174「タケルと魔王ベガと女帝マーレ(1)」
「え? 何の話?」
「《《釣る》》?」
と、理恵たんと佐川が話に参加してきた。
「えっと〜⋯⋯実は〜⋯⋯ごにょごにょごにょ」
「は? はぁぁぁぁぁ?!」
「ええええっ?!」
俺が2人に説明すると予想通りのリアクションを頂いた。
「お、お前それ⋯⋯本気でやるのかっ?!」
「もちろん」
「そ、そんなことしたら全世界の探索者を敵に回すことになるよ、タケル君っ?!」
「うん、そうだね」
「「だったら⋯⋯!」」
二人が俺の説明を聞いてドン引きすると、すぐに「やめるよう」説得してきた。だが、
「ぶっちゃけ、それくらいの行動をしないとたぶん《《間に合わない》》んだよねぇ〜」
「間に合わない?」
「な、何のこと?」
「いつかはわからないがそう遠くない未来、たぶん⋯⋯⋯⋯『大量の喋る魔物による一斉攻撃』が始まる」
「しゃ、喋る魔物の一斉攻撃⋯⋯?!」
「ああ」
「そ、それって、琉球ダンジョンに姿を見せた『喋る魔物の幹部』たちが攻撃してくるってこと?」
「幹部だけとかそういうことではなく、幹部を筆頭に喋る魔物の大群が俺たちの生活圏目指してダンジョンから上がってくるって意味だ」
「な、なんで⋯⋯」
「⋯⋯理恵たんや佐川もすでに俺が異世界にいたってことは知ってるよね?」
「! う、うん」
「あ、ああ⋯⋯」
「実は、今話した『喋る魔物の一斉攻撃』⋯⋯これはその『異世界』に関係してる」
「「え?」」
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「『異世界』」に関係してる?」
「⋯⋯結論からいうと、喋る魔物を作ったのが異世界で魔族のトップだった魔王ベガの側近『女帝マーレ』。で、そのマーレの指示のもと、喋る魔物たちがこの人間社会を破壊しにダンジョンから上がってくる⋯⋯って話だ」
「ま、魔王ベガの⋯⋯側近」
「女帝⋯⋯マーレ」
二人が俺の説明にただただ唖然としている。まー当然だろう。たしかに二人は俺が『異世界にいた』ことを知っているが、さすがに喋る魔物を作ったのが異世界の魔族で、その魔族が先導して人間社会を襲うなんて言われて、それを理解するなんてさすがに無理だよなぁ⋯⋯などと思っていたのだが、
「たしかに喋る魔物は『魔法』を使っていたし、それなら辻褄が⋯⋯合う?」
「喋る魔物がどうしてタケル君と同じ『魔法』を使えるんだろう⋯⋯って思っていたけど、喋る魔物が異世界の魔族が作り出した生き物って言われたら納得いくわ」
と、二人とも意外と理解が早かった。ちょっとビックリである。
「で、でも、どうしてその女帝マーレって魔族はこの人間社会を壊したいなんて思ってるの?」
「それは⋯⋯⋯⋯」
俺は二人に魔王ベガを倒した経緯を話す。
「つ、つまり、女帝マーレが人間社会を破壊しようとする理由って⋯⋯タケル君が魔王ベガを倒したからってこと?」
「ああ、そうだ」
「そ、そんな⋯⋯。でも、それは仕方がなかったことだったんでしょ?! 魔王ベガが部下の魔族を使って人間を襲っていて、それでタケル君たちにとっても危機的な状況なわけだったんだから⋯⋯」
「⋯⋯ああ」
「そうだよ! それに、その魔王ベガは正気じゃなくなってて⋯⋯それを止める術は倒すしかなかったんだろ? だったら、それはどうしようもないことじゃねーか! それをお前のせいってするのは違うじゃん!」
二人が必死に俺を擁護してくれるような言葉を並べる。でも⋯⋯、
「でも、女帝マーレはそうは思っていない。いや、おそらく頭ではそう理解していても、魔王ベガが死んだ事実を受け入れられないんじゃないかと思う⋯⋯」
「そ、そんなのって⋯⋯」
「俺とベガ、マーレはこのことが起きるまでは種族は違えどお互い認め合う仲だった。だから、マーレはたぶんベガを殺さない方法があったんじゃないかって⋯⋯。それが納得いってないんじゃないかって⋯⋯俺は思う」
「で、でも! タケル君は魔王ベガに『自分を殺すよう』言われて、それでやむを得なく⋯⋯そうしたんでしょ?」
「ああ」
「なら、やっぱタケルのせいじゃねーじゃねーか!」
「⋯⋯だが、マーレはベガを愛していた。そして、そんな最愛の人を俺が殺したんだぞ? そんな簡単に割り切れると思うか?」
「「っ!? そ、それは⋯⋯」」
二人が俺の言葉に沈黙する。
「⋯⋯彼女の喪失感は計り知れないものだと思う」
そう。マーレの想い人を俺は殺した。その事実は変わらない。そしてマーレの喪失感からの俺への憎しみは15年経った今も続いている。それはマーレの中では決して許せないことなのだろう。だから、この喋る魔物を使った計画も俺的には⋯⋯納得がいく。
二人をよそに落ち込む俺。そして、そんな俺を見て「なんて言葉をかけたらいいのかわからない」と思っているのだろう。二人もまた無言となり、場が重い空気に包まれていた。⋯⋯そんな時だった。
「タケル。その話なんじゃが、ちぃーとばかし⋯⋯⋯⋯《《おかしな部分》》があることに、お主気づいておるか?」
「え?」
ふいに、櫻子たんが口を開いた。