154「四つ柱のマグダラ」
「喋る魔物⋯⋯四つ柱⋯⋯」
越智がその魔物と人間が合わさった姿に戸惑いながらも警戒心を高める。他の者も同様に周囲の在来魔物を相手にしながら注意を向ける。
しかし、在来魔物も60階層かそれよりさらに深い階層からの個体なため、全員が苦戦を強いられていた。⋯⋯カルロス具志堅以外は。
「ちょっちゅねー!」
カルロスが周囲の在来魔物の群れを筋肉ダルマと思えない俊敏さで立ち回り屠っていく。
「す、すごい⋯⋯」
「なんであんな巨躯であれだけの俊敏さが備わっているのか⋯⋯謎」
「色々とスキルがあるからその一部ってことなのかもね」
そんなカルロスの動きに周囲の皆が呆気に取られていると、
「在来魔物の相手はワンがやるから、皆は一旦後ろに引いて喋る魔物を警戒するさー!」
「「「「「り、了解!」」」」」
皆が一旦後ろに引く傍で在来魔物を屠りながらカルロスはマグダラの様子を伺う。しかし、マグダラはすぐに襲ってくることはなくジッとカルロスの戦闘を眺めたままだった。
そうして、カルロスが在来魔物を一通り倒すと、
「次はあんたの番さー、蛇のマジムン(魔物)!」
そう言って、カルロスが素早い動きで近づいて大きな拳を叩きつけようとした。しかし、
スッ⋯⋯。
「は? ぬーがぬーんち(なんだと)!?」
カルロスの拳がマグダラの顔面に当たることはなく空を切った。そのことに驚くカルロス。そして、
「な、なんでぇ!?」
「あ、あの人、幽霊なの?」
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:はっ?! 拳が通り抜けたんだけど!
:どゆことぉぉぉ!!!!
:いやマジでどうゆうことよ!
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と、カルロスの拳がマグダラに当たらなかったことに周囲も視聴者も混乱。それを、
『フフフ⋯⋯いい、いいですわよ。人間の怯えに染まる表情⋯⋯最高です』
マグダラが愉悦を含んだ笑みでカルロスや他の者を見下すと、
『では、さらに絶望をお届けしましょう。『闇属性上級魔法:個体増幅』』
さらには、マグダラ自身が7体に増える。
「ええええっ?! ふ、増えたぁぁぁ!!!!」
「え? マジで幽霊さんなのぉぉ!!!!」
「実体がない⋯⋯のか?」
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:いや⋯⋯ええええええええっ!!!!
:マグダラが増えたぞ!?
:元々の体から7体出現。つまり、合計8体⋯⋯か
:分身みたいなもんかな?
:でも、そんなスキル聞いたことないぞ?
:マグダラが高速で動いて俺たちに残像を見せてる⋯⋯とか?
:残像だ
:↑ 飛影うぇぇぇい
:ちくしょう! 先を越された!!
:↑ お前、いつから準備してたんだよww
:幽◯白書ネタやめろww
:話戻すけど残像はないだろ、さすがに
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現場にいる者たちはもちろん視聴者もマグダラが増えるという状況に更なる困惑を来たしていた。そんな状況の中、マグダラがついに牙を向く。
『『『『『さぁ、もっと苦しみなさい⋯⋯『火・土属性上級魔法:溶岩監獄』!』』』』』
8体のマグダラに周囲の岩石が集まると、その岩石に炎が宿り、溶岩と化すとタケルたちに一斉に襲いかかってきた。
「あっつ?! こ、この攻撃は⋯⋯本物だ! 皆、逃げろ!!」
マグダラから放たれた溶岩に少し当たった越智が指示を出すと、その言葉に反応して皆が大挙する溶岩を回避していく。しかし、
「ぐっ⋯⋯! こ、この数は⋯⋯さすがに多過ぎ⋯⋯」
戦乙女のリーダー亜由美が襲ってくる溶岩のあまりの数に思わず弱音を漏らした⋯⋯その時だった。
ゴォッ!!!!
亜由美の死角から溶岩が飛来。
「あ⋯⋯も⋯⋯無理⋯⋯」
もはや躱しきれないと判断した亜由美が諦めかけた⋯⋯その時、
「⋯⋯水属性上級魔法:暴風豪雪」
突如、亜由美の目の前の溶岩が瞬間冷却レベルで凍り、同時に激しい風により溶岩が巻き上げられた。
「亜由美さん、大丈夫ですか?」
「い、いまのは、まさか⋯⋯オメガさんが?」
「あ、なんか危ないなーと思ったので⋯⋯」
「⋯⋯」
さっきまで死を覚悟した亜由美は、見たこともない凄いスキル技を放ったタケルののほほんとした態度にさっきまでの死の恐怖は無くなっていた。いや、それどころかこんな凄いスキル技をいとも簡単なノリで放つタケルの底の見えない強さに『畏れ』を抱く。
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:よ、溶岩が一瞬で凍って暴風に吹き飛ばされたけど
今のは一体誰が⋯⋯?
:オメガ様でしょ
:オメガ様一択
:これ、前に見たスキル技じゃね?
:うん、たぶんそう
:いや、でもやっぱこんなスキル技知らねーな
:いずれにしても、今あゆみんが危なかったから
オメガ様グッジョブだろ!!
:ほんそれ
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
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オメガの魔法に賞賛と同時に多少の『スキル技疑惑』が噴出するも、概ね戦乙女のリーダー七瀬 亜由美を救ったことによる賛辞が多かった。
『ま、まさか今のは『水属性上級魔法:暴風豪雪』。やはり、このオメガという者、聞いていた通り⋯⋯異世界の魔法を行使できるのですわね』
そして、マグダラはそんなタケルの魔法に多少驚きつつも既知の情報ということもあり、冷静さは保ったままでいる。
しかし、そんなマグダラの様子を特に気にすることもなく、タケルが淡々とした口調で呟く。
「さて、今度は⋯⋯こっちのターンだ」