175「タケルと魔王ベガと女帝マーレ(2)」
「タケル。その話なんじゃが、ちぃーとばかし⋯⋯⋯⋯《《おかしな部分》》があることに、お主気づいておるか?」
「え?」
ふいに、櫻子たんが口を開いた。
「前にも話したが、ワシが女帝マーレをこの世界で初めて見たのは15年前じゃ」
「うん、知ってる」
「で、じゃ。そんな15年も前に現代にきた女帝マーレがお前を殺すために喋る魔物を作った。それもこれもお主を殺すために」
「⋯⋯ああ」
「しかし、良く考えてみると《《これって》》おかしいことだと思わんか?」
「え? それってどういう⋯⋯」
「鈍い奴じゃのぉ〜。つまり⋯⋯⋯⋯どうして女帝マーレは《《お主がこの世界に来ること》》を知っておったのじゃ?」
「⋯⋯あ!」
た、たしかに!
「あと⋯⋯まぁこれは何とも言えんとこじゃが、しかし、気になるといえば気になることがある」
「え? まだ何か⋯⋯」
「うむ⋯⋯⋯⋯『白装束の人物』じゃ」
「! あ、ああ⋯⋯女帝マーレと一緒にいたって奴か。それが?」
「ワシの見立てだとあいつこそがこの『喋る魔物計画』の黒幕なんじゃないかと思っておる」
「えっ?!」
「さらにいえば⋯⋯⋯⋯女帝マーレはそいつに『利用』されておるとワシは睨んでおる」
「ま、まさかっ?! マーレに限ってそんなこと⋯⋯。だって、あいつ魔族の中でもN0.2の実力だぞ! そんなマーレを利用するなんてできるような奴がいるわけ⋯⋯」
「じゃが、当時の女帝マーレは魔王ベガが殺されて精神的に弱っていたんじゃろ? もしかすると、その隙をついて彼女を利用した⋯⋯というのは考えられんか?」
「そ、そんなこと⋯⋯。いやでも、その可能性はある⋯⋯のか?」
「そもそもいくら最愛の人を亡くしたといっても15年もの間その怒りが続くというのも疑問じゃしな」
「それは、それだけベガのことが好きだったってことじゃ⋯⋯」
「しかもじゃぞ? 彼女が恨んでいるのがタケルだけであれば⋯⋯彼女ならお主との一騎打ちを望むんじゃないか?」
「! た、たしかに⋯⋯彼女の性格なら⋯⋯」
「ワシも女帝マーレのことはある程度知っておる。じゃから言えることじゃが、あやつがお主以外の関係のない⋯⋯しかも別世界の人間を滅ぼそうとしているなど考えられん」
「あ、ああ。あの脳筋マーレなら俺がこの世界に戻ってきたとわかった時点ですぐに俺を探して一騎打ちを望むだろう⋯⋯いや、絶対にそうする!」
うん、あいつはそんな奴だ。脳筋で、感情的で、そして『筋』を通さないことを一番嫌う、そういう奴だ。
「あいつが関係のない奴に手を出すなんて、そんな筋の通らないこと⋯⋯絶対にしない! そうだ⋯⋯そうだよ⋯⋯。なんで俺、気づかなかったんだ? あいつの性格を考えたらこれくらいすぐに気づけたはずなのに⋯⋯」
俺は櫻子たんの言葉を聞いて初めて気付かされた。
「⋯⋯間違いない。絶対にマーレは何者かに操られている」
まったく、今頃になって気づくなんて俺もまだまだだな。
ていうか、久々に⋯⋯⋯⋯キレそうだぜ!
ドン⋯⋯!
「「「「「っ?!」」」」」
ゴゴゴゴ⋯⋯(ガシャン!)⋯⋯ゴゴゴゴ(バリン、バリン!)⋯⋯ゴゴゴゴ(ベキベキベキ!)⋯⋯ゴゴゴゴ⋯⋯っ!!!!!!
「うわっ!?」
「きゃああああああああああ!!!!!!!」
俺はついカッとなって本気レベルの魔力を放出してしまう。すると、かなりのスキル攻撃でも耐えられるよう作られた第2実験室の頑丈な地面や壁、天井までもが俺を中心にへこみ亀裂を走らせた。まるで隕石が落ちた後のクレーターのように。
「そ、そんなっ?! 第2実験室の床や壁がこんな簡単に亀裂が入るなんて⋯⋯」
如月さんがこの状況を見て唖然としながら声を震わせ、そう呟く。
「やりすぎじゃ、バカタケル! ちっとは感情を抑えろ!!」
そして、俺の変化をすぐに感じ取り、咄嗟に結界を張って皆を守ってくれた櫻子たんからマジお叱りを受ける。
「ごめん。でも、ありがとう櫻子たん。皆を守ってくれて」
「まったくじゃ! 今度『赤坂青野のひなあられ』をケースでワシに献上するのじゃぞ!」
「ああ、わかったよ」
みんなには迷惑をかけてしまったが、しかし今の俺は心のモヤが取れてスッキリしていた。⋯⋯これまではマーレと闘うことにどこか後ろめたさを感じていたから。
でも、櫻子たんの言葉で気付かされた。
「本当の黒幕⋯⋯本当の敵は『白装束の人物』」
「おそらく間違いないじゃろうな。で、どうするのじゃ、タケル?」
「そんなの決まってる⋯⋯⋯⋯そいつをぶっ倒してマーレとけじめをつける!」