163「新覚醒《トランス》ポーションの事情(2)」
「そう。タケル君の言う通り現状、世界に存在する探索者が『身体能力の大幅向上』の効果|だけで喋る魔物に対抗できるのか⋯⋯。正直個人的には厳しいと踏んでいる。あ、とはいっても『機械的な喋る魔物』であれば『C級ランカー以上の探索者』であれば対抗できると思う。⋯⋯しかし、バロンレベルの喋る魔物、ましてやマグダラの『四つ柱』となると、少なくとも『A級上位かS級中位』は必要だろう⋯⋯と私は思う」
「「⋯⋯」」
覚醒ポーションを分析した、いわゆるこの世界で一番覚醒ポーションに詳しい如月さんの言葉だ。その見解は正しいだろう。実際俺も同じ意見だ。おそらく櫻子たんも⋯⋯。
「ぶっちゃけ、世界中の探索者の中で『A級上位〜S級中位』の探索者など数えられるほどしかおらんからのぉ⋯⋯。おそらく『100人前後』といったところか」
「それに、そもそもの話そいつらが全員覚醒ポーションを飲むかどうかもわからないからね。身体能力が大幅に向上するというのは強くなることと直結しているからかなりの数の探索者が飲んでくれるとは思うが、しかし副作用を気にして断る者も多いかもしれない」
如月さんのその見解もおそらく正しいと思う。ただでさえ覚醒ポーションなんて知らない人からしたらかなり胡散臭いだろうしね。
しかし、本当に問題なのはそこじゃない。
「通常の覚醒ポーションでそれだから、『スキル技』が取得できるとはいえ『副作用を受け入れる前提』で飲む必要がある覚醒ポーションであればもっと飲む人は少なくなるでしょうね⋯⋯」
と、俺は問題の核心を二人に提示する。
「ま、そうだろうね」
「じゃろうな⋯⋯」
二人が俺の言葉に大きなため息と共にガックリと肩を落とす。⋯⋯と思われたが、如月さんだけはそうではなかった。
「⋯⋯と私も最初はそう思っていたが、しかし⋯⋯もしかしたらそうはならないかもしれない」
「「え? どゆこと?」」
如月さんの言葉にキョトンとする俺と櫻子たん。
「入ってきてくれ!」
と、如月さんが奥の部屋の扉を向いて声を掛ける。すると、
「お、お久しぶりです、タケル君⋯⋯」
「よ、よぉ〜、タケル⋯⋯」
部屋から出てきたのは、なんと理恵たんと佐川だった!
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「え? な、なな、何で二人が⋯⋯ここに?!」
困惑する俺。それもそのはずでさっきまで櫻子たんや如月さんと話していた内容は『オメガ』としての話であり、それを『結城タケル』としてここにいる俺が喋っているということは⋯⋯『オメガと結城タケルが同一人物』ということがわかってしまう。⋯⋯これ大丈夫なのか?
「タケル君。二人をこのタイミングで呼んだのはね、二人がオメガの正体が君であることを知っているからなんだ」
「えっ?!」
「しかもかなり前からね⋯⋯」
「なっ⋯⋯!」
と、如月さんからまさかの事実を告げられる。
え? 二人が『かなり前』からオメガの正体が俺だってことを知っていた? えええええええ! 俺、全然気づいていなかったんだけどぉぉ!!!!
そんなプチ混乱している俺に、
「ごめんなさい、タケル君⋯⋯」
と、理恵たんが声を掛ける。
「理恵たん⋯⋯」
俺に声を掛けた理恵たんの表情は⋯⋯だいぶ硬い。ていうか、少し青ざめて顔色が悪い。
「ほ、本当はもっと早くオメガの正体がタケル君だってことを伝えたかったんだけど⋯⋯なかなか言い出せなくて⋯⋯」
「⋯⋯理恵たん」
理恵たんが泣きそうな顔で⋯⋯いや、瞳にはすでに涙がうっすら見える。そして、声も体も震えている。俺はそれを見て、理恵たんがずっとこのことで悩んでいたであろうことが想像できた。
「だ、だって⋯⋯もし⋯⋯もし、このことを言ってタケル君に嫌われたらどうしようとか⋯⋯正体がバレたことで私たちの前から姿を消さないかとか⋯⋯そんなことを考えたら⋯⋯どうしても⋯⋯言えなくて⋯⋯っ!」
「⋯⋯」
理恵たんがこれまで自分の内で葛藤していたであろういろんなことを吐き出す。同時にさっきまで我慢していた涙も今ではボロボロと堰を切ったように流れていた。
話すべき時なんだな⋯⋯そう悟った俺は静かに理恵たんに問いかける。
「いつから⋯⋯気づいていたの?」