119「報告」
「えっ?⋯⋯沖縄!?」
次の日——学校で俺は佐川と理恵たんに櫻子ちゃんに呼ばれて『ギルド主催の若手探索者強化合宿』の一人に選ばれたということと、明日土曜日から沖縄の琉球ダンジョンへ行くことになったと説明。
「ギルド主催の若手探索者を集めた強化合宿⋯⋯ですか」
「そうなんだ」
理恵たんが俺の話を聞いて、何やら考える仕草を見せた。
「それって、なんで選ばれたんだ?」
「え? ああ⋯⋯えーと、なんか若手の中で才能がありそうな探索者を選抜した合宿⋯⋯みたいなものらしい」
「すげー! そんなのに選ばれたのかよ!」
「あ、うん」
佐川が手放しに喜んだ反応を見せる。
「それって、いつまでなんですか?」
「えーと⋯⋯一週間くらいかな?」
「一週間⋯⋯短いですね」
「え? そうか? 強化合宿なんてそんなもんじゃないか?」
佐川が納得する中、理恵たん的には『強化合宿が一週間』というのは短いように思えているようだ。う〜ん、なんでだろ? 俺的にも「強化合宿なんてそんなもんじゃない?」と佐川と同じように思っていたので意外だった。
「てことは、来週いっぱいまで『英雄旅団』でのダンジョン探索は休みになりますね」
「すまん、二人とも。クラン結成した矢先にいきなり参加できなくなってしまって⋯⋯」
「え? でも、タケル抜きで俺と雨宮でダンジョン探索すればいいんじゃないか?」
お? 佐川が何やらやる気になってるな。たぶん昨日のゴブリンナイトとの戦いで自信をつけたんだろう。たしかに、レベルも上がったし、さらにはスキルも増えて実力が上がったから探索に行きたがってるんだろう。でも⋯⋯、
「いえ、それは無理ね」
「え? なんでだよ?」
「だって、あんた今日から|雨宮バリューテクノロジー《ウチ》で『精密検査』受けることになってるから」
「え? 精密検査?」
「そうよ。昨日、佐川のスキルが増えたことや、急激な体の変化を柑奈さんに話したら健康チェックが必要だって⋯⋯。それに佐川は私やタケル君のクラン仲間でもあるから心配だって⋯⋯。それで柑奈さんが直々に調べるって言ってたわ」
「⋯⋯」
なるほど。如月さん⋯⋯昨日理恵たんに『佐川の体が心配だから』という名目で説明したのか。
「ええ! お、俺の健康チェックを、あの天才如月さんが直々に! マ、マジかよっ?!」
「何? 怖いの?」
「嬉しいに決まってるだろ! うわー、あの天才如月さんが俺のためを思って⋯⋯。な、なんか、信じられねーよ」
「⋯⋯」
なるほど。佐川のこの反応は如月さんが言ってた『佐川は私を全力推ししてる』というやつか。うんうん、これは完全に如月さんの『手のひらコロコロ』待ったなしだね。
「まー佐川も用事があるので、どのみち『英雄旅団』での探索活動は再来週からってことになりますね」
「理恵たんはどうするの?」
「私は個人チャンネルがあるので、その配信をやろうかと思っています」
「そっか。理恵たんは人気Dストリーマーだもんね」
「い、いえ、そんな!? わ、私なんて、オメガに比べれば⋯⋯」
「え? オメガ?」
「あ! い、いえ?! と、とにかく! 各々頑張りましょうね!」
「おう!」
「うん!」
とりあえず、二人とも俺が沖縄に行くことをそこまで不自然には感じていなくてよかったよ⋯⋯ホッ。
そうして、俺は二人への報告を無事終えた。
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「「「えっ?! 土曜から沖縄!」」」
「あ、ああ」
放課後、今度は家に帰って家族へ報告をした。
「また急ねぇ〜。でも旅費とかホテル代とかはどうなるのかしら?」
「あ、大丈夫だよ、母さん。そういうのは全部ギルドで出してくれるから」
「えっ! そうなの?!」
「うん。一応、強化合宿はギルドの都合だからってことで出してくれるみたいなんだ」
「太っ腹ね〜。でも、現地ではガイドさんとか保護者みたいな人はいるのかしら?」
「うん。現地でダンジョン探索のエスコート兼世話係のスタッフを準備してるみたい」
「そう。それなら安心ね」
母さんが俺の話を聞いてホッと胸を撫で下ろした。ふ〜、どうやら信じてくれたようだ。まぁ、実際現地では本当にダンジョンのエスコートや世話係が用意されているのは事実である。
「でも、タケル兄ぃがそんな若手探索者の強化合宿の一人に選ばれるなんてすごいね!」
「い、いや〜⋯⋯ははは」
と、亜美がそんなことを言ってきた。一瞬、怪しんでいるのかと思ったがどうやら単純に選ばれたのがすごいと思っているだけのようだ。助かっ⋯⋯、
「でも、タケル兄ぃ⋯⋯探索者になってまだ昨日の1回しか活動していないのに、そんなのに選ばれるなんてすごいね」
ドキー!
「え、えーと、う、運が良かった⋯⋯のかな?」
亜美の言葉に安心していると、不意に由美がそんな鋭いことを言ってきた。ていうか、何やら含みさえ感じる。
あ、あれ? なんか⋯⋯疑ってる?
「⋯⋯そっか。そうなんだ。よかったね」
「あ、う、うん⋯⋯」
セ、セーフ!⋯⋯だよね?
このまま由美と話していると、何だかボロが出そうというか危ない感じがしたので、
「じゃ、じゃあ、俺、部屋で荷物の準備してくるよ⋯⋯!」
と言って、全力でその場から退散した。