018「見上げたらそこにめっちゃ美少女がいて声をかけられた件(震え)」
——お昼休み
俺は教室で弁当を食べている。⋯⋯一人で。
周囲を観ると、皆気の合う生徒同士でご飯を食べている。
これが俺の『今』である。
佐川たちやクソ先公に『わからせた』あの日から2週間が経過。現在は特に問題なく学校生活を送れている。佐川は今では俺を見ると怯えた顔をして目を合わそうとしない。そういえば取り巻きビッグ3は見かけなくなったな〜。
ちなみに、これまで佐川たちにいじめられていたカースト最底辺の身分だったので、クラスの奴らは俺に話しかけることはない。まー佐川たちに目をつけられるのは嫌だろうからな。仕方ない。
つまり、何が言いたいかというと、現在俺は絶賛『友達ゼロ』だということだ。
そんな俺だがお昼は教室で一人ご飯を食べている。現役高校生のメンタルなら『ぼっち飯』を教室で実行するのはかなりハードルが高いだろうが、俺は実際の年齢は『22歳』だし異世界で色々とメンタルも鍛えられたので、教室でぼっち飯程度特に気にならない。
ただ、一人でご飯を食べるということは話す相手がいないということなので、結果、弁当をあっという間に平らげてしまったので、持て余した時間を、
「ちょっと現状整理してみるか」
という『暇つぶし』にあててみた。
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「探索者⋯⋯ダンジョン探索かぁ〜」
まずは『探索者』だが、これをこれから頑張ってお金を稼ぐ手段にしたいと考えている。ちなみに、現時点で俺はすでにレベル2を遥かに超えているので、すぐにでも『F級探索者』になれる。
「まずは、F級探索者の登録だが、これは今週末に行くということでいいな」
平日は学校なので登録は週末の土曜日に行く予定である。
「まーでも、その前に家族に探索者になる《この事》は絶対に伝えないといけない。けど、母さんが許してくれるかなぁ〜」
元々、いじめられていたことを知っている母さんだけに、俺が「探索者になる」なんていったら反対するのは間違いないだろう。
「でも、だからといって家族に隠して探索者活動するのは無理だし、そもそも隠すこと自体ナンセンスだ」
だって、俺は真っ当に人生を歩みたいと思ってこの世界に戻ってきたんだから。
「うん⋯⋯ちゃんと伝えよう」
俺は机の下で拳をギュッと握って気合いを入れた。
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「あとは〜、まぁ、残りの高校生活⋯⋯だよな〜」
元々いじめられていた俺だけに、俺と佐川たちに関わらないよう避けていた。一応、現状佐川たちとは決着がついたとはいえ、依然『ぼっち』は変わっていない。
「まぁ実際、周囲は俺が佐川たちからのいじめが無くなったことをこの2週間で感じているだろう。でも、だからと言ってわざわざ俺に話しかけるような、そんなホスピタリティ精神の溢れる奴なんてクラスメートにはいないだろう」
だって、下手に俺に関わって佐川たちに目を付けられるのは嫌だろうからな。俺だって逆の立場なら嫌だ。
「ま、いじめられっ子との関係性なんて、このまま無関係を貫き通すのが普通だろうなぁ⋯⋯」
人がそんなに強くないことはよく知ってる。
「となると、それでも残りの学園生活を少しでも楽しくしたいと考えるなら、自分から積極的に話しかけるってことになるんだけど⋯⋯」
しかし、である。正直友達が欲しいかといえば、
「うん、ぶっちゃけいらないか〜」
そう、現在俺は17歳の高校2年生だが実際は異世界で5年間生活していたので、実際の年齢は22歳。そのため周囲の同級生たちを見ても精神的にだいぶ幼く感じてしまう。
「正直、そんなだいぶ幼く感じるクラスメートと話したところで会話が弾むとはとても思えないんだよな〜」
実際、周囲の会話に聞き耳を立てるとみんなテレビドラマの話とかアイドルの話がほとんどだ。⋯⋯たまにアニメやラノベなどの話をしているオタクな奴らもいるけど。
「まーオタクな奴らとは話が合うかもな⋯⋯」
とはいえ、わざわざ自分から話しかけようなどというエネルギーは湧いてこない。
「あ、これ詰んだわ〜。俺の学園生活詰んだわ〜」
実際、5つ下の子たちと気が合うとか価値観が合うなんて⋯⋯無理ゲーだよな。
「はぁぁ〜、まあ卒業すれば探索者としてやっていくんだ。学校は適当に卒業できる範囲で通おう⋯⋯」
そんなわけで残りの学園生活を『ぼっち』でいくことが確定した俺は、ちょっと泣きたくなったので机に突っ伏した。
⋯⋯その時だった。
つんつん。
ん? なんか肩につんつんって⋯⋯。
つんつん。
なんだよ?! こっちは泣きたいってのにさぁ〜!
「ん〜? 何〜?」
俺は少し不機嫌な感じで顔を上げた。すると、
「あ! ご、ごめんなさい⋯⋯!?」
見上げたらそこにめっちゃ美少女がいて声をかけられた件(震え)。
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「ご、ごめんなさいっ?! 寝てましたか?」
「い、いえいえいえいえ〜! そ、そそそ、そんなことないですぅ〜!」
俺、めっちゃ焦る。あと、すんごいどもる。
え? 何? 何なの?
誰〜? この美少女、誰〜?
突然の『黒髪ロング美少女』出現に混乱しアホっ子まる出しになる俺。
「え、え〜と、あの私⋯⋯あの事故であなたに助けられた者で」
「え⋯⋯?」
あ〜、そういやいたな〜。
たしかあの時、トラックが突っ込む場所にいた女性を俺は突き飛ばして、それで入れ替わるように俺が轢かれたんだった。
「あー、あの時の⋯⋯」
「その節はどうもありがとうございました」
そう言って、目の前の美少女が品格高い所作で首を垂れる。うわぁ、この人めっちゃ所作きれいだな〜。
「あなたのおかげで私は命を救われました。このご恩は⋯⋯一生忘れません」
「い、一生って、そんな大袈裟な! 俺は別に大したことは何も⋯⋯」
「そんなことありません!」
ギュッ!
「えっ?!」
美少女が突然ギュッと俺の手を両手で握って力強く訴える。
うわぁ。女性のおててってやわらか〜い。
「あっ?! ご、ごごご、ごめんなさい! 突然手なんか握ってしまって!」
「あ⋯⋯」
そう言うと、彼女はすぐに手を引っ込めた。
え〜〜〜いいのに〜〜〜。ていうか、おかわりプリーズなんですがががががっ!
ざわっ⋯⋯。
あれ?
何か今、室内の空気が変わった⋯⋯ような?
「あ、あの、私、雨宮⋯⋯雨宮 理恵と言います」
「あ、えーと、タケル⋯⋯結城タケルです」
「タケルさんですね。ありがとうございます!」
あれ? いきなり名前呼び?
いや、ま、別にいいけど。美少女からの名前呼びなんて別にいい⋯⋯ありがとうございますっ!!
ざわ⋯⋯。
ん? またしても室内の空気が?
しかも、さっきよりも⋯⋯禍々しい?
「あ、それじゃあ私そろそろ行きますね」
「は、はい。どうも⋯⋯」
そうして、彼女が教室から去ろうと扉の前まで来た時、クルッとこっちに振り向き、
「あ、あの⋯⋯! ま、また、お話しに来ても、いいでしょうか?」
と、大きな声で告げた。
「えっ?! あ、いや、その、あの⋯⋯は、はい」
「⋯⋯やった! それじゃ失礼します!」
ドキッ!
な、何、今の笑顔⋯⋯?
めっちゃ可愛いんですけどぉぉぉ!
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そう言って、雨宮さんは教室を去っていった。
「う〜ん、美少女なのは間違いないが、それだけじゃなく何かこう⋯⋯すごい所作のきれいな子だったな〜」
俺は彼女が去った後、一人その余韻に耽っていた。すると、
ジィィィィィィ⋯⋯!
「⋯⋯え?」
気づくと、教室の男子だけでなく女子も含めたクラスメイト全員が俺に強い視線を向けてきた。
え? 俺、何かやっちゃいました?(鈍感系主人公? いやいや、そんなバカな)