136「過疎化ダンジョン凸り隊(5)」
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:うおおおおおおおおー! 姉御ぉぉぉぉぉ!!!!
:一生ついてきます!
:かっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
:百合姫ぇぇぇぇ!!!!
:百合姫さまぁぁぁぁ!!!!
:百合姫しか勝たん!!
:これ、もしかして百合姫さま⋯⋯喋る魔物倒せるんじゃね?
:ああ! だって喋る魔物が百合姫さまの攻撃に驚いてるし!
:いける! いけるぞ!!
:うおおおおおおおおおお!!!!!
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
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そんな百合姫こと及川のスキル攻撃と、その攻撃に驚く喋る魔物『試作100号改』、しかし、それでもいつもの『妖艶姉御ムーブ』繰り出し余裕をかます及川を観て、視聴者のコメントが一気にヒートアップした。
「お、及⋯⋯川⋯⋯」
琉球ダンジョンの中層は海浜地帯。そんな海辺の砂浜と大小さまざまな岩が点在する中にあった高さ10メートル超の岩に体を叩きつけられた越智がゆっくりと立ち上がる。
「私は大丈夫だから、あんたはポーションを飲んでそこで少し休んでなさい!」
「あ、ああ。すまない⋯⋯」
「とはいえ、一人ではそんなに持ち堪えられそうにないから、すぐに戦線復帰しなさいよ?」
「⋯⋯もちろんだ!」
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:え? 百合姫いまなんて?
:「一人では持ち堪えられそうにない」⋯⋯だと?
:え? え? でも、さっきの攻撃、
試作100号改もビックリしてたんじゃ?
:ビックリしただけで、特にダメージはなかったってこと?
:もしくは、百合姫さま自体がさっきのスキル技をもってしても
手応えがなかった⋯⋯てことかも
:マジかよ⋯⋯
:百合姫さまの無双タイムが始まると思ってた⋯⋯
:いやそんなバカな!? 百合姫のあのスキル技
『千手打突』って相当強い技だぞ!!
:そうは言っても、本人が厳しいと言っているし⋯⋯
:ちくしょう⋯⋯やっぱ倒すのは無理ゲーってことかよ
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
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「はぁはぁはぁ⋯⋯」
「だ、大丈夫? ともちー変わろうか?」
「だ、大⋯⋯丈夫⋯⋯はぁはぁ」
腕を飛ばされたりんねを担ぐともちーと、姉のりんなの3人は全速力でギルドへと向かっていた。
しかし、全速力といってもりんねを抱えるともちーはかなり体力の消耗が激しく、想定以上に進むことができないでいた。
「と、とにかく⋯⋯はぁはぁ⋯⋯りんなは襲ってくる魔物を警戒して⋯⋯!」
「う、うん!」
現在、彼女らは中層20階層の入口付近まで来ていた。ここまでは幸運にも魔物はさほど出現が少ない、または出現しても2〜3匹程度の数だったが、
『『『『『グルルルル⋯⋯』』』』』
「「っ!? ビッグマングースの⋯⋯群れ!」」
ここにきて、二人の前に10体のビッグマングースの群れが立ちはだかった。
本来、ビッグマングース程度の魔物であれば問題ないはずなのだが、10匹ものビッグマングースの群れは今の二人には手に余る脅威であった。
「くっ⋯⋯こんな時にビッグマングースの群れだなんて⋯⋯?!」
「はぁはぁ⋯⋯この数じゃ⋯⋯二人だけじゃ突破は難しいわね。一旦りんねを下ろすわ」
そう言って、ともちーがりんねを横に下ろし戦闘体勢をとる。
「⋯⋯聞いて、りんな」
「な、何?」
「私の『スキル:岩土招福』の技『礫百殲』は⋯⋯はぁはぁ⋯⋯広範囲攻撃だから⋯⋯私がここでこいつらを食い止める。だから、その間にりんなは⋯⋯はぁはぁ⋯⋯りんねを抱えてギルドに向かって⋯⋯」
「ダ、ダメだよ! ともちーだってここまでりんねを運んで疲れてるじゃない!?」
「大丈⋯⋯夫⋯⋯。まだやれるから。それに、次の階層は19階層⋯⋯出現する魔物の脅威はだいぶ下がるし、りんなのスピードなら魔物が現れても逃げ切れる⋯⋯はぁはぁ。だから、そのあとはりんねを担いで⋯⋯一気にギルドに行って!」
「で、でも⋯⋯」
「だ、大丈夫! 私だって⋯⋯はぁはぁ⋯⋯ここでくたばるつもりなんてないから⋯⋯」
「ともちー⋯⋯」
「だから⋯⋯お願い、りんな」
「⋯⋯わかった」
「ありがとう⋯⋯」
そう言うと、ともちーはりんなの前に立ち、りんなはりんねをおんぶし斬り飛ばされた腕を魔石やアイテム回収用の大きめのバッグに納める。
「私がスキル技をぶっ放すタイミングで⋯⋯一気に駆け抜けて!」
「わかった!」
ともちーの合図となる言葉に力強く返事を返すりんな。そして、
「行くわよ⋯⋯『礫百殲』っ!!!!」
ともちーのスキル技『礫百殲』がビッグマングースの群れに着弾。その着弾部分に隙間ができたのを見て、りんながその隙間に向かって走り出した。
「うおおおおおお!!!!!」
りんなが一気にその隙間から突破を果たす⋯⋯かに見えたその時、
『シャアアアアアっ!!!!!!』
「え? あぐっ!?」
ともちーのスキル技を喰らわなかった1匹が、りんなに体当たりし突き飛ばした。
「りんなぁぁぁっ!!!!」
20階層入口の階段まで突き飛ばされたりんなはそこで倒れたまま気を失った。
ともちーの『礫百殲』で倒されたビッグマングースは4体⋯⋯。まだ半数以上の群れが残っていた。しかも最悪なことに、
『シギャァァァ!!!!』
「くっ!? さ、さらに⋯⋯増えるなんて⋯⋯」
奥からさらにビッグマングースの別の群れが集まってきた。その数⋯⋯10体。
ともちーはビッグマングースの群れに完全に囲まれ、さらには入口の階段付近で気を失い倒れているりんなの元にも4体のビッグマングースが取り囲んでいた。
「あ、ああああ⋯⋯これ以上は⋯⋯もう⋯⋯」
一人、戦闘体勢を取っていたともちーだったが、絶望的な状況にいよいよ戦意を喪失。ガクッと膝を折った⋯⋯⋯⋯その時だった!
「やなマングースやー、さりんどー!!(このくされマングース野郎がー、ぶち◯◯すよー!!)」
バキボキベキグシャァァァァ⋯⋯っ!!!!
突然、20階層の入口から出てきた『190センチ色黒筋肉だるまのアフロヘアーちょびひげおじさん』が16体ものビッグマングースを一瞬でグシャグシャに殴り倒した。
「⋯⋯は?」
その光景に唖然とするともちー。そんな彼女に、
「大丈夫ですか、お嬢さん?」
声をかけたのは、
「え? え? オ、オメガ⋯⋯様?」
「はい。オメガです」
喋る魔物に絶賛指名手配中で厨二病罹患者として一躍時の人となった『オメガ』⋯⋯その人だった。