131「琉球ダンジョンの調査(2)」
——次の日
俺たちは朝9時に『探索者ギルド沖縄支部』へとやってきて早速クラン登録をした。前日に亜由美さんたちにクラン名について相談した結果「仮登録のつもりで適当なクラン名でいい」という話となり、渚さんが「だったらこれで!」とクラン名に記入したのが、
「「「「オ、オメガーズ⋯⋯?」」」」
「いいじゃん。別に仮登録なんでしょ? だったらこれほど適当なクラン名でいんじゃね?」
当初、皆が「ダ、ダサい⋯⋯」という反応だったが、しかし「ま、たしかに仮だしね⋯⋯」ということでそのまま『オメガーズ』が採用となった。ファンクラブかな?
「クラン登録も無事できたようだねー。それじゃあ、早速ダンジョンへ行くさー⋯⋯」
「あ、お待ちください!」
ちょっちゅねさんがいきおいよく「さあダンジョンへ行くぞー!」というタイミングで、受付の奥から上司っぽい人が出てきて待ったをかけた。あ、ちょっちゅねさん、出鼻くじかれてちょいへこんでる⋯⋯。
「じ、実は、今から3時間前くらいですが、朝早くに1組の探索者クランがダンジョンへ入っていきまして⋯⋯」
「「「「「「え⋯⋯っ?!」」」」」」
ここで、まさかの事態が発生。
「と、止めなかったんですか?!」
「え? は、はい⋯⋯」
俺と戦乙女たちはこの上司の反応に「いやなんで!?」と呆気に取られたが、しかし、横にいるギルドの受付嬢やこの上司の反応を見ると、どうも俺たちと『温度差』があるように感じられた。すると、
「⋯⋯すまない。実はギルドにはまだ報告を入れてなかったさー」
と、ちょっちゅねさんから驚きの発言。
「えっ?!」
「な、なんでですか!」
俺たちはちょっちゅねさんの言葉にショックを受ける。そして、ちょっちゅねさんは申し訳なさそうにその理由の説明を始めた。
「ま、まだ大きな問題というほどでもなかったし、あと、これで変にダンジョンを封鎖でもしたら妙な噂が立って琉球ダンジョンにさらに探索者が寄り付かなくなるという事態を避けたかったんだ。もちろん、これは櫻子に相談した上でその対応となったから。ワンの独断ではないからねー」
とのこと。
なるほど。まーたしかに『過疎化したダンジョン』のギルドや沖縄出身の探索者であるちょっちゅねさんにとっては、あまり大事になって琉球ダンジョンへの印象がこれ以上悪くなるのは嫌だったということか⋯⋯。
さらに話を聞くと、琉球ダンジョンは元々魔石鉱床が豊富だったり、出現する魔物からドロップされるアイテムも割と貴重なものが多いらしく、そのため琉球ダンジョンのダンジョン探索をもっと捗らせたいというギルド本部の櫻子たん側の『事情』もあったらしい。
結果、『喋る魔物』の報告を受けていない現地のギルド職員さんからしたら、ここ最近1組も来なかった探索者がやってきたらそりゃ喜んで対応するのも仕方のないことだろう。
となると、一番のギルティは櫻子たんと、
「ちょっちゅねさん、ギルティ」
「「「「はい、ギルティ」」」」
「あぅ⋯⋯。も、申し訳ないさー⋯⋯」
そして、櫻子たんにはあとで俺のほうからドヤ顔でこの件に関して追求させていただく所存である(ワクテカ)。
ちなみに、俺の横では『190センチ色黒筋肉だるま』の『アフロヘアーちょびひげおじさん』がガックシと肩を落としている。まー今回のは明らかにちょっちゅねさんのミスなのでここはしばらくへこんでいただく。
「⋯⋯状況はわかりました。とりあえず、自分たちは急いでダンジョンの中⋯⋯特に上層階層ボスにまた喋る魔物がいると不味いので急いで向かいます。あ! あと、ダンジョンは封鎖してこれ以上探索者が入ってこないようお願いしますね!」
俺はギルドの上司さんや職員にそう伝えると急いでダンジョンへと向かった。
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——琉球ダンジョン9階層/上層最深部
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
俺たちは喋る魔物がいないかの調査目的もあったので再度1階層目から侵入し、喋る魔物がいないかチェックしながら足早に歩を進めた。
そして、30分足らずで9階層の階層ボスまで到達。ここまでに喋る魔物の出現はなし。そして、さらには9階層の上層階層ボスも前日の喋る魔物『シサク10号』ではなく、通常の上層階総ボス『巨大ヤドカリ』だったのを確認。そして、その階層ボスはちょっちゅねさんの手により倒された。
「お疲れ様です」
「大丈夫さーこのくらい。それにワンのミスで探索者の侵入を許してしまったからお詫びも兼ねて、しばらくはワンが魔物を相手するさー」
ちょっちゅねさんは、申し訳なさそうな表情でそう言って先頭に立ちズンズンと進んで行く。
「さ、さすが、S級ランカーのカルロスさん⋯⋯。あんなデカいヤドカリの魔物も一撃だなんて⋯⋯」
「み、見た目が、|190センチ色黒筋肉だるま《あんなん》なので、戦闘の迫力が⋯⋯凄い⋯⋯」
「こ、これで、櫻子様に勝てるかどうかは五分五分って⋯⋯。やっぱ櫻子様も相当強い⋯⋯てことなんですね」
「ひぇ⋯⋯」
そんなちょっちゅねさんの戦闘を見て、戦乙女の皆さんが各々感想を呟く。そして、俺もまたS級ランカーの戦闘を初めて見てその強さを実感。とはいえ、
(まだ、実力の半分も出していないとは思うが、それでもたぶん櫻子たんのほうが強い⋯⋯だろうなぁ)
とも感じていた。
ただ、今のところちょっちゅねさんはまだ『スキル』を使用していないのでまだ計りかねているのも事実。実際、ちょっちゅねさんは『スキルマニア』という異名を持つくらいなので、恐らくかなりスキルを所持している。そして、それがどれほどのものかで、また評価は変わるだろう。
とまあ、そんな感じで俺たちはちょっちゅねさんを先頭にさらにダンジョン内部へと探索を続けた。