129「ターゲットは喋る魔物(キリっ!)」
喋る魔物『シサク10号』を倒した俺たちは、すぐに琉球ダンジョンから出てホテルへ。ホテルは琉球ダンジョンから車で15分ほどのところにあるのですぐにホテルに着いた。
ホテルに着いた俺たちは一度部屋へ行き荷物を置くと、すぐに1階ラウンジに集合した。
「はいさい、みんなお疲れねー!」
全員が集まったのを確認すると、ちょっちゅねさんが労いの言葉を掛ける。そして、
「オメガ、今日はいきなりあんなことなってごめんさいねー」
とちょっちゅねさんが謝ってきた。
「いえいえ、別に問題ないですよ。ただ、いきなり喋る魔物が出てきたのはビックリでしたけど⋯⋯あはは」
「ありがとうねー。でも、オメガの言う通りさー。これははっきり言って『異常事態』やんどー」
と、ちょっちゅねさんが真剣な表情でそういうと考え込む仕草を見せる。
「戦乙女のみんなも琉球ダンジョンで喋る魔物を見るのは初めてだったの?」
俺はそのタイミングで戦乙女の皆さんに話しかけた。
「もちろん! ていうか、沖縄に着いた初日はダンジョンに入ってないしね!」
とは有紀さん。聞くと、沖縄入りした昨日は沖縄観光をしたらしい。何それ、いいなー。
「あ、でも⋯⋯観光ていうほどのものでもないです。ホテル近くの地元の食堂っぽいところでご飯食べたくらいですから⋯⋯」
とフォローするように付け足したのは琴乃さん。
「ちょっと、今そういう話は後にしなさい! それよりも⋯⋯カルロスさん、これからどうするんでしょうか?」
と俺たちに注意をしたのは亜由美さん。さすがしっかり者のリーダー。『戦乙女の母性』である。
「そうねー⋯⋯。さっき電話で櫻子に報告したけど、やっぱり『琉球ダンジョンの調査』は必要さー。あ、でも、別にレベルアップの件も聞いているさー。だから、調査とはいってもやることは普段のダンジョン探索と変わらないさー。それに喋る魔物が出たらワンが対処するから問題ないさー」
と、ちょっちゅねさんはすでに櫻子たんと連絡を取っていたらしく、琉球ダンジョンの調査も兼ねることになったという話をした。それに喋る魔物はちょっちゅねさんが対処する⋯⋯とのことだが、
「あーそれには及びませんよ、ちょっちゅねさん」
「ん? どういうことねー?」
「だって、琉球ダンジョンに来た一番の理由は戦乙女のレベル上げですし⋯⋯」
「うん、それは聞いてるさー。でも、上層から喋る魔物が出てきたということはそれ以降の中層からも喋る魔物が出る可能性があるからそれはワンが引き受けるよって話を⋯⋯」
「いえ、そのレベル上げでターゲットにしている魔物が喋る魔物なんで⋯⋯」
「は⋯⋯?」
「「「「「⋯⋯え?」」」」」
俺がサラッとそんなことを言うと、ちょっちゅねさんと戦乙女が呆けた表情を見せる。
「しゃ、喋る魔物が⋯⋯ターゲット?」
「な、なんで⋯⋯?」
と、渚さんと有紀さんが震え声で聞いてきた。
「いやだって喋る魔物は通常の在来魔物よりも『経験値』高いじゃない? だから、喋る魔物を狩りまくれば戦乙女のレベル上げも捗るじゃない? で、実際上層から喋る魔物が出てきたということは、もしかしたらこの後の中層以降も喋る魔物が出てくる可能性高いじゃない? それって、つまりは⋯⋯」
「「「「つ、つまりは⋯⋯?」」」」
「たった一週間で戦乙女さんたちをB級中位⋯⋯いや、B級上位にまで一気にレベルアップができるんじゃないかってことさー!」
と、俺はテンション高めアンドちょっちゅねさんの沖縄方言風にみんなにレベルアップが捗る話を早口で捲し立てた。いやー、きっと『戦乙女』のみんなもレベルアップが捗ることによろこんでくれて⋯⋯あれ?
ポカーーン。
「ど、どうしました、みなさん? ポカーンして⋯⋯」
「え、えーと、オメガ君が私たちのレベルアップをそこまで考えてくれてるのはありがたいんだけど⋯⋯はあ」
「?」
と有紀さんが額に手を当てながらため息混じりに呟くと、
「いや、喋る魔物に私たちが勝てるわけないでしょ!」
と今度は渚さんに激しくツッコまれた。
「そりゃ、オメガ様にとっては喋る魔物は脅威じゃないのかもしんないけど、あたしたちにとっては超格上の相手なのよっ?!」
渚さんがそれはそれはものすごい剣幕で詰めてくる。近い近い⋯⋯あ、でも良い香り。
「そんな相手⋯⋯今の私たちが倒せるはずないじゃない!」
「あ、それは大丈夫です」
「は? 大丈⋯⋯夫?」
「はい。戦乙女の皆さんが喋る魔物に攻撃が通用しない『今のレベル』の間は、俺が喋る魔物を全て倒していくんで⋯⋯」
「「「「⋯⋯え?」」」」
ちなみに、現代のダンジョンは敵を倒したときに得られる『経験値』は、クラン登録した者たちすべてに均等に経験値が振られる。いわゆる『ドラ◯エ方式』だ。
なので、俺が戦乙女が喋る魔物とやりあえるレベルになるまでは俺一人で倒すという話をしたのである。
「そ、そんなことできるわけないでしょ!⋯⋯と言いたいところだけど、オメガさんの言葉ならぶっちゃけできそうな気がして怖い」
「できそう⋯⋯じゃなくてできますよ? そもそも俺はそのために喋る魔物の出没が多いっていわれるこの琉球ダンジョンに来たんですから」
俺がさも当たり前のように話すのを見て、戦乙女のみなさんはどうやら諦めたらしく、
「あーうん。わかった。オメガ君の強さはもはや私たちの常識外だからね。そんな非常識な人に常識な話をしても無意味なことがわかりました」
「えっと⋯⋯あれ? 亜由美さん?」
「「「ソウダネー。オメガダモンネー」」」
亜由美さんを皮切りに、戦乙女の皆さんがどうやら考えることを放棄したようだ。まーオメガのときの俺は力をそれなりに解放して活動するから、これからもいろいろとやらかすだろうことを考えると、今のうちから戦乙女の皆さんには慣れてもらうしかないのでそういう意味では良い機会だったのかもしれないな。
そんな戦乙女とのやり取りが一段落したタイミングで、
「あれ? ちょっと待って?」
亜由美さんが突然何かに気づいたような一言を告げた。