かくして明かされる秘密(1)
「おい、如月! お主、さっき電話を切ったばかりじゃったのになんでこんな来るのが早いのじゃ?」
「フフン、虫の知らせってやつ?」
「意味がわからん」
「まーたまたまだよ、たまたま。ちょうど私も相談したいことがあってね。でも、まさかこういうことになっていたとはね。まったく世の中はまだまだわからないことだらけだ。あっはっは!」
と、二人が仲良く話をしているが、俺はもちろんそんな気分ではない。ということで、
「な、なにが、一体どうなってんだよぉぉぉ!!!!」
そんな気持ちを叫んでみた。
「あっはっは! そうだよね。タケル君からしたら意味不明だよね」
「これは⋯⋯一体どういうことなんですか?! ていうか、櫻子ちゃんとはどういう関係なんですか?」
「どういう関係って⋯⋯⋯⋯なぁ?」
「いや、『なぁ?』じゃないわ! 紛らわしい言い方をするでない! 単なる『協力者』⋯⋯ビジネスパートナーじゃ!!」
「てことは⋯⋯如月さんは『異世界』の話とか、櫻子ちゃんが異世界出身ということも⋯⋯」
「もちろん知ってるとも! ていうか、櫻子がエルフ族の元長老だということも知ってるし、なんならタケル君が地球から異世界に行って戻ってきたことも知ってるよ」
「なっ?!」
「あと⋯⋯今、櫻子とタケル君がやろうとしている『時空間転移魔法陣の開発』もね」
「そ、そこまで⋯⋯っ!!!!」
俺は「だ、大丈夫〜?」という表情で櫻子ちゃんのほうをチラ見する。
「まーそういうことじゃ。ていうか、ワシなんてしょせん異世界のエルフじゃぞ?『時空間転移魔法陣』を作るなんてできるわけなかろう? じゃから、この世界特有の概念⋯⋯『科学』とワシの魔法知識や異世界知識を使って『時空間転移魔法陣』の開発を考えたのじゃ」
「な、なるほど⋯⋯」
「そこで、ワシはこの世界の『科学に秀でた者』を探しておっての。それで見つけたのがこの『如月 柑奈』であり『雨宮バリューテクノロジー』というわけじゃ」
そう、説明する横では如月さんが「フンス!」と胸を反らして櫻子ちゃんと同じようなドヤ顔をする。⋯⋯が、胸だけは櫻子ちゃんとは相反した豊満ボデーだったため、胸を反らしてのドヤ顔モーションはかなりの破壊力だった。
「おい、タケル⋯⋯。お主いま、ワシに対してすごく失礼なこと考えていなかったか?」
すると、ここで櫻子の『のじゃロリセンサー』が発動した模様。
「ソンナコトナイデス」
そして、それを華麗に受け流す俺。
そんな『お約束』という日本の伝統芸能が一段落した後、
「では! 早速伺いましょうかねぇ⋯⋯『覚醒ポーション』の話をさ!」
如月さんがワクワク⋯⋯いや、顔を紅潮させ「ハアハア」と息遣い荒く瞳孔バキバキなソレは、ワクワクというより、むしろ『狂気の沙汰』そのものの表情で俺を凝視していた。やだ、怖い!?
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「なるほどぉ! 凄い! 凄いよ、異世界っ!!」
俺が『覚醒ポーション』の話を一通り話し終えると、如月さんのボルテージが右肩上がりに一気に加速した。
「それで⋯⋯どうじゃ、如月? これを量産することは可能かの?」
「う〜ん⋯⋯そうだねぇ。まだ何とも言えないというのが本音かな」
「何とも言えないっ?!⋯⋯⋯⋯そ、そうか。そうなのか」
「ああ。これまでの体力回復ポーションや魔力回復ポーションとは『似て非なる物』だからねぇ⋯⋯」
櫻子ちゃんが如月さんの回答にショックを受けていた。ていうか、そんなリアクションが出たということは、櫻子ちゃん的には如月さんなら作れるとかなり自信を持っていたということか⋯⋯。それだけ如月さんの能力を信用しているんだなぁ。
ちなみに、如月さんの話ではこの覚醒ポーションは体力回復ポーションや魔力回復ポーションと違い、『身体能力そのものを上昇させる効果』なので、量産化どころか解析自体もかなり難しくなるだろう⋯⋯とのこと。
如月さんの言葉に、俺ももちろんだが俺以上に櫻子ちゃんがかなりショックを受けている。無理もない。「如月さんなら絶対に作れる!」と揺らぎない自信を持っていたのだろうから⋯⋯。
そんな暗く重い空気が漂う中、
「しか〜し! この解析の『突破口』となる大きな可能性が一つだけある!」
「「えっ!?」」
突如、如月さんがテンション高くそんなことを言い出した。
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「解析の⋯⋯突破口?」
「一つの⋯⋯大きな可能性?」
俺と櫻子ちゃんが無意識にそう呟く中、如月さんは特に意に介さず説明を始めた。
「うん。ほら、さっきタケル君が話してたじゃない? 佐川君に覚醒ポーションを使ったって」
「⋯⋯あ」
「すでに覚醒ポーションを使用したサンプル⋯⋯もとい! 佐川君がいれば解析ができるかもしれない!」
おいおい、いま佐川のこと『サンプル』つったぞ、如月さん。まー俺がツッコむのもあれだが⋯⋯。
「おお、そうなのか! それではすぐにでも、その『サンプル君』に協力をお願いするのじゃ!」
おいおい、櫻子ちゃんにいたってはいよいよ『サンプル君』とはっきり言ったぞ。まー重ね重ね、俺がツッコむのもあれだが⋯⋯。
「で、でも、佐川になんて言って協力してもらうんですか?」
「人間の無限の可能性への一助!(キリッ!)」
「お主は選ばれた人間じゃ!(キリッ!)」
うわぁ⋯⋯『物は言いよう』とはまさにこのことだぁぁ。
「大丈夫! 私を『全力推し』する佐川君なら一つ返事さ!」
「あー⋯⋯うん」
うん。たしかに、一つ返事で快諾するさがえもんが見えるわぁ。
「ということで、この件は私に任せてくれたまえ!」
「うむ。頼んだぞ、如月!」
「佐川をよろしくお願いします」
そして俺もまた、悪魔に魂を売ったのは言うまでもない。
こうして『覚醒ポーション』、さらには『副作用解除ポーション』の解析・量産化への目処が立った。