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139「弄ばれる二人」



——琉球ダンジョン29階層/中層最深部


「がはぁぁぁ!!!!」


 ドシャアア⋯⋯。


『オマエ、弱イクセニ邪魔スルナ。次、オマエノ番ダカラソコデ黙ッテ寝テロ』


 投げ飛ばした越智に淡々とした口調でそう呟く喋る魔物『試作100号改』。そして、試作100号改は傷だらけで虫の息の状態で倒れている百合姫こと及川を長い左腕で軽々と持ち上げると、


 ブス、ブス、ブス、ブス、ブス⋯⋯。


「ぎゃああぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁっ!!!!!」


 鋭利な刃物と変わらない右手でブスブスと、まるで機械的、流れ作業的に、及川の体を突いていく。そんな刃先で無慈悲に突く痛みに及川が絶叫を上げる。


『フム⋯⋯人間ハ脆イクセニ、意外トシブトイモノナノデスネ。驚キデス』


 及川の悲痛な叫びも試作100号改に響くことは一切なく、無機質な言葉を呟きながらさらに及川の体を刺し続ける。


「や、やめろ⋯⋯この⋯⋯野郎⋯⋯!」


 その光景を目の当たりにし、越智が何とか立ちあがろうとするものの、彼の両足は先ほど試作100号改によって骨ごと(・・・)切り刻まれていたため、立ち上がることができないでいた。


 もはや、この場は『喋る魔物対探索者(シーカー)』ではなく、『喋る魔物による一方的な殺戮の場』と化していた。


 そして、この惨劇の一部始終は⋯⋯『過疎化ダンジョン凸り隊チャンネル』で配信し続けていた。


——————————————————


:頼むよ⋯⋯もうやめてくれよ⋯⋯

:これ以上やったら⋯⋯百合姫ちゃんが⋯⋯越智さんが⋯⋯

:ちくしょう! この喋る魔物、二人を弄びやがって!!

:喋る魔物って⋯⋯こんなに無慈悲で残酷なのかよ。やばすぎだろ⋯⋯

:知らなかったよ 喋る魔物がここまでやばい魔物だったなんて⋯⋯

:正直オメガ様のときの喋る魔物はそこまで残虐という感じはなかったからな

:ほんそれ 前にオメガ様が戦っていた喋る魔物バロンは

 ここまで無慈悲な感じではなかったけど、この試作

 100号改の無慈悲ぶりを観て考えを改めたわ

:やっぱ喋る魔物ってやべーよ⋯⋯

⋯⋯

⋯⋯

⋯⋯

⋯⋯


——————————————————


 この配信を見続けている視聴者のコメントは、凸り隊の二人の心配と同時に、喋る魔物の恐ろしさの再認識のコメントで埋まっていた。しかし、それとは別に、


——————————————————


:あの喋る魔物バロンは知性があったし感情もあったからな

 だが、この試作100号改はロボットに近い感じだし

 もしかすると人間をサンプル扱いしているのかも

:そんなことはいまどうでもいいだろが!

:どうでもよくはないだろ むしろ俺たちが今できることは

 応援を呼ぶことと、この配信から喋る魔物について考察することくらいだ

:そりゃ俺も力があればすぐにでも助けに行きてーよ!

 でも、それができないから今ここでできることをやってんだよ!

:この試作100号改⋯⋯やっぱりバロンに比べるとランクが低いというか

 量産型の喋る魔物みたいな感じじゃないか?

:そうだな、その可能性は高いかも。だからその分、行動が機械的で無慈悲なんだろう

:そう考えると、試作100号改のような量産型ロボットのほうが

 バロンみたいな幹部(?)連中よりも残虐的てこと⋯⋯?

:いやわからんぞ? バロンみたいな知性持つ喋る魔物の中にも

 残虐性を持った個体もいるかもしれん

⋯⋯

⋯⋯

⋯⋯

⋯⋯


——————————————————


 と、少数ながらこの配信映像から「喋る魔物についての考察をして攻略の糸口を掴みたい」と思っている者たち⋯⋯すなわち『考察班』もいた。


 とはいえ、配信映像を観ている視聴者は皆、「無力で、弱くて、何の力も持たない自分ではどうすることもできない⋯⋯」と、ちっぽけで弱い自分に対して腹立たしくも情けない気持ちでいっぱいだった。


——————————————————


:頼むよ⋯⋯。誰か二人を助けに来てくれよ⋯⋯


——————————————————



********************



『⋯⋯フム。モウコレ(・・)モ、動カナイヨウデスネ』


 そう言って、試作100号改が及川をポーンとまるで物のように(・・・・・・・・)投げる。


 ドシャ⋯⋯。


 地面に投げ捨てられた及川だったが、特に痛がる声を上げることもなく無反応だった。もはや、地面に投げ捨てられた痛み程度では(・・・・)反応することもないほど及川の体はボロボロだったのだ。


「及⋯⋯川⋯⋯」


 そんな及川を見て、両腕を使ってズルズルと地面を這いながら近寄っていく越智。しかし、


 ガシッ!


「うぐあぁっ!!!!」

『勝手ニ、動カナイデ下サイ』


 試作100号改が越智の背中を足で踏みつけ、及川のもとへ行こうとした越智を止める。


『次ハアナタノ番デス。サッキノ人間ヨリカハ頑丈ソウデス。楽シミデス』

「て、てめぇ⋯⋯てめぇだけは⋯⋯絶対に⋯⋯絶対にこの手で⋯⋯殺してやるっ!!!!」

『デキナイコトヲ言ウノハヤメテ下サイ。ソウイウノハイイデスカラ』

「ちくしょう! ちくしょう⋯⋯ちく⋯⋯しょう⋯⋯!」


 試作100号改に足蹴にされ動けない越智は、自分のあまりの弱さ、不甲斐なさ、情けなさに⋯⋯涙した。


——————————————————


:このやろうぉぉぉ! てめぇぇマジでふざけんなぁぁぁぁ!!!!!

:試作100号改やめろこらぁぁぁー!

:やめろこのやろう〜〜〜〜〜!!!!!!!

:てめぇ、やめろよマジで! マジでやめてくれよぉぉ!!!!

:ちくしょう⋯⋯! 俺にも力があったら⋯⋯

 あんな理不尽な暴力に立ち向かえるだけの力があったら!

:頼む、これ以上はもう⋯⋯やめてくれよぉぉぉぉ!!!!

:越智さん! 越智さん! もう動かないでくれ!

 動いたらこいつはあんたをまた弄ぶだけだ!

 だから、もう動かないでくれよ⋯⋯!

⋯⋯

⋯⋯

⋯⋯

⋯⋯


——————————————————


 配信では、越智の涙を観て悲痛なコメントや、あまりに無力な自分への悔しさが滲み出たコメントがものすごい勢いで流れていた。しかし、そんな視聴者の声が喋る魔物に届くことは当然なく、


『デハ、アナタニハ手足ヲ一本一本斬リ飛バシテ、ドコマデ耐エラレルカ試シテミマショウ。マズハ、右腕カラ⋯⋯』


 そう言って、試作100号改が越智の右腕を斬り飛ばそうとした⋯⋯⋯⋯その瞬間(トキ)だった。


 スカ⋯⋯!


『⋯⋯エ?』


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