117「かくして明かされる秘密(3)」
「さっき、櫻子ちゃんが雨宮バリューテクノロジーに声をかけたって言ってたけど、そのきっかけって、もしかして⋯⋯例のアレが現れたから?」
俺は、櫻子ちゃんに『女帝マーレ』と言葉を濁して聞いてみた。しかし、
「ん? ああ、お主の言う通り⋯⋯女帝マーレが現れたからじゃ」
「いや、それ言っていいの!?」
俺がわざわざ濁していったのに⋯⋯言ったのにぃぃ!
「ああ、悪い悪い。ワシもその話はお主にはまだしていなかったの。実は、如月は女帝マーレのことも知っているし、『時空間転移魔法陣』の話も知っている。というか、すべて話しておる」
「マ、マジ⋯⋯!? で、でも、それって⋯⋯大丈夫なの?」
「ん? ああ、もちろん⋯⋯最初は小出し小出しじゃったぞ? なんせ、この世界はワシにとっては完全な異世界じゃからな。お主だって、ワシらがいる異世界に転移してきた最初は慎重じゃったじゃろ?」
「もちろん」
「ワシも同じじゃ。じゃが、その後女帝マーレが現れてからは、ワシ一人ではどうにもならんことを悟っての。それで、ダンジョン探索者としてこの世界と深く関わることを決めたのじゃ」
「⋯⋯そうだったんだ」
「まー、一種の賭けみたいなもんじゃった。なんせ、ワシを『異世界の人間』とわかったとき、この世界の人間はワシをどう扱うのか⋯⋯わからないからの」
「⋯⋯ああ。俺も最初のうちはその恐怖が浮かんだから、正体を明かさないよう、目立たないように⋯⋯て、異世界で生きていたからな」
「うむ。しかし、ワシは幸運にも日本のこの池袋ダンジョンに転移してきたあと、すぐにこの日本の探索者に出会い助けてもらい、その後もいろいろとよくしてもらったのじゃ。そして、女帝マーレが出現後悩んでいたワシに『如月』を紹介したのもその現代に来た最初に助けてもらった探索者からじゃった」
「へー、この世界に来て最初に出会った探索者って、すげえ人間できてる人なんだな〜」
「まーな。ただ、普段のそいつは昔も今も素直じゃないがの。『ツンデレ』というやつじゃな」
「ははは、なるほど」
なんかすごい良い人そうだな。少なくとも櫻子ちゃんはその人に絶大な信頼を置いているようだ。
「まー、お主にも今度紹介するからの」
「ああ、頼むよ」
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「あとは、そうじゃのー⋯⋯『雨宮バリューテクノロジー』の雨宮 貞徳は知っておるか?」
「も、もちろん! 雨宮バリューテクノロジーのCEOっていう社長みたいな人だろ?!」
あと、理恵たんのパパンね。
「うむ。まーそんな感じじゃ。ちなみにそいつもこの如月同様、ワシの正体も、異世界の話もすべて知っておる人物じゃ」
「ええっ!?」
ん? ちょっと待て?
「えーと⋯⋯それってまさか⋯⋯俺のことも知っているってこと?」
「ん? ああ、もちろんじゃ!」
「えええええええ!」
マ、マジかよ。てことは、理恵たんの家であったときにはすでに俺が異世界から帰ってきた⋯⋯何なら異世界で英雄扱いされてたとか、そんなことも知っていたってことだよね?
穴があったら入りたい。
ていうか、待てよ?!
理恵たんパパンも如月さんも知っているってことは、もしかして⋯⋯、
「あ、あの⋯⋯如月さん?」
「ん? 何かな?」
「も、もしかして、理恵たんも俺のことを知って⋯⋯」
「いや、知らないよ」
食い気味に即答で返ってきた。
「そうなんですか?」
「ああ。この話はあくまで『上層部』⋯⋯しかもその中の一握りの人間⋯⋯つまり、雨宮バリューテクノロジーでいえば、私と雨宮 貞徳と奥さんしか知らない。まーそれに、タケル君が異世界に転移して向こうで英雄になって戻ってきたなんて⋯⋯そんな荒唐無稽な話、誰も信じないのが普通ではあるけどね」
デスヨネー。
ていうか、俺だってそんなの他人から説明されたら「この人とは距離を置こう」て思うし!
「ただ、お嬢⋯⋯理恵はタケル君のことを疑っているとは思うよ。いや、疑っている⋯⋯というのは語弊があるか。タケル君を『強者じゃないか』てことに勘づいているよ」
「え? そう⋯⋯なんですか?」
「ああ。少なくとも、君が開示している結城タケルのステータスを彼女は疑っている。厳密に言うと、ステータスの情報だけでは窺い知れない何らかの強さを持っている⋯⋯と感じているよ」
「⋯⋯!」
さ、さすが、理恵たん⋯⋯鋭い。
そんな、タケルが如月の話を聞いて感心している中、その対面にいる如月は、
(私の口からお嬢や佐川がタケル君がオメガであることを知っていることは話したいけどな〜。でも、それだと面白くないからな〜。タケル君にはもうちょっとお嬢と佐川君と『結城タケル』としての探索者仲間としていろいろ見てみたいんだよね〜)
ということで、如月は『タケルがオメガの正体であること』を自ら語ることは止め、雨宮 理恵と佐川が告白するその日を楽しみに待つことを決めたのだった。