138「エリクサー(2)」
な、なんとか、りんねちゃんに『俺にエリクサーを使わせた』という『重荷』を解き放ってあげなければ⋯⋯そ、そうだ!
「り、りんねちゃん、大丈夫だよ! これまでずっとエリクサーを使う機会なんてなかったから⋯⋯だからちょうどよかったんだ!」
「で、でもぉ〜⋯⋯」
「そ、それにね! エリクサー⋯⋯ストックあるから!」
俺はそう言ってりんねちゃんを安心させた。ふ〜、おそらくりんねちゃんはエリクサーが一つだけしかないと思ったからここまで責任を負ってしまったのだろう。だから「エリクサーにストックがある」とわかれば、気持ちもだいぶラクにな⋯⋯、
「「「「「⋯⋯え?」」」」」
突然——りんねちゃんはおろか、その場にいた全員が凍りついた。
あれ? 流れ変わったな。
「こ、こほん! え、えーと⋯⋯オメガさん?」
「は、はい、何でしょう⋯⋯亜由美さん」
亜由美さんがすげー真剣な顔で迫りながら質問してきた。⋯⋯俺ガクブル。
「つかぬことをお聞きしますが⋯⋯」
「はい」
「エリクサーのストック⋯⋯あるんですか?」
「え? あ、はい。10個ほど⋯⋯」
「「「「「じゅ、10⋯⋯っ!!!!」」」」」
全員が顔面蒼白となり固まる。
「エ、エエエ、エリクサーが⋯⋯10個ですかっ!?」
「はい。エリクサーが10個です」
俺が亜由美さんの質問に答えると、その横にいたともちーさんが、
「あれ? え〜と⋯⋯エリクサーってそもそも存在自体が都市伝説レベルの逸品だったはずだと⋯⋯私の中のゴーストが囁くんだけど⋯⋯。あれ? 私、間違ってる?」
と、瞳孔が開いた状態で虚空を眺めながら電脳な呟きを放つ。
「ううん、大丈夫。間違ってないよ、ともちー!」
「うん! だから現実に戻ってきて!」
と、ともちーの言葉に返答するりんなちゃんと、その後ろから「現実に戻るよう」必死に呼びかけるりんねちゃん。また、今度はチラッと反対側の戦乙女たちを見てみると、
「エ、エエエ、エリクサーが⋯⋯10個。私には⋯⋯そう聞こえたわ。オメガ様がそう言ったように聞こえたの。ねぇ、わたし間違ってる? ねぇ、間違ってるぅぅぅ〜〜〜っ!!!!」
「間違ってない! 間違ってないよー、渚ー!」
「渚、気を確かに〜〜!!!!」
「あいえーなー(おおーっと)! この子、マブヤー(魂)落としてるさー! マブヤ〜マブヤ〜ウーティクーヨー、マブヤ〜マブヤ〜ウーティクーヨー⋯⋯(魂〜魂〜戻っておいで〜、魂、魂、戻っておいで〜⋯⋯)」
渚さんがともちーさんと同じように目を見開きながら『宝◯歌劇団』さながらに虚空を見て叫んでいた。そして、その横では亜由美さんや有紀さんがりんなちゃん・りんねちゃんと同じように必死になって渚さんに「現実に戻るよう」訴えてる。
あと、渚さんの後ろに立っているちょっちゅねさんは「マブヤーマブヤーウーティクーヨー」と、渚さんの背中に手を当てながら謎の呪文を唱えていた。
うん。しっかりカオスだね。
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「み、皆さん⋯⋯落ち着きましたか?」
あれから1〜2分ほど経過して、なんとか全員が落ち着いた。
「はぁぁぁ⋯⋯なんか疲れた」
「わ、私もぉぉ⋯⋯」
そう言って、うなだれるともちーさんと渚さん。⋯⋯その時だった。
「あ、そうだ! すみません、実は⋯⋯!」
と、ともちーさんが突然声を上げると、自分たちがここにいる経緯を説明してくれた。
「喋る魔物が⋯⋯?」
「は、はい! 中層最深部29階層の階層ボス部屋の前にいて⋯⋯そこでいま私たちのクラン仲間が戦っていて⋯⋯それで今29階層ではクランリーダーの越智くんと百合姫が応援が来るまでの時間稼ぎで喋る魔物と対峙していて⋯⋯」
「わ、私たちは、ギルドへ応援要請と、りんねを病院に連れていくために戦線を離脱してここまで走ってきて⋯⋯! で、でも、ここでビッグマングースの群れに囲まれてしまって⋯⋯それで⋯⋯」
二人は29階層で戦っている仲間のことを思い出したのか、一生懸命に俺たちにそのことを伝えようとしているが焦るあまりうまいこと説明できていない様子。
だが、何を訴えているのかはすぐに理解できた。
「大丈夫ですよ、二人とも。ちゃんと意図は伝わりましたから」
「「「⋯⋯オメガ様!」」」
「それじゃあ、俺⋯⋯ちょっといってきますね」
俺はちょっちゅねさんと戦乙女にサラッとそう伝える。すると、
「あ、でも! あの喋る魔物⋯⋯『試作100号改』ていう奴なんですけど、すごく強いですから自分たちも一緒に⋯⋯」
と、ともちーさんやりんなちゃん、りんねちゃんが一緒に行くと言ってくる。しかし、
「あ、大丈夫大丈夫。一人で行ってくるから⋯⋯」
「で、でも⋯⋯!」
「それに⋯⋯」
「?」
「めちゃめちゃ急いで行くので追いつけないと思いますから⋯⋯」
「え?」
「それじゃ⋯⋯いってきます」
フッ⋯⋯。
「えっ!? き、消えたっ!!」
「ううん! い、今のは、足で移動しただけだと思うけど⋯⋯全く見えなかった」
「目の前から⋯⋯消えちゃった」