128「異常事態」
本来の上層階層ボスは『巨大ヤシガニ』という魔物だが、しかし目の前にいるのは『喋る魔物』。この喋る魔物も前回の『喋る魔物バロン』と同様、人の形をしていた。
全長はおよそ150センチ前後と大きいわけではないが、しかし、両手が異様にデカい『ハサミ』になっている。まるで『ヤシガニ』のような⋯⋯。
そんな喋る魔物は、いきなり俺に名前を聞いてきて『オメガ』とわかるや否や、襲いかかってきた。
「おっと⋯⋯」
喋る魔物がさっきまで俺が立ってた場所を『大きなハサミ』で抉ると50センチほど陥没させた。
「「「「「オメガ(君)(様)っ!!!!」」」」」
「あ、大丈夫大丈夫」
喋る魔物の不意打ち攻撃に、戦乙女やちょっちゅね具志堅さんが焦った声をあげるが俺は落ち着いた口調で返事を返す。⋯⋯にしても、
「どうしてお前⋯⋯喋る魔物が上層の階層ボスをやってんだ?」
俺はその喋る魔物に問う。
『上司ノ命令。上司ノ命令、ゼッタイ』
うわぁぁ、ブラック企業のそれだぁぁ。
ていうか、さっきから思っていたがこの喋る魔物⋯⋯やたらカタコトで無機質な感じだ。それはまるで、
「ロボット⋯⋯?」
そんな感じだった。
「オメガ、大丈夫ねー」
「ちょっちゅねさん!」
横で、『ちょっちゅね具志堅』改め⋯⋯『ちょっちゅね』さんが寄ってきて声を掛けてくる。
「ところで、ちょっちゅねさん」
「なんねー?」
「この琉球ダンジョンの喋る魔物って、みんな⋯⋯ロボットなんですか?」
「いや、そういうのもいるけどそれは喋る魔物の中でも弱い個体さー。特徴はあのロボットみたいな口調だねー。強い個体は前にオメガが戦った『喋る魔物バロン』のような奴らさー」
「なるほど」
ふむ。喋る魔物にもやはり『序列』みたいなものがあるようだ。
「やしが(だけど)⋯⋯上層からいきなり弱い個体とはいえ喋る魔物が出ることはこれまでなかったし、ましてや、階層ボスみたいに待ち構えているのも初めてさー。ぬーがぬーんち(なにがどーなってる)?!」
と、ちょっちゅねさんも困惑している様子。
「ちなみに、こいつはなんて名前なんですか?」
と、ちょっちゅねさんにこの喋る魔物の名前を聞こうとした時、
『ワタシノ名ハ『シサク10号』。人間ヲ殺スタメニ⋯⋯生マレタ!』
と言いながら、またデカいハサミを振り回しながら襲ってくる。しかし、
ガシャーーーン!
そのデカいハサミは、ちょっちゅねさんの素手によるパンチ一発で破壊された。
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「とりあえず、ここはワンにまかちょーけー(まかせなさーい)!」
そういうと、ちょっちゅねさんが俺の前に立ち、目の前の喋る魔物『シサク10号』と対峙した。当初、共闘という話だったが、
「オメガはさっき沖縄に着いたばかりだし、ましてや喋る魔物と会敵する予定もなかったから、ここはワンだけで対応するさー。で、これが終わったら一度ホテルに戻って現状確認とか報告とかするさー」
とちょっちゅねさんもそう言ってくれるので俺はお言葉に甘える。まぁ、ちょっちゅねさんの戦闘も見たかったのでちょうどよかったではある。
それにしても、この喋る魔物の名前『シサク10号』⋯⋯それって『試作10号』てことなのだろうか?
もしそうだとしたら、この喋る魔物は『人工物』ということになるが、それって女帝マーレが造ったってことになるのだが⋯⋯はて? あいつそんな頭良かったっけ? どちらかというと『脳筋』だったような?
となると、喋る魔物を造ったのは一体⋯⋯?
「⋯⋯白装束の人物」
そういえば、櫻子たんが女帝マーレの横にそんな人物がいると言っていたな。もしかすると、この喋る魔物は、その『白装束の人物』の⋯⋯仕業?
とはいえ、それを確かめる術があるわけではないので確認しようがない⋯⋯という答えに気づくと、俺は考えるのをやめて、ちょっちゅねさんと喋る魔物『シサク10号』の戦闘に目を向けた。
「うりひゃー!」
バキャン⋯⋯っ!!!!
それなりの俊敏な、しかもフェイントも入れたフットワークで襲ってきた喋る魔物『シサク10号』だったが、ちょっちゅねさんは完全に動きを見切っているようでシサク10号の放ったもうハサミ攻撃に合わせて素手の左ストレートを放つとこれまた一撃で破壊。さらにはその左ストレートを放った勢いのまま、今度は回転しながら飛び上がると、
「光速キックさー!」
「!」
空中で回転していた力を利用し、且つ、おそらくこの『光速キック』というのはスキルの『技』なのだろう⋯⋯体が青く発光すると放った蹴りが急加速してシサク10号の体を貫いた。
『グ⋯⋯ゲ⋯⋯』
体を貫かれたシサク10号はそのまま倒れると体が霧散し、直径10センチほどの魔石へと変わった。
こうして、ちょっちゅねさんはあっという間に喋る魔物『シサク10号』を倒したのであった。