので、周囲が驚いた表情で一斉にりんねに顔を向ける。
「え? な、なんで⋯⋯?」
「だって、喋る魔物に腕を斬り飛ばされたりんねの腕を蘇らせたのはオメガ様のエリクサーだったんだよ? エリクサーなんてある意味都市伝説レベルの幻のアイテムじゃん。それをオメガ様は私と、リーダーと百合姫にサラッと無償で使ってくれたんだよ? そんなオメガ様が言っている『覚醒ポーション』は本当にあると思う⋯⋯いえ、絶対にある!」
「「「た、たしかに⋯⋯!」」」
りんね自身が琉球ダンジョンで経験したその言葉は、周囲の疑念を一瞬で払拭するには十分だった。
「だから、これってダメもとでもいいから絶対に応募したほうがいいって私は思う!」
「り、りんね⋯⋯」
普段のりんねは見た目と同じ子供のような振る舞いだったり言葉だったりするのだが、それだけに今のりんねの真摯な態度と力強い言葉は周囲を否応なく納得させることができた。
「ていうかリーダー、めんどくさい! ぐだぐだ言ってないで出よう!」
「り、りんなっ?!」
すると、愛宕シスターズ姉のりんなが妹の援護射撃をする。そして、それを皮切りに、
「うん、出よう、出よう! ぐだぐだ言うな、リーダー!」
と、ともちーもりんなの勢いに乗っかって参加表明を煽る。
「ぐ、ぐだぐだって⋯⋯。お、俺は、皆を心配してだなぁ⋯⋯!」
「越智君」
「ん? 何だよ、百合姫?」
「もう何言っても無駄よ。愛宕シスターズの判断はあなた以外は賛成なのだから」
「えっ?! 百合姫は参加は賛成なのか!」
「ええ、もちろん。あの時⋯⋯琉球ダンジョンで、あの⋯⋯あの《《腐れ喋る魔物》》に歯が立たなかった自分の弱さが許せないの、私」
「ゆ、百合姫⋯⋯? いや、及川⋯⋯さん?」
「だから、オメガへの挑戦で参加できればその覚醒ポーションを飲んで強くなりたいの。いえ、何だったら実際にオメガに挑戦して勝って、さらにその上の覚醒ポーションを飲みたいとさえ思ってるわ!」
「え、ええええええっ?! 百合姫って琉球ダンジョンのあとからずっとそんなこと考えていたのか!」
「ええ。自分の弱さにずっと腹立っていたわ。だから、りんねの話を聞いて覚醒ポーションが本当に存在する可能性が高いのであれば『出場』の一択よ」
「マ、マジぃぃ⋯⋯」
こうして、リーダー越智大輔の心配をよそに過疎化ダンジョン凸り隊の皆さんも参加に名乗りをあげることとなりました。