151「魔物活性《スタンピード》」
『ん? どうした、オメガよ?』
「⋯⋯なんか、奥の方からこっちに向かってくるのがいる。しかも⋯⋯かなりの数だ」
『何?』
「たぶん魔物だと思うけど⋯⋯でも喋る魔物ではないと思う。それほどの強さの魔物じゃないっぽい」
『ふむ⋯⋯もしかするとこの琉球ダンジョンに元々いる魔物かもしれ⋯⋯⋯⋯ま、まさか!』
「え? 何?」
『これはもしかすると⋯⋯『魔物活性』かもしれん』
「え? それって、10年前にアメリカのダンジョンで起こったっていう⋯⋯?」
『うむ。そもそも10年前の『魔物活性』の原因は、アメリカのダンジョンの深部で喋る魔物が多数巣食って元々いた魔物たちが追いやられて逃げるように上の階層へと移動したのが原因じゃったからな』
「ああ、なるほど。そういえば異世界のダンジョンでも同じことがあったなぁ」
『実際、この琉球ダンジョンに喋る魔物の目撃が多数出てきたときでもお主が戦ったこの『29階層』に喋る魔物は現れていなかったからの』
「ああ、なんかそれ⋯⋯ちょっちゅねさんも言ってたな」
『ちょっちゅねさん? ああ、カルロス具志堅のことか?』
「うん。あと、それにこの琉球ダンジョンで俺が喋る魔物と初めて戦ったのはここじゃなく、実はもっと上の⋯⋯上層最深部の『9階層』だったからね」
『何! 上層最深部にも現れたのか?!』
「うん。そういやその時ちょっちゅねさんも驚いてたなぁ」
『そりゃ驚くはずじゃ。なんせこれまでそんなことなかったのじゃからな!』
「そっかー。俺も異世界でスタンピードが起きる前は、そういった浅い階層で深層の強い魔物がイレギュラー的に出現した前兆があったんだけどそれと似てるな〜⋯⋯て」
『うむ、それはワシもお主とまったく同じ意見じゃ。今回の上層、中層での喋る魔物の出現は前兆だったのじゃろう⋯⋯』
「だな。まー俺的にはちょうどいいと思ってるけどね」
『何?』
「だって、普通の魔物なら他の人たちも対応できるだろうから、それで戦乙女たちがレベルアップできれば、ただレベルアップだけじゃなく戦闘経験も積めるから二度美味しい?⋯⋯みたいな?」
『⋯⋯なるほど』
「それに喋る魔物が現れても、このメンツなら俺だけ戦う状況ってのはそうそうないと思うよ? だって、それだけの実力者が揃ってると思うから」
『ほう?』
「とはいえ、さっきの喋る魔物以上の強い個体だと他の人たちがどこまでやれるかはわからないけど⋯⋯でも、そうなったときは俺が出張るし、そっからは『日本の探索者もすげーだろ?』て感じで暴れるよ」
『⋯⋯ふふ、そうか。じゃが、ちゃんと自重はするのじゃぞ? いやマジじゃぞ? フリじゃないぞ?』
「なんか、そんだけ念押されたら『フリ』にしか聞こえな⋯⋯」
『よいな?(圧)』
「! は、はい⋯⋯」
ひぇ。
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その後、皆に事情を説明し、
「じゃあ、早速俺が先んじて行きま⋯⋯」
「「「「「俺(私)が先だーーーー!!!!」」」」」
と、後方からそんな声が聞こえると皆が前に走っていく。
「こっからはわったーが頑張るさー!」
「良いとこ見せないとだからよ!」
「腕を斬り飛ばされた復讐⋯⋯」
「うおおおおっ!!!!」
皆の勢いに圧倒された俺は後ろからついていく。すると、目の前から予想通り琉球ダンジョン在来の魔物たちが群れをなして突っ込んできた。
「でりゃああーーー!!」
「オラオラオラーー!!」
前方では、ちょっちゅねさんを先頭に過疎化ダンジョン凸り隊、戦乙女らが戦闘を繰り広げて⋯⋯いや、むしろ蹂躙する勢いで突破していく。
「皆、喋る魔物の鬱憤を晴らしてるのかな」
そんなこんなで俺たちはガンガンと階層を進んで行った。Dビジョンを観てみると、
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:すげえ! すげえ! めちゃめちゃ無双してるやんww
:考えたら、オメガ様以外のメンツでも相当な戦力だもの
:ちょっちゅね具志堅が鬼のような強さで草wwww
:あれ? この人スキルマニアだよね? スキル使ってる?
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そう、このメンツの中でも特にちょっちゅねさんは筋肉を活かして魔物をガンガン殴り倒している。視聴者の指摘のあるようにスキルをほとんど使っていないように見える⋯⋯などと思っていると、
「スキル:縮地!」
と、『スキル:縮地』で魔物に一瞬で迫り⋯⋯やはりぶん殴っていた。
「いや、スキルすごいけど⋯⋯やっぱ物理やん」
まーこれから階層深くなっていくと、在来の魔物もどんどん強くなっていくから色々なスキルを使っていくだろう。
「よし! 俺はちょっちゅねさんウォッチャーで⋯⋯参る!!」
俺はちょっちゅねさんの後ろをホイホイとついていった。
魔物活性は続く。