166「理恵たんの変化(1)」
「ところで、二人をここに連れてきたのは俺がオメガだってことを知らせるために連れてきたんですか?」
俺は如月さんに二人をここに連れてきた真意を聞いた。
「まぁ、それもあるけどそれだけじゃない。二人を連れてきたのは『覚醒ポーション』の可能性についての話をするためだ」
「可能性?」
「実は、お嬢は⋯⋯『異世界産の覚醒ポーション』を飲んだ」
「⋯⋯え?」
俺は如月さんの言葉に驚く。たしかに如月さんには俺が3つ持っていない『異世界産覚醒ポーション』の1つを手渡したが、それを理恵たんが⋯⋯。
「り、理恵たん⋯⋯本当⋯⋯なんですか?」
「⋯⋯はい」
理恵たんが首肯すると、その横で如月さんが説明をする。
「お嬢が飲んだきっかけは『新覚醒ポーション』を作成後分析してわかった『副作用がないと新しいスキル技が身につかない』というのを知ったからなんだ」
「⋯⋯」
やっぱり⋯⋯そこか。
「私は⋯⋯」
「理恵たん?」
「⋯⋯私はこのままじゃタケル君と一緒に戦えないと思ったから」
「え?」
「今の私の実力ではタケル君と一緒にダンジョン探索なんてできないとわかったから! クランを結成したあと潜ったダンジョンでもタケル君が戦うのを横目で見ながらずっと⋯⋯そう思ってた」
「⋯⋯理恵たん」
「ああ⋯⋯目の前のタケル君の今の力は実力の何%程度なんだろう? これでも私たちにバレないようにと力をセーブしているんだろうけど、でも、F級探索者の実力にしてはそれは規格外過ぎるってタケル君気づいていないだろうな⋯⋯。あと、タケル君の中でF級探索者だったらこれくらいの実力だろうと思っているんだろうけど、それってつまりタケル君の中の最低限の探索者の実力がこのレベルってことでしょ? それって、タケル君の最低基準で見てもこれだけの実力差があるってことなんだ⋯⋯て」
「⋯⋯」
悲しそうな、でも少し悔しそうな表情で一気に捲し立てるように俺に訴える理恵たん⋯⋯。俺の知らないところでここまで理恵たんを追い込んでいたってことなのだろう。
「タケル君は悪くない! それもちゃんとわかってるの! 悪いのは自分⋯⋯弱い自分だって! でも、だから⋯⋯だから⋯⋯弱い自分が悔しくて⋯⋯」
「⋯⋯理恵たん」
「そんなときだった⋯⋯。柑奈さんから『新覚醒ポーションの問題』を聞いたのは」
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「柑奈さんからその話を聞いた時、私は言ったの⋯⋯『佐川が飲んだ異世界産の覚醒ポーションを飲みたい』と」
「!」
それを聞いた俺は如月のほうを向く。
「⋯⋯ああ。たしかにお嬢はそう言ってきた。でも、私はそれには反対だった」
「え? そうなんですか!? 俺はてっきり⋯⋯」
「てっきり⋯⋯? 私がお嬢に飲ませたいと思ったのかい?」
「ま、まぁ、如月さんならひょっとして、と」
「⋯⋯さすがの私でもお嬢に異世界産覚醒ポーションを飲ませようとは思わなかった。理由はもちろん、異世界産の覚醒ポーションは副作用が出る可能性も、副作用の内容自体も強いからね」
「⋯⋯ですよね」
「ああ。だから私はお嬢のその提案には断固として反対をした。反対をした⋯⋯が⋯⋯お嬢の覚悟は相当なものでね⋯⋯最後は押し切られたよ」
「! そこまで⋯⋯理恵たんは⋯⋯」
その話を聞いた俺は、今度は理恵たんの顔を見る。
「⋯⋯私は強くなりたい。強くなって未知のダンジョンに挑みたいの!」
「未知の⋯⋯ダンジョン⋯⋯?」
「101階層以降のダンジョン⋯⋯つまり『深淵』のことだよ、タケル君」
「⋯⋯深淵」
現在、世界に存在する100階層を超えるダンジョンは120⋯⋯そして、その最深到達地点は『100階層』。つまり『深奥エリア』までであり、101階層以降の『深淵エリア』と呼ばれる場所の探索は進んでいない。
そして、その進まない理由は⋯⋯『魔物の強さが跳ね上がる』から。
話では『深奥エリアの魔物』と『深淵エリアの魔物』とでは強さの『桁』が一つ上がると言われている。2倍とか3倍ではなく『桁』がだ。
そして、さっき理恵たんが言った「未知のダンジョンに挑みたい」という未知のダンジョンというのがこの『深淵エリア』のことを差す⋯⋯というのがさっきの如月さんの言葉の意味するところである。
「私は自分の探索者の才能を活かして誰もまだ見ていない101階層以降のダンジョンに挑みたい! そして、それにはもっと強くなる必要がある! そして、その可能性が目の前に現れた。それが⋯⋯異世界産覚醒ポーションだったの!」