162「新覚醒《トランス》ポーションの事情(1)」
「『スキル技』と『副作用』の⋯⋯相互関係?」
如月さんの口から飛び出した『相互関係』。んー⋯⋯⋯⋯どゆこと?
「その前に『新覚醒ポーション』がどういうものかわかりやすいように一度書き出しておくとしよう⋯⋯」
そう言って、如月さんが『新覚醒ポーション』の詳細をホワイトボードに書き出した。
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『なぜなに教えて! 新覚醒ポーション』
<効果>
・副作用発現を90%抑制
・副作用あり → 『身体能力の大幅向上(3〜10倍)』『スキル技獲得(1個 ※ 複数個出現の可能性あり。要継続調査)』
・副作用無し → 『身体能力の大幅向上(3〜10倍)』※ 要継続調査
<問題>
・副作用無しだと『身体能力の大幅向上』のみで『スキル技』は発現しない
<改良>
・副作用の効果軽減に成功(永続効果消失、自我崩壊消失⋯⋯etc)
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「まぁ⋯⋯ざっとこんな感じだ」
「「おぉぉ〜!(パチパチパチ⋯⋯)」」
う〜む、わかりやすい。さすが天才。ただ『なぜなに教えて! 新覚醒ポーション』って何よ⋯⋯。
まぁ、こうして一覧に書き出すとわかりやすい。それにしても改めて見ると一見問題ないように思える。例えば『副作用無しだとスキル技が発現しない』ということは『改良』のところにある『副作用効果軽減』が成功したのであれば『軽い副作用でスキル技を身につけることができる』となる。
これで解決なのでは?⋯⋯そう考えていると、
「さて、ここにまだ書き出していない『少々やっかいな問題』が⋯⋯これだ」
と、如月さんがホワイトボードにその『少々やっかいな問題』を追記した。
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<問題>
・副作用無しだと『身体能力の大幅向上』のみで『スキル技』は発現しない
・『スキル技の質』と『副作用の質』の相互関係問題(重い副作用であればあるほど、強力なスキル技が獲得できる)
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「え? これって⋯⋯副作用の効果がスキル技に影響を与えるってことですか?」
「そうだ」
「こ、こんなの、異世界でも聞いたことないのじゃ! 如月、これは間違いないのか?!」
「ええ、間違いないわ。AIシミュレーターで何度も確認したからね」
「な、なんと⋯⋯」
「⋯⋯」
如月さんの言葉に俺と櫻子たんは呆然となる。⋯⋯なるほど。天才如月さんが『やっかい』と言うわけだ。だって『強い副作用であればあるほどスキル技も強力なものを獲得できる』ってことだから、つまりは、
「強力なスキル技を求めると重度の副作用もついてくる⋯⋯ってことか」
俺の言葉を聞いて如月さんがコクリと首肯する。すると、
「た、例えば⋯⋯元々の、異世界産の覚醒ポーションであればどうじゃ? あれなら副作用とスキル技の相互関係とかは関係ないんじゃ⋯⋯」
「いや、基本は変わらないよ? だって、佐川君がそうだったでしょ?」
「⋯⋯あ」
「⋯⋯」
そう。佐川の変化はそもそも『異世界産の覚醒ポーション』で起きたことだ。だから、異世界産の覚醒ポーションだろうと基本的な部分は『新覚醒ポーション』と同じなのだろう。
むしろ、今回の如月さんの分析のおかげでこの『覚醒ポーションの具体的な効果や影響』が判明したというだけの話だ。
「とはいえ、そもそも従来の⋯⋯『旧覚醒ポーション』の効果は『身体能力の大幅向上のみ』だったはず。であれば『新覚醒ポーション』も副作用無しバージョンを飲めば90%という高確率で副作用無く『身体能力の大幅向上』が得られるし、最悪、副作用が発現したとしても効果内容が軽減されているから佐川君のような『スキル技使用時限定』という限られた副作用で済む。しかも、軽微とはいえ副作用が発現したのであればそれ相応の『スキル技』を得られるだろう⋯⋯」
「た、たしかに⋯⋯! そもそも『覚醒ポーション』の効果は『身体能力の大幅向上のみ』じゃったからの!」
「⋯⋯」
俺は如月さんと櫻子たんのやり取りを横目で見ながらいろいろ考えていた。たしかに、如月さんの言う通り元々の効果である『身体能力の大幅向上』の獲得は従来のものに比べれば格段に安全になった⋯⋯これだけでもすごいことだ。でも、
「⋯⋯でも、『身体能力の大幅向上』の効果だけで一体どれだけの探索者が喋る魔物に対抗できる力を身につけられるか」
「あ⋯⋯!」
俺の言葉に櫻子たんも気づいた様子。そして、
「ふふふ、よく気づいたねタケル君。見事だ」
「⋯⋯ども」
どうやら、如月さんのお眼鏡に適ったようだ。