160「新宿御苑ギルド『ギルマス部屋』にて(1)」
——『新宿御苑ギルド』ギルドマスター部屋
「ちぃ〜す」
「来たな、トラブルメーカー」
琉球ダンジョン踏破から3日後、タケルは櫻子から新宿御苑ギルドのギルドマスター部屋に呼び出された。
「人聞きの悪い」
「どの口が言う」
「いやいや、あれは不可抗力でしょ〜? それに櫻子たんも『日本にも実力のある探索者がいるアピールしていいよ』って言ってたじゃん」
「言うたが、魔法は自重しろと言うたじゃろ!」
「い、いや、マグダラが闇属性魔法使ってきたから⋯⋯」
「お前なら魔法なしでも対処できたろうが!」
「い、いやいやいや⋯⋯! 魔法使わないと厳しいと思ったから⋯⋯」
「嘘つけーい! お主分身をいちいち1体ずつ倒すのが面倒と思って光属性の『聖光』を放ったんじゃろがい!」
「う⋯⋯!」
バレテーラ。
「はぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁ⋯⋯お主は本当に⋯⋯。たしかに日本にも実力のある探索者がいるとアピールするのは問題ないし、むしろやってよかったがさすがに『魔法』はやり過ぎじゃ」
「ごめんなちぃ」
「反省⋯⋯しろ!」
「痛ったー!」
櫻子が『スキル:空間転移』まで使ってタケルの背後に現れると、割と本気ゲンコツをお見舞いした。
「特に、カルロス具志堅の前で見せてしまったのは不味かった。配信中にスキルマニアで有名な奴が『あれはスキルじゃない』『あれは魔法だ』とほぼ断言したからな」
「あー⋯⋯言ってたなぁ⋯⋯嬉しそうな顔して」
「スキルマニアであるカルロス具志堅から出た言葉は影響力がデカいから、『魔法の存在』についてはもはや止めることは無理じゃな」
「いっそ、ちょっちゅね具志堅さんを仲間にして『あれは自分の勘違いだった』って言ってもらえばいいじゃね?!」
タケルが『名案キター』のいきおいで櫻子に提言する。
「無理じゃ。あやつを仲間にして発言を否定させたところで世論はもはや信じないじゃろうし、逆にカルロス具志堅に『否定させた』ことで返って『魔法の存在』が真実味を帯びることになるじゃろうな」
「う⋯⋯たしかに」
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「それにしても、今回の琉球ダンジョンの配信は色々なことが起きたからのぅ⋯⋯」
「魔物活性のこと?」
「それもあるが、それだけじゃなく『エリクサーの存在』とか『魔法の存在』とか⋯⋯」
「ごめんなさい」
「あと⋯⋯『四つ柱』という喋る魔物の存在じゃな」
「あ、それなんだけどさ、正直今後のことを考えるとかなりヤバイと思うんだよね」
「ああ、その通りじゃ。なんせ⋯⋯」
「「この世界の探索者が対応できていない」」
ここで二人の意見が一致する。
「やっぱ櫻子たんもそう思ってたんだ」
「もちろんじゃ。というか、そもそも『四つ柱』どころか喋る魔物自体、この世界の探索者に対応できる者が少ないからのぅ」
「だよねー」
さらに櫻子は、この問題は以前からずっと懸念していたと話す。
「現在、喋る魔物⋯⋯その中でも弱い喋る魔物とされる『機械的に喋る魔物』でさえ、『B級下位ランカー』以上じゃないと対応できていないからのぅ」
「一応、俺の見立てだと、異世界にいた『冒険者』だったら『D級上位ランカー』くらいの奴の強さとここの『B級下位ランカー』が同じくらい⋯⋯って感じだなぁ」
「そうじゃ。そして、この喋る魔物の親玉にあたるのは『女帝マーレ』もしくは『白装束の人物』。⋯⋯つまり、異世界の魔族の幹部が組織化しているのは間違いないからのぅ」
「⋯⋯女帝マーレか」
タケルが『女帝マーレ』の言葉を聞いて、曇った顔をする。
「もしそやつらがこっちの想像以上に喋る魔物を量産していて、それを世界各地で襲撃を仕掛けられたら⋯⋯」
「大混乱だろうね」
「うむ。じゃから事は急を要するのじゃ⋯⋯」
そう言って、櫻子は「はぁ」と大きなため息を吐く。
「⋯⋯正直、マグダラみたいな『四つ柱』だけじゃなく、新宿御苑ダンジョンにいたバロンのような『四つ柱』以外の喋る魔物の幹部っぽいのもいるみたいだしね」
「そうじゃ。おそらくバロンのようなクラスの喋る魔物だと、この世界で対応できる探索者はA級上位〜S級上位あたりじゃろう。しかし⋯⋯」
「バロンクラスの喋る魔物が量産されてたら対応は難しい⋯⋯って感じ?」
「そういうことじゃ」
場にしばし沈黙が流れる。
「あ、そういえば、前に話していたアレってどうなってんの?」
「アレ? ああ⋯⋯⋯⋯覚醒ポーションか」
そう。櫻子はタケルが琉球ダンジョンに行く前に雨宮バリューテクノロジーの天才科学者『如月 柑奈』を呼んで、この『覚醒ポーションの量産化』について話していた。もちろん、そのことはタケルも知っている。
「もしアレの量産ができていれば、探索者のかなりの力の底上げが可能になるから喋る魔物の対応もいけるんじゃね?」
「まぁ、そうじゃな⋯⋯。ちなみにアレの量産化には『成功』しておる」
「え、マジっ!? じゃあすぐにでも探索者を集めて⋯⋯」
「しかしじゃ! アレの副作用がどこまで抑えられたのかはまだワシも聞いておらん。じゃからそれ次第ということになる」
「副作用か〜⋯⋯。でも、その代償を払うだけのパワーアップは図れるんだけどな〜」
「鬼畜か! さすがのワシでもどういう副作用が起きるかわからないものを勧めるほど鬼じゃないわい!?」
「あ、そぅ〜お?」
「当たり前じゃ! お前と一緒にするな! ていうか、あの佐川という奴がその副作用でどうなったか見ておるじゃろ!」
「まぁそうなんだけど⋯⋯。でも異世界と違って、現代での副作用は『スキルに関連した新しい技』が得られるじゃん? それってそこまでのリスクじゃないのでは?」
「いや、佐川という奴はそれでおネエ化してたじゃろがい! たしかに力を使うときだけの一時的なものじゃったが、しかしそれが他の者でも『一時的な効果』だけなのかははっきりしていないのじゃぞ?」
「まぁ、たしかに」
「まずは『覚醒ポーションの副作用問題』がどこまで進展しているか⋯⋯話はそれからじゃ」
ということで、櫻子は雨宮バリューテクノロジーの如月 柑奈に連絡を入れた。