134「過疎化ダンジョン凸り隊(3)」
「「「「「え⋯⋯?」」」」」
四人どころか、実際に左腕を斬り飛ばされた愛宕シスターズ姉りんねも一瞬自分の身に何が起きたのか把握できずにいた。そして、それは⋯⋯、
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:は?
:え 何?
:何だ?
:え、腕? 誰の?
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配信の視聴者さえ一瞬何が起こったのか把握できずにいた。
しかし、時間は法則に漏れず次を刻み始め、そして⋯⋯、
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
「「「「りんねぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!!!!!」」」」
腕を斬り飛ばされた現実を認識したりんねの悲痛な叫びと4人の絶叫がダンジョン内に響き渡った。
そんな突然の混乱は現場はもちろんのこと、配信を観ている視聴者のほうも同様で、
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:嘘? りんねちゃんの腕? え? え?
:りんねちゃぁぁぁん!!!!
:やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!
:あれってもしかして喋る魔物!?
:りんねちゃぁぁぁん!!!!
:越智さん逃げて!
:喋る魔物の攻撃、速すぎだろ!!
:みんな逃げて!
:全力で逃げろ!
:いや、逃げるって無理だろ!?
あんな速さで攻撃できるってことは
移動スピードも相当速いってことだぞ!
:だからって、この喋る魔物に勝てんのかよ!?
:知るか!
:おい、誰か救援要請しろよ!
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
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その突然のショッキングな出来事に視聴者も大混乱となっており、コメントの流れるスピードがそれを物語っていた。
しかし、そんな混乱の中、いち早く我に返ったのが⋯⋯クランリーダー越智大輔。
「おおおおおおおおおおおお⋯⋯っ!!!!」
越智は、地面を思いっ切り蹴るとりんねの背後にいる『喋る魔物』に向かって飛び出し、大剣『斬首剣大蛇』を振るう。
カキィィィィィン!
しかし、喋る魔物は2メートル近い長い腕を使って越智の剣を軽々と受け止める⋯⋯が、それでも越智は攻撃を止めず喋る魔物にひたすら剣戟を振るい押し込んでいく。
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:越智さん⋯⋯っ!!!!
:イッターーーーー!!!!!
:いけーーーー!! 越智さーん!!!!
:うおおおおおおおお!
:いけいけー!
:うおー! 越智さーーーん!!!!
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
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喋る魔物に怒涛の剣戟を叩き込む越智の姿を観た視聴者が、またすごい勢いでコメントを書き込んでいく。
そんな、越智と喋る魔物の剣戟の音がダンジョン内に響く中、その音で我に帰った3人は越智が魔物と対峙し気を引きつけている間に斬り飛ばされたりんねの腕とりんね本人を確保。その後すぐに喋る魔物と戦っている越智たちの場所から離れた。
(よし、りんねは確保したな)
そして、越智もまたメンバーがりんねを救出しその場から離脱したのを確認。そのタイミングで越智は「救援を呼んできてくれ」と3人にアイコンタクトを送る。すると、ともちーがりんねを担ぎ、姉のりんなとともに駆け出す。しかし⋯⋯、
(何やってんだ、百合姫っ!?)
そこに一人だけ残る者がいた。『百合姫』こと⋯⋯及川百合恵。
しかも彼女はそこに留まるどころか越智のところへとやってくる。
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:え? え? 百合姫が越智さんところに戻ってきたんだけど⋯⋯
:まさか! 百合姫戦闘に参加するのか!?
:さっき、越智さん3人に「救援呼びに行け」みたいな
アイコンタクトしていなかった?
:たぶん⋯⋯百合姫の独断じゃね?
:いや大丈夫なのかよ?!
:百合姫ちゃん、無理しないで!
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
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視聴者もまた百合姫こと及川の行動に戸惑いの反応をする。
「お、おい⋯⋯!」
越智は思わず声を出して及川に声を掛ける。越智は声を出したことで喋る魔物が襲ってこないか全力で注意を払うが、しかし、なぜか喋る魔物は特に動くことはなくジッとその場で二人のやり取りを見ていた。
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:ん? 喋る魔物⋯⋯襲ってこない?
:なんか二人のやり取りを見てるな
:どゆこと?
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
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越智も配信の視聴者も喋る魔物が襲ってこないことに疑問を浮かべる中、及川が越智の元へとやってきた。
「私も戦闘に参加する!」
「何言ってんだ!」
「あんたこそ何言ってるの! 一人よりも二人の方が⋯⋯時間稼ぎできるでしょ?」
「っ?! お、お前⋯⋯」
そう言って、ニッと笑う及川。
「⋯⋯わかった」
「素直でよろしい」
そうして、二人は喋る魔物に対峙する。
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:百合姫も越智さんと一緒に戦う気だ
:マジか! 胸熱な展開ではあるが⋯⋯
:でもこの喋る魔物相手に二人でも⋯⋯かなり厳しいだろ
:そんなこと言うなや!
:でも、この喋る魔物の強さが本物なのはたしかだろ!
:でもやってみないとわからないでしょ!
:やってみてそれで二人ともやられたらどーすんだよ!
:じゃー越智さん一人にして逃げたほうがよかったって言いてえのかよ!
:そうは言ってねーだろ!
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
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及川の参戦に視聴者に間では賛否両論が繰り広げられていた。
「ちなみに勝算は?」
「ゼロ⋯⋯に近いな。だが『救援までの時間稼ぎ』と考えれば何とかなる⋯⋯と思いたい」
「それ、ただの願望じゃない」
「仕方ないだろ! それだけこいつは⋯⋯やばいんだから」
「⋯⋯そうね」
「正直舐めてたぜ。『喋る魔物』がここまで強いとは⋯⋯」
「⋯⋯そうね」
「だが、時間稼ぎであれば可能性はゼロじゃねー! だから、何としてでも救援が来るまでは踏ん張るぞ、及川!!」
「激しく同意よ!」
二人は目の前の喋る魔物との力量差をしっかりと感じつつも、だが『救援までの時間稼ぎ』というその一点だけの可能性にかけて覚悟を決める。